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266.虹に触れるといいな
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トムが食べなかった桃を齧りながら、足をぶらぶらと揺らす。お行儀悪いんだけど、何となく楽しいの。セティはくすくす笑って「ガイアには内緒だ」って言った。僕は笑いながら頷いて、また足を揺らす。
ガイアのお祈りの声は何時までも聞こえてきて、僕は不安になって両手を胸の前で握った。その手をセティが上から包んでくれる。だから額を押し当てて一緒に祈った。
黒い神様、カイルス様、戻ってきてください。僕はセティの兄弟の神様と仲良くしたいです。また桃を一緒に食べよう。それにトムも抱っこして欲しいし、僕のお母さんやお父さん、お兄さん、ボリスやゲリュオン……シェリアやフェルも、たくさんの仲間と会って欲しい。ガイアもセティも待ってるよ。
その祈りが通じたのか。それとも届かなくても叶ったのか。僕は知らない。祈りながら疲れて眠ったようで、気づいたらベッドにいた。セティが膝枕をしながら、僕の黒髪を指で遊ぶ。
「起きたか? おはよう、イシス」
「おはよう……ねえ、セティ。黒い神様戻ってきた?」
「嫉妬しちゃうぞ」
嫉妬って焼きもちのこと? セティったら変なこと言うんだね。僕はセティを大好きで、一番なのに焼きもちするの? 見上げる先でセティが優しく笑って、ベッドを囲う白い壁みたいな布をどけた。指でついって左に動かしたら、その通りに開いた。神様は凄い。僕には出来ないけど。
よいしょと起き上がった僕の前に、黒い手が現れた。そっと頭の上に乗せられて、頬まで滑ってきて撫でてくれる。目を見開いてその腕を辿って顔を上げたら、黒いカイルス神様が笑った。僕は驚いて固まった後、背中から抱きしめるセティを振り返る。
「黒い神様、戻って来られたの?」
「そうだ。イシスのお陰だよ」
セティが頷く。何だか嬉しそう。そうだよね、兄弟の神様が帰ってきてくれたんだもん。あれ? ガイアもトムもいないね。
「ガイアは疲れて寝てて、トムは付き添ってるぞ」
「トム、偉いねぇ」
子どもしてたのに、いつの間にかガイアのお嫁さんになってるし。僕もちゃんとお嫁さんしなくちゃ! カイルス神様に頬を撫でられながら、にこにこと笑う。僕が笑うと皆、幸せになったよって言ってくれるから。出来るだけ笑顔でいるの。
「なるほど、これはまた……狙われやすい子だ」
カイルス神様、もしかして僕の気持ちが分かる? 尋ねる僕に頷く。前より肌は艶があるし、髪もよく見たら真っ黒じゃなかった。銀色が混じったみたいな色だ。それに目の色が綺麗な金色なの。なんで気づかなかったんだろう?
「あの時はカイルスも実体がなかったから。イシスが見たのは幻像だ」
幻像……難しい単語に考え込むと、笑いながら「虹みたいなもんだ」とカイルス神様が言った。虹は見えてるけど、実際に触れない。僕は触れたのに? 神様になったからかな。今なら虹も触れるかも! そうしたらお母さん達にお土産に出来る!!
「天真爛漫を通り越して、怖くなるほど純粋だ。しっかり守れよ、タイフォン」
「分かってる。それ以上触るなよ、減る」
上で交わされる会話はきっと大人の話だから、僕は聞こえないフリでセティに寄り掛かった。
「それと俺のことはカイルと呼べ。豊穣の神格があるなら、成長促進の加護をやろう」
よく分からないけど、また何か譲ってもらったみたい。虹に触れる力だといいな。
ガイアのお祈りの声は何時までも聞こえてきて、僕は不安になって両手を胸の前で握った。その手をセティが上から包んでくれる。だから額を押し当てて一緒に祈った。
黒い神様、カイルス様、戻ってきてください。僕はセティの兄弟の神様と仲良くしたいです。また桃を一緒に食べよう。それにトムも抱っこして欲しいし、僕のお母さんやお父さん、お兄さん、ボリスやゲリュオン……シェリアやフェルも、たくさんの仲間と会って欲しい。ガイアもセティも待ってるよ。
その祈りが通じたのか。それとも届かなくても叶ったのか。僕は知らない。祈りながら疲れて眠ったようで、気づいたらベッドにいた。セティが膝枕をしながら、僕の黒髪を指で遊ぶ。
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「おはよう……ねえ、セティ。黒い神様戻ってきた?」
「嫉妬しちゃうぞ」
嫉妬って焼きもちのこと? セティったら変なこと言うんだね。僕はセティを大好きで、一番なのに焼きもちするの? 見上げる先でセティが優しく笑って、ベッドを囲う白い壁みたいな布をどけた。指でついって左に動かしたら、その通りに開いた。神様は凄い。僕には出来ないけど。
よいしょと起き上がった僕の前に、黒い手が現れた。そっと頭の上に乗せられて、頬まで滑ってきて撫でてくれる。目を見開いてその腕を辿って顔を上げたら、黒いカイルス神様が笑った。僕は驚いて固まった後、背中から抱きしめるセティを振り返る。
「黒い神様、戻って来られたの?」
「そうだ。イシスのお陰だよ」
セティが頷く。何だか嬉しそう。そうだよね、兄弟の神様が帰ってきてくれたんだもん。あれ? ガイアもトムもいないね。
「ガイアは疲れて寝てて、トムは付き添ってるぞ」
「トム、偉いねぇ」
子どもしてたのに、いつの間にかガイアのお嫁さんになってるし。僕もちゃんとお嫁さんしなくちゃ! カイルス神様に頬を撫でられながら、にこにこと笑う。僕が笑うと皆、幸せになったよって言ってくれるから。出来るだけ笑顔でいるの。
「なるほど、これはまた……狙われやすい子だ」
カイルス神様、もしかして僕の気持ちが分かる? 尋ねる僕に頷く。前より肌は艶があるし、髪もよく見たら真っ黒じゃなかった。銀色が混じったみたいな色だ。それに目の色が綺麗な金色なの。なんで気づかなかったんだろう?
「あの時はカイルスも実体がなかったから。イシスが見たのは幻像だ」
幻像……難しい単語に考え込むと、笑いながら「虹みたいなもんだ」とカイルス神様が言った。虹は見えてるけど、実際に触れない。僕は触れたのに? 神様になったからかな。今なら虹も触れるかも! そうしたらお母さん達にお土産に出来る!!
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「分かってる。それ以上触るなよ、減る」
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