上 下
141 / 321

140.ガイアは何で怒ってるの?

しおりを挟む
 大好きなセティに抱き着いて、顔を上げるとキスしてくれた。唇に軽く触れるだけ。きっと、僕が不安そうにしていたからだね。人がいるけど、ちゅっと音をさせたキスが嬉しかった。

「あ、お父さんが攻撃されてたの!」

『問題ないぞ』

 羽に何か細い棒が刺さってない? 心配で手を伸ばして引き抜くと、ガイアが「矢だ」と呟いた。セティの足に抱き着いたガイアの声が低くて、怒ったような響きになる。もしかして矢って、痛いの? お父さん、いっぱいケガしちゃった? 僕のせいだ。

 くちゃっと顔が崩れて、泣きそうになる。唇を尖らせた僕に、微笑んだセティが指先で唇を押し返した。それから丁寧に説明してくれる。

「矢は弓という道具を使って飛ばす。遠くまで飛ぶから、フェニックスやドラゴンのように空を飛ぶ種族にも攻撃が出来るんだ。この矢は毒が塗られてる。ドラゴンが来たんで攻撃用に持ち出したんだろう」

 毒……それは意味を知らないのに、怖い響きで。僕はぎゅっと拳を握った。不安がいっぱいに胸を満たして、泣きそうになりながら見上げたお父さんは前足の爪で矢を叩き落としていた。

「お父さん、ごめん……ごめんね。僕が呼んだから」

『呼ばねば叱らなければならんぞ。危険ならば呼べと教え、イシスはそれに従った。さすがは我が息子だ。それに毒など効かぬ』

「きかないの?」

 毒って音なのかな。聞くもの? きょとんとした僕に、セティが毒の意味を教える。危険だから絶対に手を触れてはいけなくて、もし口や傷から体に入ると痛くて苦しいこと。ドラゴンやフェニックスは元から毒に強い種族だから問題ないこと。僕が知らなかった話をしている間にも、矢は飛んできた。

 三角の尖った部分がついた棒は、後ろに羽が飾られてる。見た目は綺麗だけど、三角の部分が黒く濡れていた。飛んできた矢をひょいっと掴んだセティが、見せて説明してくれる。触るなと言われたから、顔を動かして上や下から確認した。
 
 毒が無くても、この先の部分は尖ってて刺さると痛そう。顔をしかめていると、セティが矢をぽいっと後ろに捨てた。お父さんは毒の付いた矢が刺さったのに、全然元気そうだね。首を傾げて手を伸ばすと、触る前に注意される。

『濡れた部分は触れるでないぞ、矢の毒が残っておる』

「うん、痛くないの?」

『刺さると、むずむずする』

 むずむずするくらいか。お父さんは凄いな。やっぱり強いドラゴンだ。セティが空に合図すると、ずっと旋回していた燃える鳥さんが「くぅ!」と鳴いて向きを変える。帰るみたい。ありがとうとお礼を叫んで手を振った。セティを連れてきてくれたんだ。また会いに行くね。

「さて、帰るか」

「セティ、この現状を見てよくそんなこと言うね」

 ガイアがムッとした口調で怒る。でもセティは僕を迎えに来たんだし、運んでくれた鳥さんは帰ったから……僕達はお父さんと帰らないと困るよ。お父さんも忙しいから早くお母さんのところへ帰してあげたいもの。

 きょとんとした僕の頬に、苦笑いしたガイアが手を滑らせてから溜め息をついた。

「ここには捕まった子供や女性が山ほどいる。また捕まってしまうよ」

「そんなの、この大陸の神の担当だ」

 呼び方を変えたんだな、なんて軽口を添えたセティの声を聞きながら、僕は大きく欠伸をした。疲れたのかな、眠くなってきちゃった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章開始!毎週、月・水・金に投稿予定。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

処理中です...