【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
35 / 100

35.無事だった記憶と聖女宣言

しおりを挟む
「落ち着け、記憶は残っている。問題ない」

 囁くアゼスの言葉に頷く。大丈夫、問題ない、落ち着こう。言われた言葉を何度も繰り返して、深呼吸する。混乱してもどうにもならないんだから。そんな私を痛ましそうに見つめたリディが口を開こうとしたところで、大きな咳払いが聞こえた。

 あ、放置しっぱなしだった。

 忘れ去られた貴族達が、そわそわしている。私よりアゼスの表情を窺ってるのは当然だけど、きちっと立って右手で左胸を押さえるような所作は、敬礼の一種みたい。よく見たら、胸じゃなくて肩に近いか。肩に房のあるマントの金具があるから、そこを避けた形かも。観察する私をアゼスが正面に向けて抱き直した。

「無事のご帰還、誠におめでとうございます。皇帝陛下、皇后陛下。皇女殿下のご挨拶を賜りたく、臣下一同集まっております」

 私の挨拶? 振り返ると、リディがへにょりと眉尻を下げた。美女のきりりとした眉が下がると、なんだか可愛いのね。知らなかったわ。新たな発見で現実逃避する私へ、アゼスが耳打ちする。

「挨拶はどうする? やめておくか」

「どっちがいい?」

 皇后陛下だと知らずにリディの養女になった私だけど、皇女殿下と呼ばれてもピンとこない。だけど、これからお世話になる人達なら、挨拶すべきだと思う。

 アゼスの膝の上でもそもそと姿勢を直し、ぺこりと頭を下げた。

「サラです。よろしくお願いします」

「「「皇女殿下に幸いあれ」」」

 ざざっと音がして、貴族が一斉に頭を下げた。少し待っても上がらないので後ろを振り向くと、アゼスが声を上げた。

「よい、楽にせよ」

 あ、これ知ってる。テレビで観た時代劇で、殿様が言ってた……ん? 記憶、残ってる?? 芋づる式に引っ張り出される記憶が、大岡裁きまで一気に展開した。よかった、私の記憶は残ってる。

「この子は我が妻リュディアーヌ、水のエルネスト、風のアランと契約を結んだ聖女である。もちろん、我も契約済みだ」

 得意げに紹介されて、聖女の肩書きが確定した瞬間だった。

「聖女?」

「そう、聖女だ。聖獣と契約した女性を聖女という。男性なら聖人だな」

 なるほど、それなら聖女だね。じゃなくて! 貴族の人の尊敬の眼差しが、きらきらと注がれて痛いくらい。皇帝陛下の娘になる話もあっという間に承認された。謁見の広間は、大きな決め事の採決を取ったりするんだね。偉い人が上からしゃべるだけの場所かと思ってた。

「そんなことないわ。ここで夜会をして、ダンスを踊ることもあるのよ」

 確かに広いし、左側の壁は可動式みたい。あれを広げると、隣の部屋に繋がる仕組みがあるのかも。日本の古民家にありそう。記憶が一度途切れたけど、繋がればまた普通に呼び出せる。さっきのは何だったのかな。すごく怖かった。

 自分の肩を抱いて身を震わせる。するとアゼスの腕から私を奪ったリディが、優しく包んでくれた。柔らかくて温かくていい匂いがする。

「今夜は祝いの席を設ける! 参加せよ」

 いきなりの命令に、貴族達はさっと頭を下げて一礼し、順番に退出していく。青ざめた宰相が段取りに走り出し、侍従達もあたふたと動き出した。今夜で、準備間に合うの?

「間に合わせるのが帝国の力よ。サラちゃんのドレスも用意しなくちゃ!」

 あ、夜会ならアラン達にも伝えなくちゃね。普段着で来たらドレスコードに引っかかりそうだもん。ふふっと笑った私に、頬擦りするリディが「そんな姿、見てみたいわ」と呟いた。
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...