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10.契約って一方的に出来るんだね
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痛いと言ったら離してもらえたけど、落下はどうしたら? お腹の辺りがひゅんとして鳥肌が立った。これは尻から落ちて痛いやつ!
覚悟して身を丸めた私は、ふんわりした何かの上に落ちた。柔らかい。奥様の尻尾に似てるけど、香りが違う。ほっとして脱力した私は、するりと滑り降りた。振り返ると、熊……くま、ベアーって呼ぶのかな。とにかく熊っぽい動物だ。
綺麗なキャラメル色の小熊は、くるんと丸い大きな黒い瞳で私を見つめた。じっと見つめ返す。と、熊はぽっと頬を赤く染めた。人のような外見じゃないのに、なぜかそう感じてしまう。可愛いやつ。お腹で私を受け止めた熊は、人間の大人よりやや小さい。
「あ、ごめんね」
いつまでも腹に寄りかかってはいけないと離れた。奥様が「ごめんなさいね」と言いながら私を抱き上げる。頬擦りされて擽ったい気持ちになった。こんなの、すごい久しぶりだな。お母さんが頬擦りして抱き締めてくれたのは、幼い頃のぼんやりした記憶だけ。
柔らかくて温かくて、お母さんみたい。抱き締め返した私は、熊にお礼を言った。どこへ行っても、これは通用すると思うんだ。感謝と挨拶が出来る子は嫌われない。
「熊さん、ありがとう」
「いやいや。触れた時に契約したから、今後は気軽にエルネストと呼んで」
からりと笑って告げる熊を凝視する。契約? それ以前に、驚くべきところがあった。熊が喋ってる……。
「酷いな、狐や豹とは契約したんでしょ?」
男の子と言った口ぶりで告げる熊は、くるっと回り姿を変えた。背の高いアランさんより頭半分くらい低い男性。年齢は若くて、成人前かな。この国の成人が分からないから、日本人の感覚だけどね。
契約って一方的に出来るんだね。奥様やアランさんが聞いてくれたから、私が応えないと成立しないんだと思ってた。この世界、ちょっと危険かも。
「契約したの? やだわ、私の大切なご主人様なのに」
「ねえ、この人誰?」
「エルネストは、この街バーベナの領主よ。聖獣の中では変わり者で通ってるわ」
情報が多過ぎて眩暈がしそう。バーベナの領主は、この立派な屋敷で納得できる。そんな人が熊で、もふもふで、ふかふかで、変わり者の聖獣――成獣じゃないよね? すでに奥様とアランさんが契約してるのに、なぜ。
「混乱しちゃったかしら。エルネスト、部屋を用意しなさいよ」
「リュディアーヌ、なぜ君が偉そうなんだい?」
「ふふっ、私が第一の聖獣だからよ」
悔しそうなアランさんとエルネストさんに、奥様は胸を張った。大きくて柔らかな胸を突き出し、ふふんと鼻で笑う。こういう仕草って、美人は様になるのね。それより、奥様のお名前初めて聞いたわ。
リュディアーヌさん……長くて舌を噛みそう。
「リディでいいわ。エルネストも……そうね、エルに縮めましょう」
「ご主人様が呼ぶならいいけど、君が呼ぶのは腹が立つ」
言い争う二人に、私はおずおずと声をかけた。
「あの……お腹空いたんで、ご飯もらっていいですか」
ぐぅ。タイミングを合わせたように腹が鳴り、言い争いはぴたりとやんだ。慌ただしく屋敷の中を移動する3人、私が歩いたら追いつけなかったと思う。奥様に抱っこされてて助かった。
「すぐに用意させるから、ひとまずこちらへ」
案内された部屋は、全体にピンクで彩られた花模様の可愛い客間だった。
覚悟して身を丸めた私は、ふんわりした何かの上に落ちた。柔らかい。奥様の尻尾に似てるけど、香りが違う。ほっとして脱力した私は、するりと滑り降りた。振り返ると、熊……くま、ベアーって呼ぶのかな。とにかく熊っぽい動物だ。
綺麗なキャラメル色の小熊は、くるんと丸い大きな黒い瞳で私を見つめた。じっと見つめ返す。と、熊はぽっと頬を赤く染めた。人のような外見じゃないのに、なぜかそう感じてしまう。可愛いやつ。お腹で私を受け止めた熊は、人間の大人よりやや小さい。
「あ、ごめんね」
いつまでも腹に寄りかかってはいけないと離れた。奥様が「ごめんなさいね」と言いながら私を抱き上げる。頬擦りされて擽ったい気持ちになった。こんなの、すごい久しぶりだな。お母さんが頬擦りして抱き締めてくれたのは、幼い頃のぼんやりした記憶だけ。
柔らかくて温かくて、お母さんみたい。抱き締め返した私は、熊にお礼を言った。どこへ行っても、これは通用すると思うんだ。感謝と挨拶が出来る子は嫌われない。
「熊さん、ありがとう」
「いやいや。触れた時に契約したから、今後は気軽にエルネストと呼んで」
からりと笑って告げる熊を凝視する。契約? それ以前に、驚くべきところがあった。熊が喋ってる……。
「酷いな、狐や豹とは契約したんでしょ?」
男の子と言った口ぶりで告げる熊は、くるっと回り姿を変えた。背の高いアランさんより頭半分くらい低い男性。年齢は若くて、成人前かな。この国の成人が分からないから、日本人の感覚だけどね。
契約って一方的に出来るんだね。奥様やアランさんが聞いてくれたから、私が応えないと成立しないんだと思ってた。この世界、ちょっと危険かも。
「契約したの? やだわ、私の大切なご主人様なのに」
「ねえ、この人誰?」
「エルネストは、この街バーベナの領主よ。聖獣の中では変わり者で通ってるわ」
情報が多過ぎて眩暈がしそう。バーベナの領主は、この立派な屋敷で納得できる。そんな人が熊で、もふもふで、ふかふかで、変わり者の聖獣――成獣じゃないよね? すでに奥様とアランさんが契約してるのに、なぜ。
「混乱しちゃったかしら。エルネスト、部屋を用意しなさいよ」
「リュディアーヌ、なぜ君が偉そうなんだい?」
「ふふっ、私が第一の聖獣だからよ」
悔しそうなアランさんとエルネストさんに、奥様は胸を張った。大きくて柔らかな胸を突き出し、ふふんと鼻で笑う。こういう仕草って、美人は様になるのね。それより、奥様のお名前初めて聞いたわ。
リュディアーヌさん……長くて舌を噛みそう。
「リディでいいわ。エルネストも……そうね、エルに縮めましょう」
「ご主人様が呼ぶならいいけど、君が呼ぶのは腹が立つ」
言い争う二人に、私はおずおずと声をかけた。
「あの……お腹空いたんで、ご飯もらっていいですか」
ぐぅ。タイミングを合わせたように腹が鳴り、言い争いはぴたりとやんだ。慌ただしく屋敷の中を移動する3人、私が歩いたら追いつけなかったと思う。奥様に抱っこされてて助かった。
「すぐに用意させるから、ひとまずこちらへ」
案内された部屋は、全体にピンクで彩られた花模様の可愛い客間だった。
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