238 / 321
236.パンを配るのは僕にもできる
しおりを挟む
宿はお風呂がない宿だった。でもセティの魔法で綺麗にしてもらうから、お呪いもいっぱいした。着替えた僕の首や肩、腕にも痕がある。それを見て機嫌のいいセティだったけど、出掛ける直前に唸り出した。
「オレのだと主張できる反面、誰かに余計な指摘されると腹立つし」
「セティ、早くしないとお店の人が待ってるよ」
「あ、ああ。それじゃ上着を着ようか」
首をかしげる。別に寒くないのに、薄い透けるような上着を着せられた。何処かに引っかけたら破けそうだから、注意して行動しなくちゃ。首の後ろに同じ布の帽子もついてて、被ってるように言われた。全部支度したら、急いで屋台のお店に行く。
広場は朝から人がいっぱいだった。焼いて準備された食べ物を、セティはバッグに入れる。バッグの大きさに入らないのに、するりと入っちゃうの。収納のお部屋は凄いよね。見える場所だけど、セティは気にした様子なく放り込んでいく。残りのお金を払って、今度はパン屋さんでも同じことをした。
注目を集めてるみたいで、いろんな人の目がこっちに向いてる。どきどきした。怖いのかな、僕。ぎゅっとセティの袖を握り、俯いて歩く。
「こら、下を向いてると転ぶぞ」
「うん」
返事をしたものの、顔を上げると知らない人が見ている。また俯きそうになった僕に、セティが背中の帽子の布をしっかり被せてくれた。そうしたら人の視線が気にならない。すごい、まるで魔法みたいだ。首元でしゃらんと音を立てた鱗に勇気づけられる。お父さん達も一緒だから平気。
昨日の路地から入っていく。途中まで数人の子どもが迎えに来てくれていた。いい匂いがするから待ちきれないみたいで、手招きされる。背の低い屋根の家の間を抜けて、昨日の男の子の家に着いた。たくさんの人が集まってる。
やっぱり汚れていて、服もぼろぼろだった。家の前には急ごしらえの机が用意してあるから、待っててくれたんだね。良かった、喜んでくれそう。
「食べ物を誰かから奪う奴がいたら、二度と配らない。いいな?」
頷く人達の前に、セティがまずはパンを並べた。1人1個ずつ。家族の分はもう一度並んでもらうことになる。1つずつ渡すのは僕にも出来るから手伝った。隣でセティが肉の串を袋ごと置いて、1本ずつ渡していく。
その場ですぐに食べ始める人もいるし、家に持って帰る子もいた。持ってきた分を全部配り終えたあと、セティは肩を竦めた。
「さて、祈りがなければ明日の分はないぞ。がんばって祈れ」
不思議そうな顔をする人もいたけど、セティは神様だから祈りの声が聞こえるんだ。誰も祈らなかったり、声が少ないとその分だけ減らしていく。目に見える形でここの人に祈ることを覚えてもらうのだと言っていた。
「明日、またね」
ばいばいと手を振ったら、何人もの子が大きく振り返してくれた。いっぱい祈ってね。祈りの言葉は短く、知らない神様の名前が入っている。それを何度も教えてから、セティはその場を離れた。
明日のご飯を注文して、僕達の分も買って宿に帰る。ベッドに腰掛けたセティの膝に座り、僕は声に出して絵本を読んだ。少し文字が多い本も読めるようになったから、向こうに帰ったら弟のボリスにも読んであげたいな。
「オレのだと主張できる反面、誰かに余計な指摘されると腹立つし」
「セティ、早くしないとお店の人が待ってるよ」
「あ、ああ。それじゃ上着を着ようか」
首をかしげる。別に寒くないのに、薄い透けるような上着を着せられた。何処かに引っかけたら破けそうだから、注意して行動しなくちゃ。首の後ろに同じ布の帽子もついてて、被ってるように言われた。全部支度したら、急いで屋台のお店に行く。
広場は朝から人がいっぱいだった。焼いて準備された食べ物を、セティはバッグに入れる。バッグの大きさに入らないのに、するりと入っちゃうの。収納のお部屋は凄いよね。見える場所だけど、セティは気にした様子なく放り込んでいく。残りのお金を払って、今度はパン屋さんでも同じことをした。
注目を集めてるみたいで、いろんな人の目がこっちに向いてる。どきどきした。怖いのかな、僕。ぎゅっとセティの袖を握り、俯いて歩く。
「こら、下を向いてると転ぶぞ」
「うん」
返事をしたものの、顔を上げると知らない人が見ている。また俯きそうになった僕に、セティが背中の帽子の布をしっかり被せてくれた。そうしたら人の視線が気にならない。すごい、まるで魔法みたいだ。首元でしゃらんと音を立てた鱗に勇気づけられる。お父さん達も一緒だから平気。
昨日の路地から入っていく。途中まで数人の子どもが迎えに来てくれていた。いい匂いがするから待ちきれないみたいで、手招きされる。背の低い屋根の家の間を抜けて、昨日の男の子の家に着いた。たくさんの人が集まってる。
やっぱり汚れていて、服もぼろぼろだった。家の前には急ごしらえの机が用意してあるから、待っててくれたんだね。良かった、喜んでくれそう。
「食べ物を誰かから奪う奴がいたら、二度と配らない。いいな?」
頷く人達の前に、セティがまずはパンを並べた。1人1個ずつ。家族の分はもう一度並んでもらうことになる。1つずつ渡すのは僕にも出来るから手伝った。隣でセティが肉の串を袋ごと置いて、1本ずつ渡していく。
その場ですぐに食べ始める人もいるし、家に持って帰る子もいた。持ってきた分を全部配り終えたあと、セティは肩を竦めた。
「さて、祈りがなければ明日の分はないぞ。がんばって祈れ」
不思議そうな顔をする人もいたけど、セティは神様だから祈りの声が聞こえるんだ。誰も祈らなかったり、声が少ないとその分だけ減らしていく。目に見える形でここの人に祈ることを覚えてもらうのだと言っていた。
「明日、またね」
ばいばいと手を振ったら、何人もの子が大きく振り返してくれた。いっぱい祈ってね。祈りの言葉は短く、知らない神様の名前が入っている。それを何度も教えてから、セティはその場を離れた。
明日のご飯を注文して、僕達の分も買って宿に帰る。ベッドに腰掛けたセティの膝に座り、僕は声に出して絵本を読んだ。少し文字が多い本も読めるようになったから、向こうに帰ったら弟のボリスにも読んであげたいな。
42
お気に入りに追加
1,267
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【完結】少年王が望むは…
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章開始!毎週、月・水・金に投稿予定。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる