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248.僕は不幸にならないと思う
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僕は不幸にならないと思う。セティがいるから平気、もしいなくなったら幸せがいなくなるけど。不幸って幸せがなくなることだよね?
「純粋過ぎて、可哀想になる」
ガイアが難しいことを言った。首を傾げた僕の頬にセティが頬を押し当てる。後ろから抱っこする形で僕をぎゅっとしてくれた。これ好き。
「……本当に可哀想。後ろから襲ったら切り落とすよ」
「初めては顔を見てに決まってんだろ、馬鹿。イシスの前で下品なこと言うなよ」
覚えちゃうだろ。そう呟いたセティに、ガイアが困ったような顔で頷く。僕が覚えちゃいけない言葉もあるの? じゃあ、今のは覚えないようにするから。そんな顔しないで。
「結界強化しておけよ、邪魔されたら大陸ごと吹き飛ばす」
「分かりたくないけど、分かった」
今日のガイアは変なの。僕が知らない言葉をいっぱい使う。意味は分からなくても、腕の中のトムが大人しく抱っこを許してくれるから、ずっと撫でていた。この金色の毛皮、凄く柔らかいよね。気持ちいいし、僕よりも温かいの。首の後ろから背中を通って尻尾の前まで、優しく手のひらで撫でる。
みゅー、腕の中でトムが小さな声を上げた。気持ちいいみたい。
「イシス、前に入った苦しくない水を覚えてるか?」
「うん!」
冷たくなくて、でもお風呂ほど温かくない。ぼんやりして、セティに抱っこされていた場所だ。大きくて広くて、泳げそうなんだよ。そういえば僕、泳げるのかな? 泳いだことないけど。絶対に一人で泳ぐなと言われちゃった。やっぱり危ないのかも。
「一緒に入ろうか」
「いいよ」
「いや、もう少し説明してあげてよ。理解しないまま頷いてるじゃん」
「食べるぞって宣言するか?」
「それもちょっとどうだろうね」
ガイアが唇を尖らせる。これから僕は食べられるの? ガイアとセティの顔を交互に見ていたら、セティがこくんと頷いた。じゃあ、トムはお別れだね。
僕を抱き締めるセティの手が一度離れて、トムを摘まんでガイアに渡した。手の中の温かな毛玉がなくなると、少し寂しい。そう感じた直後、セティが腕を広げた。僕は勢いよく飛び込む。
お父さんやお母さんもそうだけど、セティも僕を落としたりしないから。安心して抱っこしてもらえるの。キスを顔中に貰っていると、セティの手がひらひらとガイア達を遠ざけた。
みゅー! 大きな声でトムが鳴く。でも僕はセティに食べられるから、手を伸ばして抱っこは出来ないの。ごめんね。食べられちゃうとボリスやお父さんお母さんとも会えなくなるのかな。最後にぎゅっとして欲しかったけど。
「また会えるから、怖くないぞ」
しょんぼりしたけど、セティが言うなら間違いないね。それにセティは僕がお願いしたりお祈りしたら、ちゃんと応えてくれるから。長くなった黒髪を撫でられながら、セティに抱っこされて移動した。
食べられると形が変わるかも知れないけど、お母さん達が僕のこと分かるならいいや。
神殿を取り囲む白い霧は、中に入ってこない。だから彫刻が入った立派な屋根や柱を見回した。前に来た時と、ちょっとだけ違う?
「イシス、服を脱ぐぞ」
「わかった」
両手を上に上げて待つ僕は、すぽんと服を脱ぐ。スカートを放り出したセティも裸になった。また抱っこされて、大きなお風呂みたいな水へ入る。前はじわじわと熱くなったけど、今回は温かいだけ。そんなに熱くならない。
僕が先に沈んだ。水の底へ目を凝らすけど、何も見えない。すごくすごく深いのかも。続いてセティが沈む。がばっと空気が出て行ったけど、僕は知ってるから慌てないよ。ここは息が出来る安心な場所だもん。
浮かんでいく泡を見送っていたら、唇を塞がれた。
「純粋過ぎて、可哀想になる」
ガイアが難しいことを言った。首を傾げた僕の頬にセティが頬を押し当てる。後ろから抱っこする形で僕をぎゅっとしてくれた。これ好き。
「……本当に可哀想。後ろから襲ったら切り落とすよ」
「初めては顔を見てに決まってんだろ、馬鹿。イシスの前で下品なこと言うなよ」
覚えちゃうだろ。そう呟いたセティに、ガイアが困ったような顔で頷く。僕が覚えちゃいけない言葉もあるの? じゃあ、今のは覚えないようにするから。そんな顔しないで。
「結界強化しておけよ、邪魔されたら大陸ごと吹き飛ばす」
「分かりたくないけど、分かった」
今日のガイアは変なの。僕が知らない言葉をいっぱい使う。意味は分からなくても、腕の中のトムが大人しく抱っこを許してくれるから、ずっと撫でていた。この金色の毛皮、凄く柔らかいよね。気持ちいいし、僕よりも温かいの。首の後ろから背中を通って尻尾の前まで、優しく手のひらで撫でる。
みゅー、腕の中でトムが小さな声を上げた。気持ちいいみたい。
「イシス、前に入った苦しくない水を覚えてるか?」
「うん!」
冷たくなくて、でもお風呂ほど温かくない。ぼんやりして、セティに抱っこされていた場所だ。大きくて広くて、泳げそうなんだよ。そういえば僕、泳げるのかな? 泳いだことないけど。絶対に一人で泳ぐなと言われちゃった。やっぱり危ないのかも。
「一緒に入ろうか」
「いいよ」
「いや、もう少し説明してあげてよ。理解しないまま頷いてるじゃん」
「食べるぞって宣言するか?」
「それもちょっとどうだろうね」
ガイアが唇を尖らせる。これから僕は食べられるの? ガイアとセティの顔を交互に見ていたら、セティがこくんと頷いた。じゃあ、トムはお別れだね。
僕を抱き締めるセティの手が一度離れて、トムを摘まんでガイアに渡した。手の中の温かな毛玉がなくなると、少し寂しい。そう感じた直後、セティが腕を広げた。僕は勢いよく飛び込む。
お父さんやお母さんもそうだけど、セティも僕を落としたりしないから。安心して抱っこしてもらえるの。キスを顔中に貰っていると、セティの手がひらひらとガイア達を遠ざけた。
みゅー! 大きな声でトムが鳴く。でも僕はセティに食べられるから、手を伸ばして抱っこは出来ないの。ごめんね。食べられちゃうとボリスやお父さんお母さんとも会えなくなるのかな。最後にぎゅっとして欲しかったけど。
「また会えるから、怖くないぞ」
しょんぼりしたけど、セティが言うなら間違いないね。それにセティは僕がお願いしたりお祈りしたら、ちゃんと応えてくれるから。長くなった黒髪を撫でられながら、セティに抱っこされて移動した。
食べられると形が変わるかも知れないけど、お母さん達が僕のこと分かるならいいや。
神殿を取り囲む白い霧は、中に入ってこない。だから彫刻が入った立派な屋根や柱を見回した。前に来た時と、ちょっとだけ違う?
「イシス、服を脱ぐぞ」
「わかった」
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僕が先に沈んだ。水の底へ目を凝らすけど、何も見えない。すごくすごく深いのかも。続いてセティが沈む。がばっと空気が出て行ったけど、僕は知ってるから慌てないよ。ここは息が出来る安心な場所だもん。
浮かんでいく泡を見送っていたら、唇を塞がれた。
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