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205.何も言われないと怖い

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「トムがいないの、寂しいね」

 セティのお膝に座りながら呟く。いつもニャーって鳴いて、僕のお膝に乗ったのに。ガイアが来てしばらくしたら、ガイアと一緒にいる方が多くなっちゃった。今回もトムはすんなりガイアについてった。僕がお母さんなんだよ?

 少し唇を尖らせた僕に、セティがうーんと困ったような声を出した。それから頭の天辺に顎を乗せる。ぐりぐりと押されて、擽ったくて笑った。

「子どもは大人になれば番を見つけていなくなる。ずっとそうやって命は紡がれるんだ。イシスだって、お母さんのヴルムよりオレと一緒にいる方を選んだじゃないか」

 言われて、はっとした。そうだ、僕もお母さんが心配して声かけてくれたのに、セティと一緒にいると言った。これがトムも同じなら、僕はお母さんだから邪魔しちゃいけないんだ。少し寂しいけど、僕のお母さんが青いドラゴンなのは変わらない。トムのお母さんも僕だけだ。

「ほら、食うぞ。腹減ったシェリアに噛みつかれそうだ」

「しないもん!」

 文句を言うシェリアが器に顔突っ込んで、こっそり舐めてたのは全員知ってるよ。くすくす笑いながら、セティが作った鍋のスープを食べる。つるつるする麺が入ってて、香草玉は使ってなかった。知らない味だけど、これは美味しい。それにパンがないのに、お腹いっぱいになる。

「麺、美味しい」

 フォークだと逃げちゃうけど、最後にスープごと口を付けて飲んじゃった。追加を貰い、シェリアと競うように食べる。前に僕とガイアが攫われた隣の大陸の食べ物なんだって。

「しばらくして落ち着いたら、隣の大陸に行くか」

「うん! 麺以外にも美味しい物あるかな」

「あるぞ」

 セティが頷いたから楽しみになる。ゲリュオンが変な顔で「そこまで復讐にこだわらなくても」とぼやいた。

「セティ、絵本をシェリアに貸したいの」

「お前が読み終わったやつから貸すか」

 数冊取り出して、ゲリュオンに渡した。食べ終わっていたゲリュオンが本を開き、さっと目を通す。一番上はお姫様が出て来るお話、次はタイフォン神様のお話、それから王様がドラゴンと戦うお話かな。表紙が見えるたびに、読んだ本の内容を思い出す。どれも面白かったけど、本は時々嘘が書いてあるのを知った。ドラゴンはいきなり人を食べたりしなかったもん。

「イシスは前に使ってた部屋でいいか?」

「うん! 一番上の布取ったら、シーツは白かった」

 魔法で浄化するお手伝いをする約束をして、先にお風呂に移動する。シェリア達は神官が使っていた部屋で広いところを見つけたみたい。昔お爺ちゃんが使ってたのかも。僕の部屋から出て出口の手前を曲がる廊下の先は、お爺ちゃんがいた部屋があるんだ。僕は入ったことないし、鎖も届かなかったけど。

 さっきお湯を出したお風呂は……びっくり。ずっとお湯が出ていたみたい。いつもは体を洗う床もびしょ濡れで、渦を巻いて吸い込まれていた。

「出しっぱなしか」

 くすくす笑うセティがお湯を止めてくれた。ゴゴッと変な音で流れるお湯を見ていたら、泡立てた石鹸で洗われる。綺麗になったら、僕もセティの背中を洗った。髪もゆすいで湯船に入る僕を、セティが胡坐をかいて上に乗せる。

 初めて会った頃より、僕は大きくなった。セティは重くないのかな。抱き寄せられた僕が力を抜いて寄り掛かると、セティが僕の首に噛みつく。びっくりした。肩が揺れたけど、少し痛いけど、平気。でも何も言われないのは怖い。お願い、セティ……何か言って?
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