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152.目を離すとこれだ(SIDEセティ)

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*****SIDE セティ



 ヴルムから連絡が入るより早く、繋がったイシスののんびりした感想が飛び込んでくる。ある意味、怖がって泣いていないのは安心できた。だが、イシスの場合はいい意味ではない。単に怖いという感情の向く先が偏っているのだ。

 殴られること、叩かれること、そういった事案ならば「怖い」と表現した。しかし今回のような場合、落ちたら死んでしまうにも関わらず理解していない。今は神族だから痛いだけで済むが、もし人間の子供の時に同じ目に遭ったら死を覚悟する場面だろう。

 高い場所で掴んだ爪を緩められたら……そんな想像をしたことがなく、予想する知識も与えられなかった。落ちたら死ぬという簡単な図式も、イシスの中で繋がらない。

「どうした? タイフォン」

 狼から飛び降りて、捕まえた獲物を縛るゲリュオンが振り向く。肩を竦めて苦笑いした。目を離すとこれだ。

「攫われた」

「はぁ? ヴルムがいたんだろ。何で……いや、誰に」

「ヴルムは湖で魚を獲っていた。ついでに末っ子に泳ぎを教えてたようだ。その隙に獲物の魚ごと、グリフォンに攫われた」

「分かった」

 焦っていたゲリュオンの顔も苦笑いに変わる。話した状況と、オレの落ち着いた様子に状況を掴んだらしい。おそらく魚を掴んだイシスを小動物と間違えて攫っただけ。裏に誰かが潜む案件ではなかった。当人が怖がって泣くなら一大事だが、ひとまず地上なり巣穴に降りるまで手出しは難しい。空中で落とされる方が大変だ。

「迎えに行くから頼む」

「湖へ運んでおく」

 ゲリュオンの答えに手を挙げて応え、オレは心配そうに鼻を鳴らすフェルの首筋を叩いた。

「安心しろ、一緒に行く」

 イシスを気に入っているフェルは、自分を置いて転移されると思ったのだろう。だが差し迫った危険がないなら、フェルの俊足でも問題ない。そう告げると、空を見上げて吠えたフェルが走り出した。背に乗るオレを忘れたように、木々の隙間をすり抜ける。時々低い枝がオレを襲うので、仕方なく伏せた。

 フェルの背中に張り付くのは恰好よくないが、とにかく速い。気が急いているようで、フェルは最短距離を突っ走った。話を聞いた際に「グリフォン」という単語を口にした。フェルが知るグリフォンの生息地を目指しているらしい。

 少しすると森の木々が減って、低木ばかりの荒れ地になる。身を起こしたオレに木の枝が飛んで来ることがなくなる頃、フェルが上空を見て吠えた。数匹のグリフォンが飛ぶ中に、イシスを掴んだグリフォンが混じっている。警戒しているのか、飛ぶグリフォンの数が多かった。

 グリフォンは臆病で、一か所に種族がまとまって巣を作る。荒れ地を選ぶのは狼やネコ科の猛獣から身を守るためだった。他の動物が嫌う悪条件の荒れ地、それも崖などに好んで巣を作る。そのひとつへ向かうグリフォンを目で追った。その間もフェルは走り続ける。

「フェル、目をオレにリンクしろ」

 眷属であるフェンリルは、オレと視界や五感を重ねることが出来る。それを生かし、自らの目で地上の障害物を確認しながら走り、方角をオレの目で確認させた。あっという間に距離が詰まっていく。そこで、ようやっとグリフォン達が警戒する理由に気づいた。

 足元に大きな影がかかり、巨大なドラゴンが舞い降りる。美しい銀の鱗を日に反射させるファフニールは、オレへの挨拶を一声響かせ、追ってきたグリフォンの背後に迫った。
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