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25.皇帝陛下のお出ましである

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 巨大狐と黒豹、熊まで下敷きにした私はもちろん無傷だった。ふっかふかのクッションで受け止められ、大切そうに抱き込まれた後……取り合いになる。でも「いたっ」と声を上げたら、すぐに全員が本当のお母さんになった。大岡越前ってすごいな。

「イチゴ美味しかった。お料理した人にお礼してね」

「もちろん、きっと喜ぶよ」

 エルの屋敷だから、彼が雇った料理人だよね。たぶんイチゴに練乳みたいな物を足したと思う。まろかやで美味しかった。甘いものでお腹を膨らませた私は、狐リディの毛皮を撫でながら一休み。食べてすぐに寝ると牛になると言ったら、この世界では大丈夫と保証された。

 本物の牛じゃないんだけどね。比喩表現っていうの? まあ、いいや。比喩表現って単語も通じなかったから。聖獣と契約して自動翻訳になったけど、ときどき通じない単語があるのは仕方ない。この世界にない概念や単語は翻訳できないと思うし。

 はふっと欠伸をして、目を閉じる。目蓋を透かして木漏れ日が踊るのが、すごく好き。こういう状況は最高の贅沢だよね。

「リディ!! 我が愛しのリディはどこぞ!!」

 耳に心地よいバリトンが、何か叫んでる。うっすら目を開けるのと、リディが身動ぐのが同時だった。頭をのそりと持ち上げたリディが「ここよ」と応じる。小声なのに聞こえたみたい。

「ここ? おお! 我が最愛よ、いつまでも帰って来ないので心配したぞ……ん? この愛らしいのは我らの愛の結晶か?」

「そうよ」

 え? 今のおかしい人、リディの知り合いなの? というか、愛の結晶って普通に使うんだ。感想を心で呟いた途端、エルがぶっと吹いた。穏やかな笑みを浮かべるアランの口元も、ぴくぴくしていた。どうやら禁句を呟いたらしい。

「サラちゃん、私の養女にした幼女よ。あなたの娘」

 駄洒落? え、この人はリディの旦那様なんだ。いろいろびっくりな夫婦だな。ある意味お似合いというか、類は友を呼ぶんだね。

「サラちゃん、ルイってだれ?」

「……前の世界の知り合い」

 ごめん、嘘をつきました。でも他に説明しようがなくて。大股で近づく男性は、高そうな刺繍の入った服を着ている。背が高くて、まるで熊みたいだけど。熊はエルだし。見た感じ、アランより頭二つくらい大きかった。

「ふむ、こちらに参れ。サラ」

 グローブを嵌めたみたいに大きな手が、私の体を軽々と持ち上げた。抱き上げられて顔が近づくと、彼の大きさにびっくりする。顔や頭も大きいけど、身長がすごく高い。怖いくらいだった。

「皇帝である俺の娘か、ならば今日からサラ姫と名乗るが良いぞ」

 偉そうな話し方は素みたい。皇帝陛下だから、威厳とか必要なのかも。ぐりぐりと頭を撫でる手は温かかった。金銀の刺繍がされた黒い服は手触りが良く、お金持ちっぽい。まさか、また聖獣だったりする? この世界に4人いるって聞いたけど。

「あなた、サラちゃんは私と契約した主君なの。大切にしてね」

 リディの暴露に、アランやエルも同様だと口にする。3人と契約したと聞いて、皇帝陛下のお顔が曇った。
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