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203.お母さん達とのお別れ

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 トムはガイアと一緒に山の上に引っ越してしまった。僕はお母さんの代わりをしてたけど、ちゃんとトムを育てられたのかな。僕はお母さんの記憶がないから、あれで合ってたのか不安だった。ドラゴンのヴルムお母さんが一緒に暮らし始めて、僕はお母さんという存在を実感する。

 優しくて甘くて、いつも僕やボリスを愛してくれるのがお母さん。だからトムがガイアと暮らして幸せなら、僕は邪魔しちゃいけないんだ。少し寂しいけど、僕にはセティがいるんだから。同じようにガイアがトムを守ってくれると思う。

 セティが「出会いと別れの繰り返し」って言った。出会うのは楽しいけど、別れるのは悲しいし寂しい。僕が知ってる人は少なくて、増えるだけの方が嬉しいのに。ぎゅっと抱っこされて移動した。今日はフェリクスお兄さんの背中だ。ボリスはルードルフお兄さんと、ゲリュオン達はお母さんが乗せてくれた。

 先頭を切って飛ぶお父さんの銀の鱗がきらきら光る。森をいくつも飛び越えて、途中で見つけた川で休憩した。お母さんが水浴びを始め、ボリスやルードルフお兄さんも川に飛び込む。そうしたら川が溢れちゃって……セティが用意した火が消えちゃった。

 ご飯を食べるための火は山に近い方へ移動して、フェリクスお兄さんがふぅと吹いてつけた。ゲリュオンが捕まえた兎を焼いて食べる間に、お父さんは牛みたいな動物を捕まえてくる。肉に齧りつくボリスが赤く汚れて、僕は笑いながら拭いた。濡らした布で拭くのは気持ちいいみたいで、強請られてお父さんやお母さんにもする。フェリクスお兄さんはちらちら見てたけど、ルードルフお兄さんは寄ってきた。

「フェリクスお兄さんも!」

 一緒に拭こうよと呼んだら、近づいて伏せる。お顔の周りを丁寧に拭いていたら、後ろで尻尾が揺れてた。機嫌悪そうな顔してたけど、平気みたい。夕方になる前に到着したいと飛び立って、少ししたら山が見えてきた。その上の方に穴が開いている。入り口に岩があって、ここは僕が知ってるよ。

「洞窟の神殿だ!」

「中の奴らは追い出して、ゆっくりしような」

 頭を撫でて額にキスをもらい、僕は大きく頷く。ここはベッドあるし、水浴びできる場所もある。でもお父さん達が入るのは狭いかな。天井が低いんだよね。

「ファルニール達は、洞窟の家に戻る。ここに泊まるのはオレ達だけだぞ」

 思わぬ言葉にびっくりする。下降するお兄さんに掴まって、山の天辺に下ろしてもらった。帰っちゃうのが嫌だと泣いたら、いつでも帰っておいでとお母さんが笑う。お父さんも僕の涙を舐めた。お兄さん達も家がある場所に帰るんだって。

 一緒にいたいと鳴くボリスとお別れの挨拶をして、絶対にまた帰るからと約束した。約束は必ず守らないといけないんだから、僕はちゃんとボリスに会いに行くよ。飛んでいくお父さんの足にしがみ付いたボリスに手を振って、また泣いた。

「いつでも会えるさ。お前はもう神様の1柱だからな」

 僕が神様の柱になったの? 柱って何する役目だろう。首を傾げながら、僕は呟いた。

「僕はセティに食べてもらう役目がいいのに」
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