【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

文字の大きさ
上 下
156 / 321

155.本能が仕事していない

しおりを挟む
 起きて、謝るお母さんに魚を返した。僕はよくわかってなかったけど、危険だったみたい。お母さんの説明によると、僕は魚と一緒にグリフォンに食べられちゃうんだって。だから攫われたら魚を差し出して、僕は逃げるように言われた。

 頷いたけど、あの高い場所から逃げるのは無理かも。セティは神様だし、お父さんやお母さんは空を飛べるけどね。そうしたら、とにかくセティかお父さんを呼びなさいと教えられた。そっちなら簡単に出来る。僕が大きく頷いたのを見て、お母さんは困ったような顔で笑った。

『この子の本能は仕事をしていないわ』

「仕方ない。叩かれる以外の怖さを知らないんだ」

 苦笑いしたセティが答えると、お父さんやお母さんが顔を見合わせた。

「お話、終わった? 僕、トムにご飯あげる時間だよ」

 許可をもらってセティの膝から降りる。あの湖から大急ぎで洞窟に戻ったので、焼いた魚の中で一番小さいのを貰ってトムの前に運んだ。籠から出てきたトムは前足も後ろ足もしっかり伸ばして、器の中の魚をくんくん匂う。すぐに小さな口で噛みついた。

 もう焼いた魚なのに、滑って器の中で逃げ回る。それをトムが追いかけて、爪を立てて両手で押さえて食べ始めた。手を貸してあげようかと思ったけど、ご飯食べてる時に手を出すのはダメとガイアに教えてもらったの。嬉しそうに食べるトムの牙は鋭くて、噛まれると痛そう。半分も食べたら、トムは残しちゃった。

 僕が守ったお魚だから、残さないで欲しいのに。

「僕が預かるよ」

 セティみたいに収納のお部屋にしまってくれた。あの中は腐らないんだって。また明日も食べてもらえばいいよね。ほっとしながら、膝に乗ってきたガイアのために足を伸ばした。

 ぺたんと座った僕は今日の大冒険をガイアに話す。頷きながら聞く白いテン姿のガイアを撫でていると、トムが間に割り込んできた。順番だよって言ったけど、トムは分からない。赤ちゃん猫だからかな、ガイアが少しずれて譲ってくれた。

 ガイアとぴったりくっついて、僕の膝で丸くなったトム。よく見たら顔の横に魚の小骨が付いてる。引っ張ったら一緒に髭も掴んだみたいで、怒られちゃった。撫でていると、セティが戻ってくる。

「飯食って今日は寝るぞ。明日は朝から出かける予定だけど……弟には内緒だ」

 何か考えがあるみたい。僕は魔法で汚れを落としてもらってから、薄いピンクの服に着替えた。これ、お姫様がよく着ている色だ。目を輝かせる僕に「オレのお姫様だからな」と言われた。そっか、僕はセティにとってお姫様で、大事な人なんだ。

 嬉しくなって抱き着く。上から下まですとんとした服は、短いスカートだった。スカートは前に食堂で見て知ってる。ゲリュオン達にも見せてあげよう。そう思ったら、慌ててベルトという紐を腰に巻かれた。その上で丈の長い上着も着て行けと言う。

 このままピンクのスカートを見せたらダメなの? 首を傾げたら、セティは鼻を押さえて蹲ってしまった。具合が悪いのかな、心配になって前に座る。スカートって足がぺたんと左右に開いて座りやすい。明日からもこの服がいいな。着替える時も両手を上にあげれば簡単だし。

「いい加減にしないと襲われるよ」

 なぜか僕が叱られてテントの外へ出されちゃった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼毎週、月・水・金に投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...