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179.ボリスとお兄さん、遅いね

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 お魚はお腹の中身を出して、その中身は埋める。ここを食べるとお腹が痛くなるみたい。お魚はたくさんあるので、スープにも入れたけど、木に刺して焼くことになった。お母さんも火で炙った魚は好きだって言う。だから頑張って木の枝を探した。

 シェリアも手伝ってくれて、たくさんの枝を持って帰る。使えないのがいくつかあったけど、あとは大丈夫。口から刺してお腹を通って、尻尾の近くに出てくる。簡単そうに刺すゲリュオンの手元を真剣に見つめた。それからシェリアと頷き合う。

「頑張る」

「私も」

 2人で小さい魚を手に、口に枝を刺した。魚が動いたので、喉がぐえってなったのかも? と思う。苦しいのかな、ごめんなさい。涙を浮かべながらも刺した魚は、なんだかボロボロだった。魚のぬるぬるがついた手で目元を擦ったら、ヒリヒリする。

「うぅっ、セティ、セティ」

 痛い。鼻を啜りながら呼ぶと、すぐに冷たい布を当ててくれた。濡らした布で時々目の周りを擦りながら、ゆっくり冷やしていく。

「この辺の川魚は毒がある。触った手で目や口を押さえると酷い目に遭うぞ」

「うん……」

 もう酷い目に遭った。でも食べられちゃうから魚も必死だと思う。セティが追加で説明してくれた話だと、火で焼く間に毒は消える。だから焼いたり煮たりして食べるんだって。ちゃんと理由があったんだね。ようやく痛みが取れた僕は、布をそっと外した。

 ぱちぱちと瞬きして、何ともないことにほっとする。セティにお礼を言って振り向くと、ゲリュオンが膝に乗せたシェリアの目を布で覆っていた。

「セティ、あれ」

「ああ、お前と同じ目に遭った」

 くすくす笑いながら言うなんて酷いよ。僕だって知ってたら、目を擦ったりしなかったもん。ぷくっと頬を膨らませた僕を、セティが膝の上に座らせた。目の前で燃えている火に炙られて、僕が刺した魚も色が茶色くなっていく。

「……にしても、遅いな」

『フェリクスはともかく……ボリスは心配だ』

 お母さんが首を伸ばして森の方を見つめている。ボリスを連れて狩りに行ったフェリクスお兄さんが戻ってこない。徐々に日が傾いて、もうすぐ真っ暗になるのに。

『探しにいくか』

 お父さんがばさりと羽を揺らしたとき、すごい勢いで茂みが揺れて何か飛び出した。緑色の植物から、緑色の何か……ボリス!?

 ぐぁああ、ぐぁ、ああああああ! 必死で何か言うけど、僕には分からない。家族なのに、僕の弟なのに。悔しくて駆け寄り、ボリスに抱き着いた。ぬるっとする。何? 駆け寄ったセティが「血だ」と叫んだ。

「え、ボリスはケガしたの?」

 よく見ると、薄暗い中でも濡れているところと乾いた鱗の違いが分かった。傷がいっぱいで、あちこち切れてる。お母さんが慌ててボリスを咥え、川の水で洗った。川がちょっとの間、赤くなる。

「フェリクスが応戦? くそっ、こんな奥地にまで出るのか」

 お父さんと何か話したセティが舌打ちする。その姿を見て、ゲリュオンが立ち上がった。抱き上げたシェリアを僕の前におろし、僕の髪を撫でる。

「いいか、イシス。シェリアを守ってくれ」

「うん!」

 僕、ゲリュオンの代わりにシェリアを守るね。
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