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外伝
外伝10.HAPPY END(SIDEセティ)
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「ホルス、こっちにおいで」
エディットによじ登っていた幼子は、呼びかけるイシスの声に振り向いた。嬉しそうに笑い、鱗を滑り降りる。途中で転がり落ちそうになったが、器用に桃色ドラゴンが尻尾で支えた。
「お母さん!」
「うちの悪戯っ子は、オレを無視するのか?」
笑いながら捕まえると、ぺちぺちと腕を叩いて抜け出そうとする。やはり母親には敵わないようだ。苦笑いしてイシスに抱かせれば、ホルスは嬉しそうに頬を擦り寄せた。一頻り抱擁を交わすと満足し、今度はオレに手を伸ばす。現金な我が子を抱き上げて、風の魔法で放り投げて受け止める。
はしゃいだ声を上げるホルスは、ドラゴンとの触れ合いが大好きだった。竜帝ファフニールや妻のヴルムが孫として可愛がるため、今日も顔見せに来たのだ。ファルニールの一族も数を増やした。先帝の一人娘ヴルムを育てたところから始まった一家は、夫に竜帝ファフニールが加わる。次々と生まれる子はついに7人を超えた。うち一人はイシスだ。
ボリスの下に青い鱗の妹が生まれ、ファフニールは溺愛した。文字通り舐め回して娘を可愛がる。欲が出たのか、もう一人娘が欲しいと言い出した。それが目の前にある卵だった。
「無事に生まれますように。ほら、ホルスも卵にお願いして」
そこはお祈りじゃないのか? まあ意味合いとしては間違ってないが。無事に生まれてくれと卵に願うイシスの無邪気さに、周囲は微笑んで見守る。ぺたりと両手を押し付けたホルスは、隣に屈んだイシスに微笑んだ後、卵にキスをした。
「げんきに、出てきてね」
「よく出来ました」
嫁が可愛すぎて辛い。ぼそぼそと呟くと、隣で赤竜フェリクスが同意した。
「わかるぞ、うちも嫁が可愛くて」
フェリクスは黄色い鱗の竜を嫁にもらい、現在は二つの卵の親だ。もうすぐ孵るので実家の洞窟に身を寄せていた。ドラゴンの卵や幼生は狙われやすい。出産した卵が孵る時は、出来るだけ同族同士が集まって守る習性があった。
「ルードルフのところはどうだ?」
「ああ、産まれた卵を運んでくると言ってたから、そろそろ来る頃か」
薄赤の鱗を持つ妻を得たルードルフも、近日ここに身を寄せる。以前は大きな居室と黄金の部屋のみだった洞窟も、倍ほどに拡張された。現在も奥で音がしており、ファフニールが絶賛拡張中だ。山が崩れなければ良いが。
エルランドのところは、次の卵はもう少し後にするらしい。兄弟の子の世話もあるので、計画的に動くあたりが彼らしい。ボリスは飛べるようになったため、狩りを担当している。かなり逞しくなった。緑の鱗の一部に青が入っているとかで、水魔法もそれなりに扱うようだ。ヴルムが喜んでいた。
ぐるりと見回す洞窟は、大きなドラゴンが思い思いに寛ぐ。ドラゴンの聖地に手を出す人間も減り、これから繁栄していくはずだ。
「イシス、久しぶりに隣の大陸に顔を出すか。あの子達ももう大人になった頃だ」
以前旅行した時に「またね」と約束した人間の子らは、すっかり大人になったはず。顔を見せておかないと、神族の時間観念は緩いから、すれ違ってしまう。提案に目を輝かせるイシスは、子を生む前頃と変わらぬ純粋さで駆け寄ってきた。抱き着いて頬にキスを贈り合う。
ついでに隣大陸に移り住んだゲリュオンとシェリア夫婦のところにも顔を出すか。
「ホルスのお友達できるかな」
「出来るさ。オレ達の息子はこんなに可愛くて素直だからな」
「そうだね」
にこにこと笑顔を振り撒くイシスは「僕、すごく幸せ。セティは?」と無邪気に尋ねる。
「幸せに決まってる。イシスとホルスがいれば、いつだって最高だ」
「そこまでだ、婿殿」
邪魔に入ったファフニールが鼻先を突っ込もうとするが、その前にヴルムに捕まって卵を押し付けられた。
「邪魔をするでないよ! 嫌われる前に、ほら卵を温めて」
妻の尻に敷かれる竜帝の姿に、男は全員視線を逸らした。笑う気はない。なぜなら全員が嫁の尻に敷かれ、それを幸せだと思っているのだから。
THE HAPPY END!
*********************
外伝終了です_( _*´ ꒳ `*)_お付き合いいただき、ありがとうございました。
虐げられた子が幸せになるお話は別にも書いておりますので、ぜひ応援してやってください。
エディットによじ登っていた幼子は、呼びかけるイシスの声に振り向いた。嬉しそうに笑い、鱗を滑り降りる。途中で転がり落ちそうになったが、器用に桃色ドラゴンが尻尾で支えた。
「お母さん!」
「うちの悪戯っ子は、オレを無視するのか?」
笑いながら捕まえると、ぺちぺちと腕を叩いて抜け出そうとする。やはり母親には敵わないようだ。苦笑いしてイシスに抱かせれば、ホルスは嬉しそうに頬を擦り寄せた。一頻り抱擁を交わすと満足し、今度はオレに手を伸ばす。現金な我が子を抱き上げて、風の魔法で放り投げて受け止める。
はしゃいだ声を上げるホルスは、ドラゴンとの触れ合いが大好きだった。竜帝ファフニールや妻のヴルムが孫として可愛がるため、今日も顔見せに来たのだ。ファルニールの一族も数を増やした。先帝の一人娘ヴルムを育てたところから始まった一家は、夫に竜帝ファフニールが加わる。次々と生まれる子はついに7人を超えた。うち一人はイシスだ。
ボリスの下に青い鱗の妹が生まれ、ファフニールは溺愛した。文字通り舐め回して娘を可愛がる。欲が出たのか、もう一人娘が欲しいと言い出した。それが目の前にある卵だった。
「無事に生まれますように。ほら、ホルスも卵にお願いして」
そこはお祈りじゃないのか? まあ意味合いとしては間違ってないが。無事に生まれてくれと卵に願うイシスの無邪気さに、周囲は微笑んで見守る。ぺたりと両手を押し付けたホルスは、隣に屈んだイシスに微笑んだ後、卵にキスをした。
「げんきに、出てきてね」
「よく出来ました」
嫁が可愛すぎて辛い。ぼそぼそと呟くと、隣で赤竜フェリクスが同意した。
「わかるぞ、うちも嫁が可愛くて」
フェリクスは黄色い鱗の竜を嫁にもらい、現在は二つの卵の親だ。もうすぐ孵るので実家の洞窟に身を寄せていた。ドラゴンの卵や幼生は狙われやすい。出産した卵が孵る時は、出来るだけ同族同士が集まって守る習性があった。
「ルードルフのところはどうだ?」
「ああ、産まれた卵を運んでくると言ってたから、そろそろ来る頃か」
薄赤の鱗を持つ妻を得たルードルフも、近日ここに身を寄せる。以前は大きな居室と黄金の部屋のみだった洞窟も、倍ほどに拡張された。現在も奥で音がしており、ファフニールが絶賛拡張中だ。山が崩れなければ良いが。
エルランドのところは、次の卵はもう少し後にするらしい。兄弟の子の世話もあるので、計画的に動くあたりが彼らしい。ボリスは飛べるようになったため、狩りを担当している。かなり逞しくなった。緑の鱗の一部に青が入っているとかで、水魔法もそれなりに扱うようだ。ヴルムが喜んでいた。
ぐるりと見回す洞窟は、大きなドラゴンが思い思いに寛ぐ。ドラゴンの聖地に手を出す人間も減り、これから繁栄していくはずだ。
「イシス、久しぶりに隣の大陸に顔を出すか。あの子達ももう大人になった頃だ」
以前旅行した時に「またね」と約束した人間の子らは、すっかり大人になったはず。顔を見せておかないと、神族の時間観念は緩いから、すれ違ってしまう。提案に目を輝かせるイシスは、子を生む前頃と変わらぬ純粋さで駆け寄ってきた。抱き着いて頬にキスを贈り合う。
ついでに隣大陸に移り住んだゲリュオンとシェリア夫婦のところにも顔を出すか。
「ホルスのお友達できるかな」
「出来るさ。オレ達の息子はこんなに可愛くて素直だからな」
「そうだね」
にこにこと笑顔を振り撒くイシスは「僕、すごく幸せ。セティは?」と無邪気に尋ねる。
「幸せに決まってる。イシスとホルスがいれば、いつだって最高だ」
「そこまでだ、婿殿」
邪魔に入ったファフニールが鼻先を突っ込もうとするが、その前にヴルムに捕まって卵を押し付けられた。
「邪魔をするでないよ! 嫌われる前に、ほら卵を温めて」
妻の尻に敷かれる竜帝の姿に、男は全員視線を逸らした。笑う気はない。なぜなら全員が嫁の尻に敷かれ、それを幸せだと思っているのだから。
THE HAPPY END!
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外伝終了です_( _*´ ꒳ `*)_お付き合いいただき、ありがとうございました。
虐げられた子が幸せになるお話は別にも書いておりますので、ぜひ応援してやってください。
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外伝まで、全て読み切り、心の中のほっこり感がたくさんできました。イシスは本当に純粋で可愛いですね💕皆んなから溺愛されるのが分かります。ちょっと気持ちが落ちていら時なので、とても素敵なお話が読めて良かったです。ありがとうございました。他の作品もまた、読ませて頂きたいと思います。又、イシスたちにも会えれば良いなぁ〜
お読みいただきありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ
虐げられた子が幸せになるお話を書くと、自分も幸せになれる気がします(つω・`照).。*゚+.*.。少しでもお裾分けできたら幸いです。他にもございますので、よろしければ他作品もご覧ください♪
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最後までお付き合いいただき、ありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ
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