上 下
277 / 321

275.お母さん、ただいま、おかえり

しおりを挟む
 洞窟の入り口が閉まってたみたい。フェルは途中で止まると落ちちゃうから、一気に駆け登ったんだ。セティに聞いて理解した。

「ごめんね、勘違いしちゃった」

 フェルはいいよと鼻を鳴らす。いつも優しいフェルにしがみ付いて、途中まで降りてきた。ここでセティが魔法を使って、邪魔な岩をどかす。空いた穴に入ると……誰もいなかった。

「お母さん達、いないね」

 お留守番もいないのかな? きょろきょろしながら奥まで見てきたけど、誰もいないと思う。一番奥の宝物がある部屋は、入り口に岩が置いてあって見えなかった。戻ってきた僕はのんびり寛ぐフェルの上に飛び乗る。ふかふかでふわふわ。お父さん達ドラゴンとは違う。

 セティもフェルの毛皮に埋もれながら、寝転んだ。欠伸をひとつ。気持ちいい。入り口の岩がないと、風が入ってくるんだよ。中でぐるっと回った風が、また外へ出ていくの。ぼんやりと風の涼しさを楽しむ僕は、ふと気づいて鎖を引っ張った。

 銀の鎖には魔術師のタグ、金の鎖は鱗が通してある。それを掴んでセティに尋ねる。

「これで呼んだら来てくれるかな?」

「心配しすぎて騒ぎが大きくなるからやめとけ。夜には戻るさ」

「じゃあ、お留守番だね」

「昼寝して待ってるとしようか」

 もう外のお日様は傾き始めている。洞窟の中から見える外の景色は、ほんのり赤くなった。綺麗な景色と心地よさに誘われて、うとうとと微睡む。凄く気持ちがいい。ふわふわと浮いてる感じがするの。セティに時みたい。

「お? 戻ってきたぞ」

 セティの言葉の直後、ぶわっと風が吹いた。たくさん吹き込む風に目を閉じて、ゆっくり細く開く。出入口の光を遮る姿は、お母さんだ。

「待たせたね、ただいま。可愛い私の息子」

「お母さん、ただいま……おかえり? どっちも!!」

 僕がただいまで、今はおかえり。どっちも間違ってないよ。一緒に口にして、フェルの背中を滑り降りる。走った先でお母さんの後ろからボリスが出てきた。止まれないから、そのまま抱き着く。ボリスにぼんとぶつかり、転がりそうになったらお母さんが支えてくれた。

 ぐあああ、興奮したボリスが僕の顔を舐める。擽ったいのと懐かしいのがいっぱいで、少し苦しい感じ。でも嫌な苦しさじゃなくて、目いっぱい腕を伸ばしてボリスを抱っこした。大きくなってる。全然前と違って、羽も大きくなったし体も立派で硬い。

「ボリス、ただいま」

 ぐぁ……鳴き声を途中で止めて、もごもごと口を動かす。何だろう?

「ぉ、かへぇり」

 凄い! ボリスが話せるようになった! 上手だと褒めていっぱい撫でた。僕はお兄ちゃんだから、弟が出来るようになったのを褒めるんだ。後ろから追いついたセティが、お母さんと挨拶をする。お土産も持ってきたんだよ、そう言いながらお母さんにも抱き着いた。

「おやおや、甘えん坊になったこと」

 笑いながら受け止めたお母さんが襟を咥えて、僕を背中に乗せる。天井が一気に近づいて、僕は高い景色に興奮した。お母さんの背中も久しぶりだよ。撫でて頬を寄せていたら、下でボリスが騒いだ。安心して、もう少ししたら降りるから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...