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15.聖獣とは幼女に群がる変態か
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朝食を手で食べる。今朝はトルティーヤのような平べったい薄焼きパン? と野菜や肉だった。私が食べやすいご飯を選んでくれたのかな。
ちらりと視線で窺った先で、リディはにっこり笑う。あの時の質問には「分からないわ」とリディは悲しそうに呟いた。向こうの世界に戻してあげることも、どんな状況か知ることも出来ない、と。たぶんね、あの顔は何か知ってる。でも私に言えないなら、知らないでいい。
お父さんやお母さんとは違うけど、リディ達は私の家族と同じ。契約したら私が死ぬまで一緒にいるんだって。もちろん四六時中という意味じゃなく、家族の距離感が近かった。親しく一緒に暮らして、時に離れることもある。でも繋がる存在……私が知る単語に当てはめると家族だった。
戻れないなら、向こうの世界の私の遺体を確認できないけど……山歩きの途中だったから、転げ落ちて発見できない方がいいな。傷だらけや動物に食い荒らされた残りが発見されると、両親が可哀想。娘がそんな死に方したら、きっと悔やむと思うから。いつの間にかいなくなった感じで、フェードアウトしてたら最高だった。なんなら、両親から私の記憶を消してくれてもいい。
くるくると巻いた刻み野菜と肉は、腕の太さになっていた。ちょっと欲張りすぎた? 考え事してると、具をどんどん詰めちゃうみたい。困ったけど、ここは勢いよく齧るしかないか。
「サラ様、こちらと交換してくださいませんか」
アランがさっと私の手から太巻きを奪う。代わりに片手で握れるサイズのトルティーヤを返してくれた。ちゃんとソースも掛かってる。
「ありがとう、アラン。サラと呼んで」
「かしこまりました、サラ」
「敬語はなしで」
「それは無理ですね」
困ったような顔をして、アランが笑う。手元の太巻きを解体し、あっという間に3本に分けた。やっぱり食べづらい太さだったのかな? と反省しかけた私の前で、リディが手を伸ばす。向かいに座るエルも身を乗り出した。
3本あるのに、1本を巡って争い続ける。無言の攻防は、アランが齧ったことで決着した。今の、何?
「負けたわ、私に譲ってくれてもいいじゃない」
「そうだ、俺は領主で偉いんだぞ」
リディとエルが負けたと悔しがる。何を競ってたのよ。残った2本をそれぞれに手に取り食べ始めた。
「自分で巻いたらいいのに」
「そうじゃないわ! サラちゃんの手が触れた薄焼きよ? 私が食べたかったの」
「俺も同じだ。ご主人の手が触れた薄焼きは、きっと格別な味がする」
変態か! じゃなくて……それなら簡単じゃない。私はよいしょと立ち上がり、隣のリディが齧ったトルティーヤに触れる。それから向かいへ行こうとして、足場に迷った。ご飯を踏まないのは難しいかな。目を輝かせたエルが差し出したトルティーヤを撫でる。
「これでいい?」
「……奥様は昨夜も今朝もサラを独り占めしてお話しする機会があったはず。エルもサラの口に入る食材を吟味するチャンスがあったのに、僕はお着替えすら手伝えなかったのに」
ぶつぶつ文句を言うアランを手招きし、手を伸ばして頭を撫でた。撫で撫でと動かした途端、アランがうっとり目を閉じる。大人だけど可愛いな。
「ありがとうございます」
微笑んだアランに満足して、背伸びした手を戻す。握り込むと何かがべとっとして……あ、トルティーヤのソースだ。見上げると、ソース付きのアランが微笑んでいた。ごめん、ちゃんと拭いてください。
ちらりと視線で窺った先で、リディはにっこり笑う。あの時の質問には「分からないわ」とリディは悲しそうに呟いた。向こうの世界に戻してあげることも、どんな状況か知ることも出来ない、と。たぶんね、あの顔は何か知ってる。でも私に言えないなら、知らないでいい。
お父さんやお母さんとは違うけど、リディ達は私の家族と同じ。契約したら私が死ぬまで一緒にいるんだって。もちろん四六時中という意味じゃなく、家族の距離感が近かった。親しく一緒に暮らして、時に離れることもある。でも繋がる存在……私が知る単語に当てはめると家族だった。
戻れないなら、向こうの世界の私の遺体を確認できないけど……山歩きの途中だったから、転げ落ちて発見できない方がいいな。傷だらけや動物に食い荒らされた残りが発見されると、両親が可哀想。娘がそんな死に方したら、きっと悔やむと思うから。いつの間にかいなくなった感じで、フェードアウトしてたら最高だった。なんなら、両親から私の記憶を消してくれてもいい。
くるくると巻いた刻み野菜と肉は、腕の太さになっていた。ちょっと欲張りすぎた? 考え事してると、具をどんどん詰めちゃうみたい。困ったけど、ここは勢いよく齧るしかないか。
「サラ様、こちらと交換してくださいませんか」
アランがさっと私の手から太巻きを奪う。代わりに片手で握れるサイズのトルティーヤを返してくれた。ちゃんとソースも掛かってる。
「ありがとう、アラン。サラと呼んで」
「かしこまりました、サラ」
「敬語はなしで」
「それは無理ですね」
困ったような顔をして、アランが笑う。手元の太巻きを解体し、あっという間に3本に分けた。やっぱり食べづらい太さだったのかな? と反省しかけた私の前で、リディが手を伸ばす。向かいに座るエルも身を乗り出した。
3本あるのに、1本を巡って争い続ける。無言の攻防は、アランが齧ったことで決着した。今の、何?
「負けたわ、私に譲ってくれてもいいじゃない」
「そうだ、俺は領主で偉いんだぞ」
リディとエルが負けたと悔しがる。何を競ってたのよ。残った2本をそれぞれに手に取り食べ始めた。
「自分で巻いたらいいのに」
「そうじゃないわ! サラちゃんの手が触れた薄焼きよ? 私が食べたかったの」
「俺も同じだ。ご主人の手が触れた薄焼きは、きっと格別な味がする」
変態か! じゃなくて……それなら簡単じゃない。私はよいしょと立ち上がり、隣のリディが齧ったトルティーヤに触れる。それから向かいへ行こうとして、足場に迷った。ご飯を踏まないのは難しいかな。目を輝かせたエルが差し出したトルティーヤを撫でる。
「これでいい?」
「……奥様は昨夜も今朝もサラを独り占めしてお話しする機会があったはず。エルもサラの口に入る食材を吟味するチャンスがあったのに、僕はお着替えすら手伝えなかったのに」
ぶつぶつ文句を言うアランを手招きし、手を伸ばして頭を撫でた。撫で撫でと動かした途端、アランがうっとり目を閉じる。大人だけど可愛いな。
「ありがとうございます」
微笑んだアランに満足して、背伸びした手を戻す。握り込むと何かがべとっとして……あ、トルティーヤのソースだ。見上げると、ソース付きのアランが微笑んでいた。ごめん、ちゃんと拭いてください。
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