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306.たくさん寝たら目が溶ける

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 たくさん眠ってたみたい。目が覚めたら、大きな緑の竜が覗き込んでいた。ボリス? 僕が知ってるより大きいよ? 首を傾げて見回した僕を、お母さんが優しく抱っこしてる。

「お母さん?」

「目が覚めたのかい、よかった」

 そう言うと泣いちゃった。僕が悪いの? 慌ててお母さんに手を伸ばして鱗を撫でる。綺麗な青い鱗を撫でて、擦り寄るボリスの鼻先に頬を当てた。そしたら横から手が入って、僕はセティに抱き締められる。

「やっと起きたな。ずいぶん寝ていたんだぞ」

 ぐぅとお腹が鳴って、笑いながらセティが仙桃を取りだした。腕を動かしても痛くないし、青や紫の痣も消えている。治ってるね。安心して桃を齧る。僕が食べた物の種を、ボリスが勢いよく噛み砕いた。びっくりしちゃうけど、美味しそうに食べるね。体が大きくなったボリスは、牙も立派だった。

「どのくらい寝てたの?」

 次の桃に齧りつく。少し迷ったセティがこっそり教えてくれた。

「ひと月だ」

 ひと月? 30日くらい。そんなにたくさん寝てたの?

「どうしよう、セティ」

 不安になった。桃を落としたら、それもボリスが食べちゃった。でもそれどころじゃない。僕そんなに長く寝てたら……目が溶けちゃったかも。前に絵本にあったの、起きないで長く寝ると目が溶けるんだよ。僕の目はどうなった?

「落ち着け、目は無事だ。オレと同じ紫だぞ」

 額にキスをして笑うセティにほっとした。両手で押さえた手を離したら、桃の汁でべたべたになっていた。お母さんがぺろんと舐める。擽ったくて笑った僕は、もう一つ大切なことを思い出す。この洞窟、ルードルフお兄さんの家だよね!

「卵は? カイサお姉さんの卵」

 ピンクでもうすぐ割れる筈だったの。見回す先に卵は見当たらなくて、怖くなった。誰かに盗られちゃった? それとも……。

「もう生まれたぞ。今は奥の部屋でカイサと一緒に寝てる」

 僕がいない間に生まれちゃったの? ボリスの時みたいに応援したかったのに。でも寝ていた僕が悪いね。仕方ないけど、赤ちゃんに後で会いたいな。

 僕を抱っこしたセティがお母さんの上に座る。僕は別に大きくなってないね。もう成長しないのかな? 寝てると大きくならないのかも。そんな疑問に、セティは丁寧に答えてくれた。

 僕はあの日眠って、ガイアによる治療が終わっても起きなかった。大急ぎで山の上の原始神殿に移動して、セティが僕を泉に浸けた。二週間も水のところにいたんだって。目が覚めない僕を心配してお父さん達が騒ぐので、洞窟へ戻ったけど。

「お前のために毎日泉の水を運んで掛けていたら……それを舐めたボリスが急成長したんだ」

 苦笑いするセティがボリスの額を小突く。眠った僕を心配して、ボリスは僕を舐めたり一緒に寝たりしてたみたい。その時に舐めた泉の水が急成長の原因らしいと、セティは教えてくれた。もっとゆっくり大きくなればいいのに……目が覚めたら大きくなってるなんて、ずるい!
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