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外伝
外伝9.幸せと祝福の子(SIDEセティ)
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予定より早く産まれた子を受け止め、水面へ押しだす。上で待機していたガイアが素早く抱き上げ、清潔な布で包んだ。ふわふわと黒髪を漂わせて、泉の中で目を閉じたイシスは神々しい。神格も高いが、それ以上に純粋すぎて泉に溶けてしまいそうだった。
抱き締めて、うっすら開いた目に微笑みかける。体が重いのか、抱いた腕に指を添わせて柔らかく笑うイシスにキスをした。頬も唇も首筋も、擽ったいと身を竦めても口付けを贈る。この細い体で、よく赤子を育んでくれた。オレの子だ、イシスの子でもある。
神族の間で子が生まれるのは久しぶりだった。アトゥム神は神格を返上したので、元神となり該当しない。愛おしさと嬉しさで顔が笑み崩れそうだ。ずっと転ばないように見守り、体を冷やさないよう抱き締めた。無自覚なイシスの誘惑に耐え、ようやく産まれた子――祝福にちなんだ名を考えよう。
「イシス、お疲れ様」
水面へ引き上げて声を掛ける。
「オレ達の子を産んでくれて、ありがとう」
「うん。僕も嬉しい」
まだ力の入らない体を預け、ガイアの腕にいる赤子を見つめる。幼いままだと思っていたのに、こうしてみると、十分すぎるほど親だった。産気付いたと気づいて、すぐ泉に沈めたのは正解だ。神族はこの泉により神格を高め、己の存在を確立する。拳大の小さな子を産んだが、すぐに赤子は泉の恩恵で人並みの大きさを得た。
オレ達から色を引き継いだ黒髪の赤子は、ガイアの指を咥えてもぐもぐと口を動かす。
「僕も抱っこする」
「先にベッドに入って温かくしてからな。すぐに連れてきてもらうから」
説明されれば頷くが、視線は赤子に向いている。母親としての本能だろうが、オレを見ろ。そう言いたくなってしまう。イシスよりオレの方がよほど子どもだな。苦笑いして泉から上がるオレに、イシスは慌てた様子で付け加えた。
「僕、セティが大好きだよ。愛してる。だから心配しないで」
まるでオレの心を読んだかのような答えだった。驚いて目を見張るが、すぐに微笑んで頷く。
「もちろんだ」
濡れた服を乾かし、ついでに着替えさせた。ベッドに入れてお茶を飲ませる。ゆっくり両手で持ったカップの中身を半分まで減らしたところで、ガイアが入室した。
「ほら、お母さんとお父さんだよ」
ガイアの表現が擽ったい。受け取った子は、閉じていた目をぱちりと開けた。青と紫が混じった色だ。ぱちぱちと大きな目蓋が瞬くと、赤みを帯びてきた。魔力量と感情で色を変える瞳は、神族の証だろう。
「可愛い」
嬉しそうに抱き締めて頬擦りするイシスを見ながら、オレは愛する喜びを噛み締める。この子もイシスも、どちらも愛おしかった。ただただ幸せを実感する。人が神に幸せを願う気持ちを、ようやく心の底から理解した。
抱き締めて、うっすら開いた目に微笑みかける。体が重いのか、抱いた腕に指を添わせて柔らかく笑うイシスにキスをした。頬も唇も首筋も、擽ったいと身を竦めても口付けを贈る。この細い体で、よく赤子を育んでくれた。オレの子だ、イシスの子でもある。
神族の間で子が生まれるのは久しぶりだった。アトゥム神は神格を返上したので、元神となり該当しない。愛おしさと嬉しさで顔が笑み崩れそうだ。ずっと転ばないように見守り、体を冷やさないよう抱き締めた。無自覚なイシスの誘惑に耐え、ようやく産まれた子――祝福にちなんだ名を考えよう。
「イシス、お疲れ様」
水面へ引き上げて声を掛ける。
「オレ達の子を産んでくれて、ありがとう」
「うん。僕も嬉しい」
まだ力の入らない体を預け、ガイアの腕にいる赤子を見つめる。幼いままだと思っていたのに、こうしてみると、十分すぎるほど親だった。産気付いたと気づいて、すぐ泉に沈めたのは正解だ。神族はこの泉により神格を高め、己の存在を確立する。拳大の小さな子を産んだが、すぐに赤子は泉の恩恵で人並みの大きさを得た。
オレ達から色を引き継いだ黒髪の赤子は、ガイアの指を咥えてもぐもぐと口を動かす。
「僕も抱っこする」
「先にベッドに入って温かくしてからな。すぐに連れてきてもらうから」
説明されれば頷くが、視線は赤子に向いている。母親としての本能だろうが、オレを見ろ。そう言いたくなってしまう。イシスよりオレの方がよほど子どもだな。苦笑いして泉から上がるオレに、イシスは慌てた様子で付け加えた。
「僕、セティが大好きだよ。愛してる。だから心配しないで」
まるでオレの心を読んだかのような答えだった。驚いて目を見張るが、すぐに微笑んで頷く。
「もちろんだ」
濡れた服を乾かし、ついでに着替えさせた。ベッドに入れてお茶を飲ませる。ゆっくり両手で持ったカップの中身を半分まで減らしたところで、ガイアが入室した。
「ほら、お母さんとお父さんだよ」
ガイアの表現が擽ったい。受け取った子は、閉じていた目をぱちりと開けた。青と紫が混じった色だ。ぱちぱちと大きな目蓋が瞬くと、赤みを帯びてきた。魔力量と感情で色を変える瞳は、神族の証だろう。
「可愛い」
嬉しそうに抱き締めて頬擦りするイシスを見ながら、オレは愛する喜びを噛み締める。この子もイシスも、どちらも愛おしかった。ただただ幸せを実感する。人が神に幸せを願う気持ちを、ようやく心の底から理解した。
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