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180.治療と燃える魚
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「シェリアは俺の帰りを待つ。ここから動かない。出来るな?」
「……うん」
嫌だけど我慢する。そう約束したシェリアの頭を優しく撫でたゲリュオンは、お父さんのところへ行った。何か交渉したみたい。
「任せた」
「おうよ! そっちこそ頼むぞ」
ゲリュオンと拳をぶつけて挨拶したセティが後ろに下がり、お父さんがゲリュオンを乗せて飛び立つ。その間に川から出てきたボリスを、お母さんが舐め始めた。騒ぎの大きさに籠から出てきたトムが、血の臭いにびっくりして戻る。でも入れ替わりにガイアが顔を出した。
「ちょうどよかった。お前がいたんだ」
セティはガイアの首根っこを掴んで持ち上げ、ボリスの前に置いた。起きたばかりのガイアは、大きな目をぱちくりと瞬く。首を傾げたあと、ひくひくと鼻を動かした。
「ケガしたのかい?」
テンの小さな前足を体の前で合わせて、器用に人間みたいな座り方をした。後ろにころんと転がりかけたけど、セティが手で背中を支える。その間にぶつぶつと何か唱えていたガイアが、合わせた手を広げてボリスの尻尾に乗せた。
ぐぁ? 変な声を出したボリスだけど、お母さんがしっかりと上から押さえつける。尻尾が揺れてガイアが弾き飛ばされそうになった。慌てた僕がボリスの尻尾にしがみ付いた。同時に駆けてきたシェリアも尻尾を押さえる。ごつん……嫌な音がして額が痛い。ぶつけちゃった。
「ごめんね、シェリア」
「ううん。私もごめん」
勢いが余っちゃったみたい。でも2人で体重を掛けて押さえたから、ガイアが吹き飛ばされなかった。ガイアはまだ呪文みたいな言葉を続けていて、少しだけ手の先が光る。少しすると手の光が消えて、また暗くなった。
もう夜だ。魚を煮る鍋を温める火以外に明るい場所はなくて、セティに言われた僕は1本の枝を引き抜いた。火は熱いから、直接触らないようにしないと。気を付けながら運んだ先で、やっぱりボリスは赤くなっていた。でも疲れたのか、うとうとしている。
「もう大丈夫だ、安心していいぞ」
セティが約束してくれて、ガイアも同じことを言った。ほっとした僕は、シェリアと一緒に燃える枝の側に座る。ゲリュオンが用意した木の枝を運んで、新しい焚火を作った。明るくしておけば、お父さん達の目印になりそう。
「フェリクスお兄さんはどうしたの?」
僕の不安そうな声に、セティがぎゅっと抱き締めてくれる。気になって後ろを見ると、シェリアが空を見ていた。ごめんね、ゲリュオンがいないのに僕だけ甘えて。間近にあるセティの唇が、僕の頬や額に触れる。それから腕を緩めてくれた。
「ボリスとの狩りの最中に、凶暴なコカトリスの集団に襲われたらしい。フェリクスが応戦したが、突かれたボリスは転げ落ちたそうだ。走って助けを呼びに戻った、イシスの弟は勇気があるな」
「うん……お父さんとゲリュオンが、お兄さんを助けてくれる?」
「もちろんだ」
『何か焦げてないかい?』
お母さんの疑問の声に、僕とセティは慌てて鍋に向かう。でも鍋の中は無事で、外から煙が出ていた。後ろに付いてきたシェリアが、悲しそうな声を出す。
「お魚、燃えてる」
夕食の焼き魚は炎に包まれていた。
「……うん」
嫌だけど我慢する。そう約束したシェリアの頭を優しく撫でたゲリュオンは、お父さんのところへ行った。何か交渉したみたい。
「任せた」
「おうよ! そっちこそ頼むぞ」
ゲリュオンと拳をぶつけて挨拶したセティが後ろに下がり、お父さんがゲリュオンを乗せて飛び立つ。その間に川から出てきたボリスを、お母さんが舐め始めた。騒ぎの大きさに籠から出てきたトムが、血の臭いにびっくりして戻る。でも入れ替わりにガイアが顔を出した。
「ちょうどよかった。お前がいたんだ」
セティはガイアの首根っこを掴んで持ち上げ、ボリスの前に置いた。起きたばかりのガイアは、大きな目をぱちくりと瞬く。首を傾げたあと、ひくひくと鼻を動かした。
「ケガしたのかい?」
テンの小さな前足を体の前で合わせて、器用に人間みたいな座り方をした。後ろにころんと転がりかけたけど、セティが手で背中を支える。その間にぶつぶつと何か唱えていたガイアが、合わせた手を広げてボリスの尻尾に乗せた。
ぐぁ? 変な声を出したボリスだけど、お母さんがしっかりと上から押さえつける。尻尾が揺れてガイアが弾き飛ばされそうになった。慌てた僕がボリスの尻尾にしがみ付いた。同時に駆けてきたシェリアも尻尾を押さえる。ごつん……嫌な音がして額が痛い。ぶつけちゃった。
「ごめんね、シェリア」
「ううん。私もごめん」
勢いが余っちゃったみたい。でも2人で体重を掛けて押さえたから、ガイアが吹き飛ばされなかった。ガイアはまだ呪文みたいな言葉を続けていて、少しだけ手の先が光る。少しすると手の光が消えて、また暗くなった。
もう夜だ。魚を煮る鍋を温める火以外に明るい場所はなくて、セティに言われた僕は1本の枝を引き抜いた。火は熱いから、直接触らないようにしないと。気を付けながら運んだ先で、やっぱりボリスは赤くなっていた。でも疲れたのか、うとうとしている。
「もう大丈夫だ、安心していいぞ」
セティが約束してくれて、ガイアも同じことを言った。ほっとした僕は、シェリアと一緒に燃える枝の側に座る。ゲリュオンが用意した木の枝を運んで、新しい焚火を作った。明るくしておけば、お父さん達の目印になりそう。
「フェリクスお兄さんはどうしたの?」
僕の不安そうな声に、セティがぎゅっと抱き締めてくれる。気になって後ろを見ると、シェリアが空を見ていた。ごめんね、ゲリュオンがいないのに僕だけ甘えて。間近にあるセティの唇が、僕の頬や額に触れる。それから腕を緩めてくれた。
「ボリスとの狩りの最中に、凶暴なコカトリスの集団に襲われたらしい。フェリクスが応戦したが、突かれたボリスは転げ落ちたそうだ。走って助けを呼びに戻った、イシスの弟は勇気があるな」
「うん……お父さんとゲリュオンが、お兄さんを助けてくれる?」
「もちろんだ」
『何か焦げてないかい?』
お母さんの疑問の声に、僕とセティは慌てて鍋に向かう。でも鍋の中は無事で、外から煙が出ていた。後ろに付いてきたシェリアが、悲しそうな声を出す。
「お魚、燃えてる」
夕食の焼き魚は炎に包まれていた。
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