【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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外伝

外伝7.お父さん?(SIDEセティ)

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 イシスが食べなくなった。食べ物の匂いで顔を顰めている。胸が気持ち悪いと嘆くあの子は、しょんぼりと肩を落とす。用意したのに食べないなんて、贅沢で我が侭だと思っているらしい。大きくなっても軽いイシスを抱き上げて、膝の上に座らせた。横になるより、縦に寄り掛かっている方が体が楽なようだ。

「原始の泉に行くか」

 原始神殿はガイアが支配する領域だ。彼が引き籠った場所には、過去に神族が暮らした空間に繋がる泉が残されていた。イシスの神格を引き上げる際も、完全に神に変わる時も利用した。神族の不調はあの泉に浸かれば、リセットされる。

「トムとガイアのとこ?」

「そうだ、今はカイルスは放浪してて留守だからな」

 トムは先日出産したばかりだ。神格の一部は残っていても、かなり弱い。その所為か、生まれた子はすべて猫だった。いずれ神に変わる可能性は高いが、現時点では獣の子だ。ショックを受けたガイアには悪いが、予想通り過ぎて笑った。

 原始神殿の手前に転移し、ここからは徒歩だが……具合の悪いイシスを歩かせる気はない。横抱きにしたら、するりと手が首に絡みついた。いつもより体温が高い気がする。

「熱があるか?」

「ううん」

 平気、そう笑うイシスに辛そうな様子はない。眠いのかも知れないな。そういえば、ここ最近はよく眠っていた。原始神殿なら神族以外は入れないので、危険は少ない。あの腰抜けぞろいの神族の中に、破壊神の嫁に手を出す愚か者はいないだろう。

 結界の境目を抜けたところで、金色の猫が出迎えに来た。トムを見るなり、イシスは興奮してしまい降りると言い出す。具合が悪いから連れてきたのに。まあ体調がいいなら歩かせるか。下ろしたら、すぐにトムを抱き上げた。

 薄い縞模様が入った金色の猫がにゃーと鳴く。神殿の方から呼応するように子猫の声がした。目を輝かせるイシスは原始神殿の階段を上り、中に駆け込む。

「可愛いねぇ」

 次々と飛びかかる子猫を抱き留め、床の上に座ってしまった。冷えるので絨毯やクッションのある部屋に移動させ、そこで子猫を膝に乗せる。撫でたり頬ずりしたり忙しいイシスは、ひとしきり遊んだ後……突然横になった。眠っているのだ。ここ最近、この状態が続いている。

「おや、帰ってきたんだね。おかえり、イシスは寝てるの?」

 ガイアが神殿に現れる。先ほどまで気配がなかったので、どこかに出掛けていたようだ。首を傾げてイシスをじっくりと観察した後、ふふっと笑った。

「おめでとう、タイフォン。君もお父さんだよ」

「……は?」

 驚き過ぎて声にならないオレに、「お父さん」と衝撃ワードを繰り返すガイア。見開いた目に映る兄弟神は「そんなに驚かなくてもいいのに」と笑った。視線を落として、クッションを抱いて眠るイシスを見つめる。隣に腰を下ろし、抱き寄せた。

 このイシスの腹に、我が子が? まだ平らな腹の上に手を置いて、自分でもわかるくらい口元が緩んだ。そうか、今まで以上に大切にしないとな。
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