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155.本能が仕事していない
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起きて、謝るお母さんに魚を返した。僕はよくわかってなかったけど、危険だったみたい。お母さんの説明によると、僕は魚と一緒にグリフォンに食べられちゃうんだって。だから攫われたら魚を差し出して、僕は逃げるように言われた。
頷いたけど、あの高い場所から逃げるのは無理かも。セティは神様だし、お父さんやお母さんは空を飛べるけどね。そうしたら、とにかくセティかお父さんを呼びなさいと教えられた。そっちなら簡単に出来る。僕が大きく頷いたのを見て、お母さんは困ったような顔で笑った。
『この子の本能は仕事をしていないわ』
「仕方ない。叩かれる以外の怖さを知らないんだ」
苦笑いしたセティが答えると、お父さんやお母さんが顔を見合わせた。
「お話、終わった? 僕、トムにご飯あげる時間だよ」
許可をもらってセティの膝から降りる。あの湖から大急ぎで洞窟に戻ったので、焼いた魚の中で一番小さいのを貰ってトムの前に運んだ。籠から出てきたトムは前足も後ろ足もしっかり伸ばして、器の中の魚をくんくん匂う。すぐに小さな口で噛みついた。
もう焼いた魚なのに、滑って器の中で逃げ回る。それをトムが追いかけて、爪を立てて両手で押さえて食べ始めた。手を貸してあげようかと思ったけど、ご飯食べてる時に手を出すのはダメとガイアに教えてもらったの。嬉しそうに食べるトムの牙は鋭くて、噛まれると痛そう。半分も食べたら、トムは残しちゃった。
僕が守ったお魚だから、残さないで欲しいのに。
「僕が預かるよ」
セティみたいに収納のお部屋にしまってくれた。あの中は腐らないんだって。また明日も食べてもらえばいいよね。ほっとしながら、膝に乗ってきたガイアのために足を伸ばした。
ぺたんと座った僕は今日の大冒険をガイアに話す。頷きながら聞く白いテン姿のガイアを撫でていると、トムが間に割り込んできた。順番だよって言ったけど、トムは分からない。赤ちゃん猫だからかな、ガイアが少しずれて譲ってくれた。
ガイアとぴったりくっついて、僕の膝で丸くなったトム。よく見たら顔の横に魚の小骨が付いてる。引っ張ったら一緒に髭も掴んだみたいで、怒られちゃった。撫でていると、セティが戻ってくる。
「飯食って今日は寝るぞ。明日は朝から出かける予定だけど……弟には内緒だ」
何か考えがあるみたい。僕は魔法で汚れを落としてもらってから、薄いピンクの服に着替えた。これ、お姫様がよく着ている色だ。目を輝かせる僕に「オレのお姫様だからな」と言われた。そっか、僕はセティにとってお姫様で、大事な人なんだ。
嬉しくなって抱き着く。上から下まですとんとした服は、短いスカートだった。スカートは前に食堂で見て知ってる。ゲリュオン達にも見せてあげよう。そう思ったら、慌ててベルトという紐を腰に巻かれた。その上で丈の長い上着も着て行けと言う。
このままピンクのスカートを見せたらダメなの? 首を傾げたら、セティは鼻を押さえて蹲ってしまった。具合が悪いのかな、心配になって前に座る。スカートって足がぺたんと左右に開いて座りやすい。明日からもこの服がいいな。着替える時も両手を上にあげれば簡単だし。
「いい加減にしないと襲われるよ」
なぜか僕が叱られてテントの外へ出されちゃった。
頷いたけど、あの高い場所から逃げるのは無理かも。セティは神様だし、お父さんやお母さんは空を飛べるけどね。そうしたら、とにかくセティかお父さんを呼びなさいと教えられた。そっちなら簡単に出来る。僕が大きく頷いたのを見て、お母さんは困ったような顔で笑った。
『この子の本能は仕事をしていないわ』
「仕方ない。叩かれる以外の怖さを知らないんだ」
苦笑いしたセティが答えると、お父さんやお母さんが顔を見合わせた。
「お話、終わった? 僕、トムにご飯あげる時間だよ」
許可をもらってセティの膝から降りる。あの湖から大急ぎで洞窟に戻ったので、焼いた魚の中で一番小さいのを貰ってトムの前に運んだ。籠から出てきたトムは前足も後ろ足もしっかり伸ばして、器の中の魚をくんくん匂う。すぐに小さな口で噛みついた。
もう焼いた魚なのに、滑って器の中で逃げ回る。それをトムが追いかけて、爪を立てて両手で押さえて食べ始めた。手を貸してあげようかと思ったけど、ご飯食べてる時に手を出すのはダメとガイアに教えてもらったの。嬉しそうに食べるトムの牙は鋭くて、噛まれると痛そう。半分も食べたら、トムは残しちゃった。
僕が守ったお魚だから、残さないで欲しいのに。
「僕が預かるよ」
セティみたいに収納のお部屋にしまってくれた。あの中は腐らないんだって。また明日も食べてもらえばいいよね。ほっとしながら、膝に乗ってきたガイアのために足を伸ばした。
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ガイアとぴったりくっついて、僕の膝で丸くなったトム。よく見たら顔の横に魚の小骨が付いてる。引っ張ったら一緒に髭も掴んだみたいで、怒られちゃった。撫でていると、セティが戻ってくる。
「飯食って今日は寝るぞ。明日は朝から出かける予定だけど……弟には内緒だ」
何か考えがあるみたい。僕は魔法で汚れを落としてもらってから、薄いピンクの服に着替えた。これ、お姫様がよく着ている色だ。目を輝かせる僕に「オレのお姫様だからな」と言われた。そっか、僕はセティにとってお姫様で、大事な人なんだ。
嬉しくなって抱き着く。上から下まですとんとした服は、短いスカートだった。スカートは前に食堂で見て知ってる。ゲリュオン達にも見せてあげよう。そう思ったら、慌ててベルトという紐を腰に巻かれた。その上で丈の長い上着も着て行けと言う。
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「いい加減にしないと襲われるよ」
なぜか僕が叱られてテントの外へ出されちゃった。
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