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229.我が侭を言ってみたかった
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大きな落差がある川を見た。ごおお、と激しい音を立てて水が流れ落ちる。コカトリスは水浴びを始め、僕達はここでご飯を食べることにした。セティが肉を切ってる間に、僕は鍋のお湯を見てる係だ。手を入れない、鍋に触らない。この約束を守って、薬草や干し肉でできた香草玉を中に入れた。
いい匂いがする。薬草の種類を変えた香草玉が何種類も売ってるの。どれがいいか迷ってたら、セティが全部買ったんだ。右から左まで全部の種類を試すから、今日は知らない味だ。すっとする匂いがした。この薬草は前に採ったことあるよ。お茶に使う草だ。
「イシスはちゃんと覚えてて偉い」
褒めてもらえた。撫でるセティの手が優しくて目を細める。きらきらと日差しが落ちてくる木陰は気持ちよかった。セティも肉や白い粒をたくさん入れたら隣に座る。
「この滝は龍が登ると伝えられる、大陸でも一番大きな滝だぞ」
「龍? ドラゴンのこと?」
お父さんもここを登ったなら、ボリスも挑戦するのかな。するとセティが絵本を取り出し、中を捲った。まだ読んだことない絵本だ。確認しながら真ん中を過ぎたあたりを開いて見せてくれた。大きな蛇みたいなのに、前の方に小さな足と小さな翼がついた姿の動物だ。絵を見る限りだと、お父さん達みたいに鱗が生えてるみたい。
前にセティが描いてくれた絵みたいに長細い生き物だった。
「そうだ、鱗があって長細い。ドラゴンじゃないが、仲間だぞ」
お父さん達の仲間、じゃあお友達になれるかも知れない。昇るときは魚の姿で来て、一気に滝を下から上へ泳ぎ切ると聞いた。縦に昇るの大変だね。成功できるのは少しだけで、あとは失敗しちゃうんだって。僕なら絶対に落ちちゃうよ。
「昇るところ、見られる?」
「挑戦する奴がいれば見られるだろうが、今は時期じゃないな」
時期があるの? それじゃ仕方ないね。僕が好きな紫の葡萄も、時期じゃないと実がならないんだって。花が咲く時期や休む時期があると本で知った。鍋からのいい匂いに釣られて、コカトリスが滝の下にある水たまりから帰ってくる。
「ご飯だよ」
呼んだら走ってきた。冷たくなった鱗を撫でて、セティが用意した肉を齧り始める。大きい塊を千切って食べるのが好きみたい。僕達は煮えた鍋の中身を食べた。火傷しないようにゆっくりと、でもお腹いっぱいに食べるの。僕は早く大きくならないと、セティが食べられないからね。
「凍った冷たい大地と、絶対に沈まない辛い水。どっちを先に見たい?」
「先に? 両方見ていいの?」
頷くセティが優しい目をしてる。知ってるよ、こういうときのセティは僕をたくさん甘やかしてくれるんだ。だから僕は我が侭を言ってみる。
「違うのはある?」
我が侭は言いたいときに口にしていいと教わった。欲しい物や行きたい場所があれば、我慢しないと約束している。守らないといけない約束だ。だから安心して言える。我が侭を言っても、セティは僕を嫌いにならないから。
「燃える水は前に見ただろ。大きな海も見たし……あとは細かい氷が降ってくる山頂か」
「僕、そこがいい」
別に凍った大地でもいいけど。セティに僕をもっと見て欲しい。僕だけ見て、僕のことだけ考えてくれないかな。そんな我が侭が胸に広がる。じわじわ温かくて、じくじく痛くて、なんだか悪い子になった気分だった。
「よし。山登りか。コカトリスは寒さに弱いから、どこかで待っててもらおうな」
セティは嫌な顔をしないで笑う。僕の頬にキスをして、ぎゅっと抱き締めてくれた。頷きながら、ちょっとだけ狡いことを考える。寒いところなら僕、ずっとセティにくっ付いててもいいかな。他の人がいない山の上ならじろじろ見る人もいないよね。
いい匂いがする。薬草の種類を変えた香草玉が何種類も売ってるの。どれがいいか迷ってたら、セティが全部買ったんだ。右から左まで全部の種類を試すから、今日は知らない味だ。すっとする匂いがした。この薬草は前に採ったことあるよ。お茶に使う草だ。
「イシスはちゃんと覚えてて偉い」
褒めてもらえた。撫でるセティの手が優しくて目を細める。きらきらと日差しが落ちてくる木陰は気持ちよかった。セティも肉や白い粒をたくさん入れたら隣に座る。
「この滝は龍が登ると伝えられる、大陸でも一番大きな滝だぞ」
「龍? ドラゴンのこと?」
お父さんもここを登ったなら、ボリスも挑戦するのかな。するとセティが絵本を取り出し、中を捲った。まだ読んだことない絵本だ。確認しながら真ん中を過ぎたあたりを開いて見せてくれた。大きな蛇みたいなのに、前の方に小さな足と小さな翼がついた姿の動物だ。絵を見る限りだと、お父さん達みたいに鱗が生えてるみたい。
前にセティが描いてくれた絵みたいに長細い生き物だった。
「そうだ、鱗があって長細い。ドラゴンじゃないが、仲間だぞ」
お父さん達の仲間、じゃあお友達になれるかも知れない。昇るときは魚の姿で来て、一気に滝を下から上へ泳ぎ切ると聞いた。縦に昇るの大変だね。成功できるのは少しだけで、あとは失敗しちゃうんだって。僕なら絶対に落ちちゃうよ。
「昇るところ、見られる?」
「挑戦する奴がいれば見られるだろうが、今は時期じゃないな」
時期があるの? それじゃ仕方ないね。僕が好きな紫の葡萄も、時期じゃないと実がならないんだって。花が咲く時期や休む時期があると本で知った。鍋からのいい匂いに釣られて、コカトリスが滝の下にある水たまりから帰ってくる。
「ご飯だよ」
呼んだら走ってきた。冷たくなった鱗を撫でて、セティが用意した肉を齧り始める。大きい塊を千切って食べるのが好きみたい。僕達は煮えた鍋の中身を食べた。火傷しないようにゆっくりと、でもお腹いっぱいに食べるの。僕は早く大きくならないと、セティが食べられないからね。
「凍った冷たい大地と、絶対に沈まない辛い水。どっちを先に見たい?」
「先に? 両方見ていいの?」
頷くセティが優しい目をしてる。知ってるよ、こういうときのセティは僕をたくさん甘やかしてくれるんだ。だから僕は我が侭を言ってみる。
「違うのはある?」
我が侭は言いたいときに口にしていいと教わった。欲しい物や行きたい場所があれば、我慢しないと約束している。守らないといけない約束だ。だから安心して言える。我が侭を言っても、セティは僕を嫌いにならないから。
「燃える水は前に見ただろ。大きな海も見たし……あとは細かい氷が降ってくる山頂か」
「僕、そこがいい」
別に凍った大地でもいいけど。セティに僕をもっと見て欲しい。僕だけ見て、僕のことだけ考えてくれないかな。そんな我が侭が胸に広がる。じわじわ温かくて、じくじく痛くて、なんだか悪い子になった気分だった。
「よし。山登りか。コカトリスは寒さに弱いから、どこかで待っててもらおうな」
セティは嫌な顔をしないで笑う。僕の頬にキスをして、ぎゅっと抱き締めてくれた。頷きながら、ちょっとだけ狡いことを考える。寒いところなら僕、ずっとセティにくっ付いててもいいかな。他の人がいない山の上ならじろじろ見る人もいないよね。
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