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275.お母さん、ただいま、おかえり
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洞窟の入り口が閉まってたみたい。フェルは途中で止まると落ちちゃうから、一気に駆け登ったんだ。セティに聞いて理解した。
「ごめんね、勘違いしちゃった」
フェルはいいよと鼻を鳴らす。いつも優しいフェルにしがみ付いて、途中まで降りてきた。ここでセティが魔法を使って、邪魔な岩をどかす。空いた穴に入ると……誰もいなかった。
「お母さん達、いないね」
お留守番もいないのかな? きょろきょろしながら奥まで見てきたけど、誰もいないと思う。一番奥の宝物がある部屋は、入り口に岩が置いてあって見えなかった。戻ってきた僕はのんびり寛ぐフェルの上に飛び乗る。ふかふかでふわふわ。お父さん達ドラゴンとは違う。
セティもフェルの毛皮に埋もれながら、寝転んだ。欠伸をひとつ。気持ちいい。入り口の岩がないと、風が入ってくるんだよ。中でぐるっと回った風が、また外へ出ていくの。ぼんやりと風の涼しさを楽しむ僕は、ふと気づいて鎖を引っ張った。
銀の鎖には魔術師のタグ、金の鎖は鱗が通してある。それを掴んでセティに尋ねる。
「これで呼んだら来てくれるかな?」
「心配しすぎて騒ぎが大きくなるからやめとけ。夜には戻るさ」
「じゃあ、お留守番だね」
「昼寝して待ってるとしようか」
もう外のお日様は傾き始めている。洞窟の中から見える外の景色は、ほんのり赤くなった。綺麗な景色と心地よさに誘われて、うとうとと微睡む。凄く気持ちがいい。ふわふわと浮いてる感じがするの。セティに食べられてる時みたい。
「お? 戻ってきたぞ」
セティの言葉の直後、ぶわっと風が吹いた。たくさん吹き込む風に目を閉じて、ゆっくり細く開く。出入口の光を遮る姿は、お母さんだ。
「待たせたね、ただいま。可愛い私の息子」
「お母さん、ただいま……おかえり? どっちも!!」
僕がただいまで、今はおかえり。どっちも間違ってないよ。一緒に口にして、フェルの背中を滑り降りる。走った先でお母さんの後ろからボリスが出てきた。止まれないから、そのまま抱き着く。ボリスにぼんとぶつかり、転がりそうになったらお母さんが支えてくれた。
ぐあああ、興奮したボリスが僕の顔を舐める。擽ったいのと懐かしいのがいっぱいで、少し苦しい感じ。でも嫌な苦しさじゃなくて、目いっぱい腕を伸ばしてボリスを抱っこした。大きくなってる。全然前と違って、羽も大きくなったし体も立派で硬い。
「ボリス、ただいま」
ぐぁ……鳴き声を途中で止めて、もごもごと口を動かす。何だろう?
「ぉ、かへぇり」
凄い! ボリスが話せるようになった! 上手だと褒めていっぱい撫でた。僕はお兄ちゃんだから、弟が出来るようになったのを褒めるんだ。後ろから追いついたセティが、お母さんと挨拶をする。お土産も持ってきたんだよ、そう言いながらお母さんにも抱き着いた。
「おやおや、甘えん坊になったこと」
笑いながら受け止めたお母さんが襟を咥えて、僕を背中に乗せる。天井が一気に近づいて、僕は高い景色に興奮した。お母さんの背中も久しぶりだよ。撫でて頬を寄せていたら、下でボリスが騒いだ。安心して、もう少ししたら降りるから。
「ごめんね、勘違いしちゃった」
フェルはいいよと鼻を鳴らす。いつも優しいフェルにしがみ付いて、途中まで降りてきた。ここでセティが魔法を使って、邪魔な岩をどかす。空いた穴に入ると……誰もいなかった。
「お母さん達、いないね」
お留守番もいないのかな? きょろきょろしながら奥まで見てきたけど、誰もいないと思う。一番奥の宝物がある部屋は、入り口に岩が置いてあって見えなかった。戻ってきた僕はのんびり寛ぐフェルの上に飛び乗る。ふかふかでふわふわ。お父さん達ドラゴンとは違う。
セティもフェルの毛皮に埋もれながら、寝転んだ。欠伸をひとつ。気持ちいい。入り口の岩がないと、風が入ってくるんだよ。中でぐるっと回った風が、また外へ出ていくの。ぼんやりと風の涼しさを楽しむ僕は、ふと気づいて鎖を引っ張った。
銀の鎖には魔術師のタグ、金の鎖は鱗が通してある。それを掴んでセティに尋ねる。
「これで呼んだら来てくれるかな?」
「心配しすぎて騒ぎが大きくなるからやめとけ。夜には戻るさ」
「じゃあ、お留守番だね」
「昼寝して待ってるとしようか」
もう外のお日様は傾き始めている。洞窟の中から見える外の景色は、ほんのり赤くなった。綺麗な景色と心地よさに誘われて、うとうとと微睡む。凄く気持ちがいい。ふわふわと浮いてる感じがするの。セティに食べられてる時みたい。
「お? 戻ってきたぞ」
セティの言葉の直後、ぶわっと風が吹いた。たくさん吹き込む風に目を閉じて、ゆっくり細く開く。出入口の光を遮る姿は、お母さんだ。
「待たせたね、ただいま。可愛い私の息子」
「お母さん、ただいま……おかえり? どっちも!!」
僕がただいまで、今はおかえり。どっちも間違ってないよ。一緒に口にして、フェルの背中を滑り降りる。走った先でお母さんの後ろからボリスが出てきた。止まれないから、そのまま抱き着く。ボリスにぼんとぶつかり、転がりそうになったらお母さんが支えてくれた。
ぐあああ、興奮したボリスが僕の顔を舐める。擽ったいのと懐かしいのがいっぱいで、少し苦しい感じ。でも嫌な苦しさじゃなくて、目いっぱい腕を伸ばしてボリスを抱っこした。大きくなってる。全然前と違って、羽も大きくなったし体も立派で硬い。
「ボリス、ただいま」
ぐぁ……鳴き声を途中で止めて、もごもごと口を動かす。何だろう?
「ぉ、かへぇり」
凄い! ボリスが話せるようになった! 上手だと褒めていっぱい撫でた。僕はお兄ちゃんだから、弟が出来るようになったのを褒めるんだ。後ろから追いついたセティが、お母さんと挨拶をする。お土産も持ってきたんだよ、そう言いながらお母さんにも抱き着いた。
「おやおや、甘えん坊になったこと」
笑いながら受け止めたお母さんが襟を咥えて、僕を背中に乗せる。天井が一気に近づいて、僕は高い景色に興奮した。お母さんの背中も久しぶりだよ。撫でて頬を寄せていたら、下でボリスが騒いだ。安心して、もう少ししたら降りるから。
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