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6.意外と人は図太く計算高い
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アランさんが用意してくれた料理は、鍋で煮込まれたスープ。器に盛られたスープには、肉が入っていた。悪夢みたいなあの光景が本物なら、この肉って……まさか、ね。
二人の顔を交互に見て、もう一度スープを睨む。ここでうっかり指摘すると、御伽噺みたいに頭から齧られるのかな。知らないフリしてて、夜中に逃げるのが正しい気がする。でも優しいんだよね。幼くなった今の私が、保護者なし生活は無理だと思うし。
あれこれ考える私に、奥様が笑顔で少し先を指差した。
「安心して。あそこに骨があるけど、鳥の肉よ。サラちゃんに人肉は早いわ」
ずっと早いと思っていてください。心からそう願い、そっと口を付けた。スープの味は鶏ガラ系だけど、ハーブが入ってないから味を濃く感じた。鶏肉を塩胡椒して煮ただけ。でも逆に安心できた。色の違う肉とか入ってたら、絶対に嘔吐してた。あの光景の後じゃ、不安しかないもん。
温かいスープを飲んで、馬車のところへ戻る。だけど馬車の馬が消えていた。馬がいなくても馬車と呼んでいいのか分からないけど。運ぶ分だけ残されてる。
「ごめんなさいね、馬に逃げられちゃったの」
絶対に食べたでしょ! あの勢いと巨体なら、足りなくて食べたに違いない。ガクブルしながら、余計なことは言わずに曖昧に笑った。日本人お得意のアルカイックスマイルだ。顔が引き攣ってないといいけど。
「困ったわね」
「馬なら明日には戻りますよ。ご安心ください」
アランさんが捕まえてくるのかしら。それとも本当に馬は戻ってくるのかな。逃げただけ? 違う馬になってたとしても、たぶん気づけないと思う。馬の顔や模様なんて覚えてない。
「もう正体バレてるし、いいわよね」
ぽんっと軽い音がして、奥様が狐に変化した。やっぱり狐だったんだ。あれは夢じゃないと突きつけられ、震えが大きくなった。これって昔話だか童話にある太らせてから食べるやつ? 心配する私の服の襟首を咥え、奥様は丸くなってその上に私を乗せた。
「寝ちゃいなさい」
怖いのとどうせ通じないからと黙っていた私に、奥様は変わらず優しい。化け狐だったし、人を頭から齧ったけどあの人盗賊だし。私に害を加える気はないのよね。そう思ったら、温かくて柔らかな毛皮に埋もれた体から力が抜けた。人間ってさ、結局のところ図太くて計算高い生き物だよね。
どうせ全力で走って逃げても、三歩で追いつかれる。自分に言い訳しながら目を閉じた。暖かいし、温かい。こうやって誰かの温もりを感じながら寝たのって、いつ振りだろう。毛皮は獣臭くなくて、ミントに似たすっとする香りがした。
「やっぱり怖がらせたわよねぇ」
「普通は怖がります。ですから変化を控えていましたものを……奥様が」
「あら、嬉しそうに食べてたじゃない」
「……それは否定いたしません」
久しぶりの生餌でしたので。恐ろしい単語が混じるけど、うとうとしながら聞き流す。尻尾かな? ふかふかの毛皮が頭の上に追加され、ついに温もりと眠りに負けた。
二人の顔を交互に見て、もう一度スープを睨む。ここでうっかり指摘すると、御伽噺みたいに頭から齧られるのかな。知らないフリしてて、夜中に逃げるのが正しい気がする。でも優しいんだよね。幼くなった今の私が、保護者なし生活は無理だと思うし。
あれこれ考える私に、奥様が笑顔で少し先を指差した。
「安心して。あそこに骨があるけど、鳥の肉よ。サラちゃんに人肉は早いわ」
ずっと早いと思っていてください。心からそう願い、そっと口を付けた。スープの味は鶏ガラ系だけど、ハーブが入ってないから味を濃く感じた。鶏肉を塩胡椒して煮ただけ。でも逆に安心できた。色の違う肉とか入ってたら、絶対に嘔吐してた。あの光景の後じゃ、不安しかないもん。
温かいスープを飲んで、馬車のところへ戻る。だけど馬車の馬が消えていた。馬がいなくても馬車と呼んでいいのか分からないけど。運ぶ分だけ残されてる。
「ごめんなさいね、馬に逃げられちゃったの」
絶対に食べたでしょ! あの勢いと巨体なら、足りなくて食べたに違いない。ガクブルしながら、余計なことは言わずに曖昧に笑った。日本人お得意のアルカイックスマイルだ。顔が引き攣ってないといいけど。
「困ったわね」
「馬なら明日には戻りますよ。ご安心ください」
アランさんが捕まえてくるのかしら。それとも本当に馬は戻ってくるのかな。逃げただけ? 違う馬になってたとしても、たぶん気づけないと思う。馬の顔や模様なんて覚えてない。
「もう正体バレてるし、いいわよね」
ぽんっと軽い音がして、奥様が狐に変化した。やっぱり狐だったんだ。あれは夢じゃないと突きつけられ、震えが大きくなった。これって昔話だか童話にある太らせてから食べるやつ? 心配する私の服の襟首を咥え、奥様は丸くなってその上に私を乗せた。
「寝ちゃいなさい」
怖いのとどうせ通じないからと黙っていた私に、奥様は変わらず優しい。化け狐だったし、人を頭から齧ったけどあの人盗賊だし。私に害を加える気はないのよね。そう思ったら、温かくて柔らかな毛皮に埋もれた体から力が抜けた。人間ってさ、結局のところ図太くて計算高い生き物だよね。
どうせ全力で走って逃げても、三歩で追いつかれる。自分に言い訳しながら目を閉じた。暖かいし、温かい。こうやって誰かの温もりを感じながら寝たのって、いつ振りだろう。毛皮は獣臭くなくて、ミントに似たすっとする香りがした。
「やっぱり怖がらせたわよねぇ」
「普通は怖がります。ですから変化を控えていましたものを……奥様が」
「あら、嬉しそうに食べてたじゃない」
「……それは否定いたしません」
久しぶりの生餌でしたので。恐ろしい単語が混じるけど、うとうとしながら聞き流す。尻尾かな? ふかふかの毛皮が頭の上に追加され、ついに温もりと眠りに負けた。
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