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279.もう食べられたの
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お兄さんは魔法をかけるから爪でもいいよと言ったけど、お母さんが唸ったら角に変更された。角の方が付けてても邪魔じゃないと思うから、そう説得したのかも。ルードルフお兄さんも、お父さんと同じようにぐるぐる巻いて小さなリボン結びにする。
お母さんがすぐに魔法をかけててくれた。ボリスはやっと機嫌が直ったみたい。お父さんがたくさん舐めて噛んで転がして遊んだから、満足したの。僕とも遊んで、今日はルードルフお兄さんの洞窟に泊まるんだけど……奥に部屋が増えてる?
「ルードルフお兄さん、奥が広くなった?」
「ああ、未来のお嫁さんのために広げたんだよ」
少し照れた様子で口にしたお兄さんの後ろから、お父さんが秘密をバラしちゃった。
「嫁に欲しい子が見つかってな、近々口説くようだ」
うわぁああ! と大声を出したお兄さんだけど、ごめんね。僕聞こえちゃった。でも大人の話と一緒で聞かなかったフリは出来るよ。だから聞いていないフリでセティに抱き着く。そうか、ルードルフお兄さんもお嫁さんを貰うんだね。フェリクスお兄さんはまだかな。
「イシスは自分が嫁になったせいか、余裕だな」
笑うセティの言葉に、目を見開いた。そうか、僕はセティのお嫁さんだから……あれ? 伴侶とお嫁さん、贄、豊穣の神様、僕の本当のお仕事はなんだろう?
「イシスはオレの伴侶で番でお嫁さん。ここまではお仕事じゃなくて、イシスが幸せになるための材料だ。豊穣の神は時々祈ればいい。もう贄じゃないぞ」
「え? 贄じゃないの?」
すごくびっくりした。じゃあ、食べないの? もう僕のことは食べない。気持ちいいこともしないのかも……どうしよう。僕がセティにしてあげられることが無くなっちゃう。泣きそうになった僕に、困った顔のセティが「違うぞ」と言った。
ずるっと鼻が出て袖で拭こうとしたら、お母さんに舐められた。そのまま襟を咥えて僕を抱き締める。丸くなった真ん中に落とされて、しがみ付いて涙を零した。上からボリスが羽で僕を隠してる。その隙間からお父さんの声が聞こえた。
「タイフォン殿、どういうことか。我が息子イシスを泣かすとは……」
「はぁ、誤解だから聞け。贄じゃないと言ったら、もう食べてもらえないと泣きだした。もちろん食べるさ。オレの大切なお嫁さんだからな。泣かしたのは事実だが、これから慰めるさ。夜はテントを覗くなよ」
こっそり隙間から覗いた僕を見ながら、セティが口角を持ち上げて笑う。カッコイイ。ぼおっとしながら見つめる僕に、セティがおいでと手を広げた。出ていこうとするけど、ボリスもお母さんもダメだって邪魔するの。じたばた暴れていると、セティの腕の中にいた。
「オレの嫁だぞ」
転移の魔法を使ったセティに抱き着いて頬をすり寄せたら、お母さんが溜め息を吐いた。
「仕方ないね。もう食べられちゃったのかい」
「なんだと!? イシスは子どもだぞ!」
お母さんは疲れたような声を出し、お父さんは怒り出した。ちらっと振り返り、またセティに抱き着く。そうしたら静かになった。ルードルフお兄さんが、お父さんを説得してるみたい。
「早く行け。音だけは遮断しておいてくれよ」
お父さんと取っ組み合いをするルードルフお兄さんに、お母さんが味方した。あ、お父さんが負けそう。はらはらする僕を抱いてセティはテントに入った。入り口を閉めると見えなくなっちゃう。
「ほら、イシス。食べるからおいで」
外へ出ようと思ってた気持ちが、急に変わる。僕、セティに食べてもらえるんだ。まだ一緒にいられるんだよね。唇のキスが嬉しくて目を閉じた。
お母さんがすぐに魔法をかけててくれた。ボリスはやっと機嫌が直ったみたい。お父さんがたくさん舐めて噛んで転がして遊んだから、満足したの。僕とも遊んで、今日はルードルフお兄さんの洞窟に泊まるんだけど……奥に部屋が増えてる?
「ルードルフお兄さん、奥が広くなった?」
「ああ、未来のお嫁さんのために広げたんだよ」
少し照れた様子で口にしたお兄さんの後ろから、お父さんが秘密をバラしちゃった。
「嫁に欲しい子が見つかってな、近々口説くようだ」
うわぁああ! と大声を出したお兄さんだけど、ごめんね。僕聞こえちゃった。でも大人の話と一緒で聞かなかったフリは出来るよ。だから聞いていないフリでセティに抱き着く。そうか、ルードルフお兄さんもお嫁さんを貰うんだね。フェリクスお兄さんはまだかな。
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笑うセティの言葉に、目を見開いた。そうか、僕はセティのお嫁さんだから……あれ? 伴侶とお嫁さん、贄、豊穣の神様、僕の本当のお仕事はなんだろう?
「イシスはオレの伴侶で番でお嫁さん。ここまではお仕事じゃなくて、イシスが幸せになるための材料だ。豊穣の神は時々祈ればいい。もう贄じゃないぞ」
「え? 贄じゃないの?」
すごくびっくりした。じゃあ、食べないの? もう僕のことは食べない。気持ちいいこともしないのかも……どうしよう。僕がセティにしてあげられることが無くなっちゃう。泣きそうになった僕に、困った顔のセティが「違うぞ」と言った。
ずるっと鼻が出て袖で拭こうとしたら、お母さんに舐められた。そのまま襟を咥えて僕を抱き締める。丸くなった真ん中に落とされて、しがみ付いて涙を零した。上からボリスが羽で僕を隠してる。その隙間からお父さんの声が聞こえた。
「タイフォン殿、どういうことか。我が息子イシスを泣かすとは……」
「はぁ、誤解だから聞け。贄じゃないと言ったら、もう食べてもらえないと泣きだした。もちろん食べるさ。オレの大切なお嫁さんだからな。泣かしたのは事実だが、これから慰めるさ。夜はテントを覗くなよ」
こっそり隙間から覗いた僕を見ながら、セティが口角を持ち上げて笑う。カッコイイ。ぼおっとしながら見つめる僕に、セティがおいでと手を広げた。出ていこうとするけど、ボリスもお母さんもダメだって邪魔するの。じたばた暴れていると、セティの腕の中にいた。
「オレの嫁だぞ」
転移の魔法を使ったセティに抱き着いて頬をすり寄せたら、お母さんが溜め息を吐いた。
「仕方ないね。もう食べられちゃったのかい」
「なんだと!? イシスは子どもだぞ!」
お母さんは疲れたような声を出し、お父さんは怒り出した。ちらっと振り返り、またセティに抱き着く。そうしたら静かになった。ルードルフお兄さんが、お父さんを説得してるみたい。
「早く行け。音だけは遮断しておいてくれよ」
お父さんと取っ組み合いをするルードルフお兄さんに、お母さんが味方した。あ、お父さんが負けそう。はらはらする僕を抱いてセティはテントに入った。入り口を閉めると見えなくなっちゃう。
「ほら、イシス。食べるからおいで」
外へ出ようと思ってた気持ちが、急に変わる。僕、セティに食べてもらえるんだ。まだ一緒にいられるんだよね。唇のキスが嬉しくて目を閉じた。
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