237 / 321
235.いけないお祈りをしてしまう
しおりを挟む
慈善事業に付き合うことについて、何か難しい話をした。僕は食事をもらえて、病気を治すのは理解できた。でも、子どもを取ったりしないと付け加えたセティに、首を傾げる。子どもはお母さんと暮らすものだから、取らないのは当たり前なのに。
向こうのお母さんは最後まで話を聞いて、迷うように男の子とパンを頬張った小さい女の子を見た。そしてセティに頷く。
「私どもで出来ることでしたら」
「簡単さ。これから言う通りに祈ってくれ」
僕が知らない神様のお名前と祈りの内容を、事細かに説明している。それから周囲の人にも同じように協力してもらえるか、尋ねた。祈れば、その場でパンや肉をあげる約束をする。
「食事と引き換えなら、きっと祈ってくれます」
「そりゃよかった。任せるぞ。食事は明日からこの家の前で配ることにする」
セティが約束して家を出ると、外にはたくさんの人が集まっていた。酸っぱい臭いがする人達に、セティは同じ話を繰り返した。明日この場所に来て祈れば、食べる物を渡す。2回以上祈ったら、病気もタダで治すと追加した。
「都合のいいことばかり言いやがって、絶対に何か企んでるぞ」
瓶を持ってお酒の匂いをさせた男の人が騒ぐ。それをセティは一言で黙らせた。
「嫌なら来るな」
ざわめいた人達がぴたりと黙る。顔を見合わせた後、セティに頭を下げて帰っていった。明日、ちゃんと来てくれるのかな。
「心配しなくてもいい。絶対に集まってくるから」
案内してくれた子にお礼の飴を渡したら、目を丸くした。誰かに取られる前に口に入れ、幸せそうに笑う。僕より年下だけど、頑張ってきたんだと思う。とてとて近づいた子に、飴を譲ってしまった。弟なのかな。嬉しそうに笑う小さい子に渡したら、ご褒美がなくなっちゃうのに。
ちらっとセティを見上げたら、いいぞと言ってくれた。だからもう一つ出して、男の子の口へ押し込む。
「これは君の」
ぼそぼそと小さな声で、お礼を言う。また明日と約束して別れた。セティが何か口の中でお呪いをしていたけど、なんだろう?
屋台があった広場に戻り、まだお店を開いている肉串のおじさんにたくさん注文する。近くのパン屋さんでもたくさん! 明日の朝取りに来る約束をして、お金を半分だけ渡した。
「宿を探すか」
笑うセティに僕も笑い返す。セティは難しいことを考えて、あの子達を助けてくれるんだ。僕を救ってくれたみたいに。優しい神様だもん。
でもね、僕は悪い子だからいけないお祈りをしてしまう。タイフォン神様、セティ、大切な子は僕だけにしてください。仲良しのお呪いも僕だけがいいです。
「伴侶はイシスだけだよ」
真っ赤な顔でそう囁く、僕の神様に頬を擦り寄せた。
*******宣伝*******
6/21たいあっぷ新作、先行公開!
『神狐の巫女姫☆妖奇譚』
――やだ、封印の木札が割れちゃった!?
東開大陸を支配する皇族の末っ子姫アイリーンは、封印された魔物をうっかり逃してしまう。バレないうちにと陰陽術を使い、夜中に狗の魔物と戦う。そんな彼女が魔物を追って侵入したのは、隣の大陸フルールのビュシェルベルジェール王家直轄の墓所だった!
狐面で忍び込む御転婆姫と、仮面で応じる英雄王子。危険な場面で助け合いながらも、魔物の取り合いが始まる。皇家や王家の思惑も入り混じる中、ドタバタする彼と彼女の恋の行方は?!
イラスト&原作協力 蒼巳生姜様
小説 綾雅(りょうが)
たいあっぷで意気投合した新作です!!
妖退治に奔走する2人。恋愛部分はすれ違いラブコメ風、双片想い。ハッピーエンド確定です。
ぜひ、ブクマしてお楽しみください(o´-ω-)o)ペコッ
向こうのお母さんは最後まで話を聞いて、迷うように男の子とパンを頬張った小さい女の子を見た。そしてセティに頷く。
「私どもで出来ることでしたら」
「簡単さ。これから言う通りに祈ってくれ」
僕が知らない神様のお名前と祈りの内容を、事細かに説明している。それから周囲の人にも同じように協力してもらえるか、尋ねた。祈れば、その場でパンや肉をあげる約束をする。
「食事と引き換えなら、きっと祈ってくれます」
「そりゃよかった。任せるぞ。食事は明日からこの家の前で配ることにする」
セティが約束して家を出ると、外にはたくさんの人が集まっていた。酸っぱい臭いがする人達に、セティは同じ話を繰り返した。明日この場所に来て祈れば、食べる物を渡す。2回以上祈ったら、病気もタダで治すと追加した。
「都合のいいことばかり言いやがって、絶対に何か企んでるぞ」
瓶を持ってお酒の匂いをさせた男の人が騒ぐ。それをセティは一言で黙らせた。
「嫌なら来るな」
ざわめいた人達がぴたりと黙る。顔を見合わせた後、セティに頭を下げて帰っていった。明日、ちゃんと来てくれるのかな。
「心配しなくてもいい。絶対に集まってくるから」
案内してくれた子にお礼の飴を渡したら、目を丸くした。誰かに取られる前に口に入れ、幸せそうに笑う。僕より年下だけど、頑張ってきたんだと思う。とてとて近づいた子に、飴を譲ってしまった。弟なのかな。嬉しそうに笑う小さい子に渡したら、ご褒美がなくなっちゃうのに。
ちらっとセティを見上げたら、いいぞと言ってくれた。だからもう一つ出して、男の子の口へ押し込む。
「これは君の」
ぼそぼそと小さな声で、お礼を言う。また明日と約束して別れた。セティが何か口の中でお呪いをしていたけど、なんだろう?
屋台があった広場に戻り、まだお店を開いている肉串のおじさんにたくさん注文する。近くのパン屋さんでもたくさん! 明日の朝取りに来る約束をして、お金を半分だけ渡した。
「宿を探すか」
笑うセティに僕も笑い返す。セティは難しいことを考えて、あの子達を助けてくれるんだ。僕を救ってくれたみたいに。優しい神様だもん。
でもね、僕は悪い子だからいけないお祈りをしてしまう。タイフォン神様、セティ、大切な子は僕だけにしてください。仲良しのお呪いも僕だけがいいです。
「伴侶はイシスだけだよ」
真っ赤な顔でそう囁く、僕の神様に頬を擦り寄せた。
*******宣伝*******
6/21たいあっぷ新作、先行公開!
『神狐の巫女姫☆妖奇譚』
――やだ、封印の木札が割れちゃった!?
東開大陸を支配する皇族の末っ子姫アイリーンは、封印された魔物をうっかり逃してしまう。バレないうちにと陰陽術を使い、夜中に狗の魔物と戦う。そんな彼女が魔物を追って侵入したのは、隣の大陸フルールのビュシェルベルジェール王家直轄の墓所だった!
狐面で忍び込む御転婆姫と、仮面で応じる英雄王子。危険な場面で助け合いながらも、魔物の取り合いが始まる。皇家や王家の思惑も入り混じる中、ドタバタする彼と彼女の恋の行方は?!
イラスト&原作協力 蒼巳生姜様
小説 綾雅(りょうが)
たいあっぷで意気投合した新作です!!
妖退治に奔走する2人。恋愛部分はすれ違いラブコメ風、双片想い。ハッピーエンド確定です。
ぜひ、ブクマしてお楽しみください(o´-ω-)o)ペコッ
42
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる