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290.滅びるがよい(SIDEセティ)

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*****SIDE セティ



「卵泥棒を退治しに行くぞ」

 冒険者と呼ばれる連中は大きく二つに分けられる。話が通じる奴と通じない奴だ。道理を弁えてるかどうかとも言い換えられる。今回の冒険者は通じない方だった。卵も大事だが、すでに結界を張った。ヴルムの立つ位置が結界の境目だ。

 大切なイシスに飴を含ませる。余計なことを聞かせたくないので不要な音を遮断した。冒険者の話が聞こえないことに首を傾げるが、イシスは飴を舐めながら首に腕を絡める。とにかく愛おしく可愛い。心の中でファフニールを呼んだが、声は届かないだろう。しかし先にフェリクスが咆哮を上げたので、すぐ駆け付けるに違いない。

 お父さんが来たと喜ぶイシスを連れて、転移を使用した。無礼極まりない冒険者が持つタグは、ヘリオポリス帝国が発行したもの。帝国は大きく、オレを含む複数の神を祀る神殿があった。そこへ向かおうとして、宮殿が目に入る。巨大な神殿と繋がる皇帝の宮殿の方が話が早いか。

 飴が小さくなったと残念がるイシスに、違う味の飴を与える。齧った飴が口内を傷つけていないか確認し、たっぷりとキスを堪能してから放り込んだ。息が荒いのは誘っているのか? そんな風に駆け引きをするには子ども過ぎるイシスの頭を撫で、宮殿の前庭に降りた。

 神殿との間にある庭の衛兵が騒ぐが、すぐに神官が飛んできた。よりによって白い衣か。怯えるイシスをあやしながら進む。皇帝がいる広間へ案内すると告げた神官に頷き、豪華な扉をくぐった。きょろきょろするイシスの感想が面白い。絵画や壺に関心を示したのかと思えば、そうでもない。

 皇帝が慌てて玉座から飛び降りて平伏した。オレが来ると分かっていたなら、最初から下で待てばいいものを。不機嫌さに輪をかける人間の言動に苛立つオレは、顔をしかめたイシスの声に眉を寄せた。この国の言語をイシスは知らないから大丈夫だろう。

「貴様ら、魅了の香を焚くとは……二心ふたごころありか」

 大きな声で威嚇する。香りに免疫がないイシスは、ぼんやりした顔で首筋に顔を埋める。少し呼吸が乱れていた。風を起こして吹き飛ばすと、顔を上げてきょろきょろと見回す。目が覚めたばかりの小動物のようだ。

 香の効果が消えた広間で、皇帝はがくがくと震えていた。神官は驚きで目を見開く。どちらが主犯か、考えるまでもあるまい。心当たりがあるから震えるのだ。イシスのように純粋な者の心は心地よいが、汚れ切った皇帝の心は読まずとも察するに十分だった。

 神が与えたドラゴンの聖地から卵を奪おうとした冒険者を雇い、その怒りに触れた。間もなくドラゴンの群れがこの帝国を襲うだろう。それも自業自得だ。破壊神タイフォンの怒りが先に降り注ぐが、当然受け止めるべき報いだった。

「帝国は神との盟約を破った。ドラゴンの聖地を襲い、我が友竜帝から卵を奪おうとしただけでなく、我が伴侶に危害を加えた――滅びるがよい」

 あの冒険者達は、ドラゴンの怒りで引き千切られた頃か。その後でこの都も滅びる。それを破壊神タイフォンの名において許可しよう。にやりと笑ったオレに縋ろうとした手を蹴飛ばし、ぱちんと指を鳴らす。人間は高い場所を好むが……宮殿の屋根で上空を睨む。

 呼び寄せた雷が、晴れた空を貫いて宮殿の塔を直撃した。

「すごぉい!! 今の……あ、ごめんなさい」

 驚き過ぎて口を開いたイシスの唇にキスをする。

「約束を破ったから、お仕置きだ」

 まだ落雷が続く宮殿の屋根で、愛しい伴侶の唇を遠慮なく味わった。
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