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外伝
外伝1.僕の子猫だからね(SIDEガイア)
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生意気な豊穣神だった頃には、まったく興味をそそられなかった。兄弟神のタイフォンは、仕置きにアトゥムの神格をほとんど剥奪する。自分の伴侶に攻撃されたんだから当然だけど、あの飽き性のタイフォンが惚れこむ子どもなんて、凄いよね。
まさか伴侶となる神の名を授けるとは思わなかった。イシスは神に与えられる名で、人間には荷が重い。でも純粋過ぎるあの子は喜んでいた。名づけの負担を感じてないみたいだ。
無邪気で可愛くて、僕も気に入ったけど。牽制しないでよ。取ったりしないから。アトゥム神はどうでもいいけど、このまま殺されると空位が出来て面倒なんだと言ったら、仕方なさそうに猫へ変えた。ぽんと放り出されても、僕は要らないんだけど?
記憶を壊し猫として連れ帰るタイフォンの後ろ姿を見送った。時々覗くくらいだったけど、ある日気づいたんだ。あの子猫、僕の伴侶の資格がある。もちろん複数の対象者がいるから、この子を選ぶ必要はないんだけど。一度気になったら目が離せなくて。
原始神殿にイシスが来たタイミングで、トムと名前を変えた魂に寄り添ってみた。白いイタチに姿を変えて、一緒に過ごす。予想外過ぎるんだけど、可愛かった。記憶がない素直な状態の子猫は透き通っていて、タイフォンがイシスを愛する理由がわかる。
まっすぐに見つめて笑い、邪心なく触れてくる。キスしてもきょとんとしてる姿を見たら、我慢できなくて食べちゃった。欲は制御できてるつもりだったけど、衝動ってのは抑えきれないんだね。
「おいで」
見た目が神としての姿に戻っても、トムは僕がわかる。そっくりの顔のタイフォンにはそっけないのに、僕だと甘えて膝に乗るし。可愛いなんて言葉じゃ足りない。柔らかな毛皮を何度も撫でて、獣の姿では何度か繋がったトムに微笑む。
にゃう、気持ちいいと素直に声を上げるこの子は、僕を煽った自覚なんてないんでしょ? 眠そうなところ悪いけど、もう少ししたら付き合ってもらおう。人の姿に戻すのは、この原始神殿の中だけ。それがタイフォンとの約束だ。アトゥムだった姿を見たら、殺さない自信がないんだってさ。
その場合僕が反撃するから、世界が半壊する騒動に発展しちゃう。最高神同士はうっかり兄弟喧嘩も出来ないよ。ようやくタイフォンがイシスを溺愛する理由が理解できて、自分も同じだと気づいたら……もう止まらなかった。
子猫の脇に手を入れて持ち上げ、鼻先にキスをする。続いて額に。この順番が鍵なんだ。ぽわんとした顔で小首をかしげる可愛い子ども――ゲリュオンとタイフォンに物理的に食われて神格が欠けた、小柄な器が手を伸ばす。抱きしめてキスをして、いっぱい愛してあげる。
君はずっと僕の子猫だからね。
数年後、お腹が大きくなったのは知ってた。子どもを産むには猫の体はきついと心配してたら、猫の子を産んだ。え? 僕達、神だよね? まあいいや。猫の神様がいちゃいけない理はないんだから。産んだ時に寄り添ってたのがイシスなのが、また凄い。ボリスの時もそうだけど、びっくりするくらい運がいい。あの破壊神タイフォンを惹きつけるくらいだから、当然か。
今、僕の膝の上は子猫でいっぱい。可愛いトムが産んだ子は3匹で、膝は占領されてしまった。拗ねたトムを拾い上げて、キスをして人に戻す。それから2人で向き合って座り、間に子猫を置いた。
ほわりと笑うその顔、育ての親イシスによく似てるよ? 僕とタイフォンの好みって、よく似てる。最近はカイルスも誰かに夢中みたいだけど、断言してもいい。イシスに似たタイプだって――。
まさか伴侶となる神の名を授けるとは思わなかった。イシスは神に与えられる名で、人間には荷が重い。でも純粋過ぎるあの子は喜んでいた。名づけの負担を感じてないみたいだ。
無邪気で可愛くて、僕も気に入ったけど。牽制しないでよ。取ったりしないから。アトゥム神はどうでもいいけど、このまま殺されると空位が出来て面倒なんだと言ったら、仕方なさそうに猫へ変えた。ぽんと放り出されても、僕は要らないんだけど?
記憶を壊し猫として連れ帰るタイフォンの後ろ姿を見送った。時々覗くくらいだったけど、ある日気づいたんだ。あの子猫、僕の伴侶の資格がある。もちろん複数の対象者がいるから、この子を選ぶ必要はないんだけど。一度気になったら目が離せなくて。
原始神殿にイシスが来たタイミングで、トムと名前を変えた魂に寄り添ってみた。白いイタチに姿を変えて、一緒に過ごす。予想外過ぎるんだけど、可愛かった。記憶がない素直な状態の子猫は透き通っていて、タイフォンがイシスを愛する理由がわかる。
まっすぐに見つめて笑い、邪心なく触れてくる。キスしてもきょとんとしてる姿を見たら、我慢できなくて食べちゃった。欲は制御できてるつもりだったけど、衝動ってのは抑えきれないんだね。
「おいで」
見た目が神としての姿に戻っても、トムは僕がわかる。そっくりの顔のタイフォンにはそっけないのに、僕だと甘えて膝に乗るし。可愛いなんて言葉じゃ足りない。柔らかな毛皮を何度も撫でて、獣の姿では何度か繋がったトムに微笑む。
にゃう、気持ちいいと素直に声を上げるこの子は、僕を煽った自覚なんてないんでしょ? 眠そうなところ悪いけど、もう少ししたら付き合ってもらおう。人の姿に戻すのは、この原始神殿の中だけ。それがタイフォンとの約束だ。アトゥムだった姿を見たら、殺さない自信がないんだってさ。
その場合僕が反撃するから、世界が半壊する騒動に発展しちゃう。最高神同士はうっかり兄弟喧嘩も出来ないよ。ようやくタイフォンがイシスを溺愛する理由が理解できて、自分も同じだと気づいたら……もう止まらなかった。
子猫の脇に手を入れて持ち上げ、鼻先にキスをする。続いて額に。この順番が鍵なんだ。ぽわんとした顔で小首をかしげる可愛い子ども――ゲリュオンとタイフォンに物理的に食われて神格が欠けた、小柄な器が手を伸ばす。抱きしめてキスをして、いっぱい愛してあげる。
君はずっと僕の子猫だからね。
数年後、お腹が大きくなったのは知ってた。子どもを産むには猫の体はきついと心配してたら、猫の子を産んだ。え? 僕達、神だよね? まあいいや。猫の神様がいちゃいけない理はないんだから。産んだ時に寄り添ってたのがイシスなのが、また凄い。ボリスの時もそうだけど、びっくりするくらい運がいい。あの破壊神タイフォンを惹きつけるくらいだから、当然か。
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