上 下
206 / 321

205.何も言われないと怖い

しおりを挟む
「トムがいないの、寂しいね」

 セティのお膝に座りながら呟く。いつもニャーって鳴いて、僕のお膝に乗ったのに。ガイアが来てしばらくしたら、ガイアと一緒にいる方が多くなっちゃった。今回もトムはすんなりガイアについてった。僕がお母さんなんだよ?

 少し唇を尖らせた僕に、セティがうーんと困ったような声を出した。それから頭の天辺に顎を乗せる。ぐりぐりと押されて、擽ったくて笑った。

「子どもは大人になれば番を見つけていなくなる。ずっとそうやって命は紡がれるんだ。イシスだって、お母さんのヴルムよりオレと一緒にいる方を選んだじゃないか」

 言われて、はっとした。そうだ、僕もお母さんが心配して声かけてくれたのに、セティと一緒にいると言った。これがトムも同じなら、僕はお母さんだから邪魔しちゃいけないんだ。少し寂しいけど、僕のお母さんが青いドラゴンなのは変わらない。トムのお母さんも僕だけだ。

「ほら、食うぞ。腹減ったシェリアに噛みつかれそうだ」

「しないもん!」

 文句を言うシェリアが器に顔突っ込んで、こっそり舐めてたのは全員知ってるよ。くすくす笑いながら、セティが作った鍋のスープを食べる。つるつるする麺が入ってて、香草玉は使ってなかった。知らない味だけど、これは美味しい。それにパンがないのに、お腹いっぱいになる。

「麺、美味しい」

 フォークだと逃げちゃうけど、最後にスープごと口を付けて飲んじゃった。追加を貰い、シェリアと競うように食べる。前に僕とガイアが攫われた隣の大陸の食べ物なんだって。

「しばらくして落ち着いたら、隣の大陸に行くか」

「うん! 麺以外にも美味しい物あるかな」

「あるぞ」

 セティが頷いたから楽しみになる。ゲリュオンが変な顔で「そこまで復讐にこだわらなくても」とぼやいた。

「セティ、絵本をシェリアに貸したいの」

「お前が読み終わったやつから貸すか」

 数冊取り出して、ゲリュオンに渡した。食べ終わっていたゲリュオンが本を開き、さっと目を通す。一番上はお姫様が出て来るお話、次はタイフォン神様のお話、それから王様がドラゴンと戦うお話かな。表紙が見えるたびに、読んだ本の内容を思い出す。どれも面白かったけど、本は時々嘘が書いてあるのを知った。ドラゴンはいきなり人を食べたりしなかったもん。

「イシスは前に使ってた部屋でいいか?」

「うん! 一番上の布取ったら、シーツは白かった」

 魔法で浄化するお手伝いをする約束をして、先にお風呂に移動する。シェリア達は神官が使っていた部屋で広いところを見つけたみたい。昔お爺ちゃんが使ってたのかも。僕の部屋から出て出口の手前を曲がる廊下の先は、お爺ちゃんがいた部屋があるんだ。僕は入ったことないし、鎖も届かなかったけど。

 さっきお湯を出したお風呂は……びっくり。ずっとお湯が出ていたみたい。いつもは体を洗う床もびしょ濡れで、渦を巻いて吸い込まれていた。

「出しっぱなしか」

 くすくす笑うセティがお湯を止めてくれた。ゴゴッと変な音で流れるお湯を見ていたら、泡立てた石鹸で洗われる。綺麗になったら、僕もセティの背中を洗った。髪もゆすいで湯船に入る僕を、セティが胡坐をかいて上に乗せる。

 初めて会った頃より、僕は大きくなった。セティは重くないのかな。抱き寄せられた僕が力を抜いて寄り掛かると、セティが僕の首に噛みつく。びっくりした。肩が揺れたけど、少し痛いけど、平気。でも何も言われないのは怖い。お願い、セティ……何か言って?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

法律では裁けない問題を解決します──vol.1 神様と目が合いません

ろくろくろく
BL
連れて来られたのはやくざの事務所。そこで「腎臓か角膜、どちらかを選べ」と迫られた俺。 VOL、1は人が人を好きになって行く過程です。 ハイテンポなコメディ

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

侯爵令息、はじめての婚約破棄

muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。 身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。 ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。 両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。 ※全年齢向け作品です。

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。 魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。 モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。 冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ! 女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。 なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに? 剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので 実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。 でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。 わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、 モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん! やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。 ここにはヒロインもヒーローもいやしない。 それでもどっこい生きている。 噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。    

処理中です...