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170.神様のお嫁さんは抱っこ

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 朝、少し早く起きた。テントから顔を出すと、最初にお母さんが気づいて頭を上げる。すぐにお父さんも僕を見てぱちりと瞬きした。後ろのテントの中では、まだセティが寝てるから静かに這い出る。足音をさせないで、ゆっくり歩いてテントを離れた。

 まずはお母さんに挨拶して、お父さんにも抱き着く。声を出すと響くからね。静かに挨拶していると、ぐるるると喉を鳴らすボリスが起きてきた。口を手で押さえて「静かにね」とお願いしてから挨拶をする。家族だからベロンと舐められてもいいんだよ。お父さんが僕を咥えて、鱗の上に乗せてくれた。

 少し離れたところで抱き合って寝ているお兄さん達の方を見て、僕は小声でお父さんに尋ねる。

「お兄さん達に、昨日のこと謝りたいんだけど」

『悪いことをしてないなら、謝る必要はないんだよ』

 お兄さんの声が近くで聞こえる。びっくりして、きょろきょろした。お兄さんは起きてるけど、まだ離れた場所にいる。じっと僕を見ながら、また話しかけてきた。

『風の向きを調整してるから、イシス以外に聞こえないよ』

「すごい!」

 大きな声になりそうで、口を押えて答える。お兄さんの尻尾が持ち上がって、左右に小さく振った。これがお返事? 僕も手を振った。僕とお兄さんのやり取りを見ていたボリスが真似をして、大きく尻尾を振る。面白い。

「満足したか? イシス」

 呼びかけに振り返ると、セティがテントの外にいた。僕が出て行ったの、バレちゃった。お父さんの鱗を滑り降りて、セティの方へ走った。もう音を立ててもいいね。勢いよく飛びついた僕を受け止めたセティが、抱き上げてくれる。

「僕、もう子どもじゃないんだよ?」

 だから抱っこは終わり。そう言うとセティが唇を変な形に歪めて、僕を強く抱き締めた。少し低い声で「お嫁さんは抱っこされるもんだ」って言うの。そうなの? お兄さんはお嫁さんを抱っこしてないけど、ドラゴンだから違うのかな。お父さんもお母さんを抱っこしてない。

「神族とドラゴンは違うぞ」

 そっか。神様だから抱っこなんだね。納得した僕の足元で、ガイアがボソッと呟く。

「僕はそんな話知らないけどね」

 ガイアも神様なのに変なの。トムがセティの足をよじ登ろうとして、膝の辺りで動けなくなった。ずりずりと落ちていくけど、ガイアが受け止めてくれるみたい。後ろで立ち上がってそわそわしてる。

「朝早ぇな、おい」

 のそのそと熊みたいなゲリュオンが起きてきて、目を擦るシェリアを抱っこしていた。ゲリュオンも神様だから、シェリアはお嫁さんになるんだ! 目を見開いた僕の様子にゲリュオンは首をかしげ、シェリアはゲリュオンの首にぎゅっと抱き着いた。

 僕、取ったりしないよ?
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