上 下
134 / 321

133.僕が言うから引き分け

しおりを挟む
 僕がべそべそ泣きながら帰ったから、ゲリュオンとガイアに心配させちゃった。セティは悪くないから責めないで! そう言ったら、ゲリュオンは肩を竦めてパンを買いに出た。ガイアはトムと一緒にお昼寝の続きを始める。

「今日買ってきた絵本を読むか? それとも粘土を先にやるか」

 目の前に並べられた両方を見比べて、僕は粘土を突いてみる。ぐにゃりと指が入っていく感触が不思議で、そちらを手に取った。

「こっち」

「よし、何を作るかな」

 薄い茶色の粘土を捏ねると柔らかくなって、千切ったりくっつけたりした。その間に隣でセティが何かを作っているみたい。耳があって、お座りしてる? えっと、フォンかな……たぶん。

「ティフォンって本当に作るのは向いてないよね」

 起きたガイアが、ベッドから飛び降りた。近くに来て、セティの手の中にある狼みたいな形を撫でる。短い手で何度か弄ると、フォンのお人形そっくりになった。

「……やっぱ、作るのはお前の方が得意だな」

「どう違うの?」

 セティだって上手に作ってた。僕は長くした棒をくねくねと巻いてたけど、セティが作ったのがフォンだって僕はわかったよ。ガイアが作ったのもよく似てるけど、僕はセティが作ったフォンも好きだもん。出来上がった粘土のフォンは、優しく触らないと壊れそう。

「イシスが言うなら、引き分けだな」

 なぜか嬉しそうなセティ。嫌そうな顔をしたガイアだけど、すぐに笑い出した。それから前に話してた器のことを教えてくれる。

「ガイアの入ってるテンは、神だった時と同じ器を使ってる。こうやって粘土みたいに形を変えたんだ」

 買った時は四角い箱みたいだった粘土が、フォンの形や僕が巻いた渦になる。これがガイアの体に起きたのはわかるけど、どうしてテンになっちゃったの? 神様のままでもいいのに。

「僕がいると目立ちますからね。セティの旅の邪魔をする気はないんですよ」

 ガイアの説明に「ふーん」と首を傾げた。変なの、ガイアがガイアのままでも、別に邪魔にしたりしないのにね。優しいなとガイアがにこにこしていると、起きたトムが駆け寄ってきた。自分の体より高いところから飛び降りて、とことこ近づく。床に座った僕の膝に乗って、大きな欠伸をした。

 触ろうとして手を近づけると、鼻を寄せて臭いを嗅いでる。僕も反対の手の臭いを確かめたら、なんか変な臭いだった。これはトムに触るとついちゃうね。セティが用意してくれた濡れた布でよく拭いてから、トムを抱っこした。

「お? 機嫌は直ったか」

 たくさんのパンを買ったゲリュオンが、またドアじゃないところから入ってきた。転移っていう魔法を知ったから、もう驚かないけど。床にある粘土を眺めて、ぬいぐるみのフォンだと気づいたみたい。それから僕が作った渦巻きを不思議そうに見て、ぽんと手を叩いた。

「どっかで見た形だと思ったら、これに似てるじゃねえか」

 パンの入った袋をごそごそ探って、ひとつだけ取り出した。見てびっくり、僕の作った渦巻きそっくりの形のパンだった。細く捻じったパンが平らに渦を作ってる。

「甘いっていうから驚かしてやろうと買ったのに、知ってるとはなぁ」

「ううん。僕知らなかった。ありがとう、ゲリュオン」

 受け取ったパンを齧ると、表面がべたべたしてて甘かった。両手が汚れちゃったけど、とても美味しい。欲しがるトムに分けたら、ガイアも「ちょうだい」って口を開けた。一緒に食べ終えた僕達は、そのまま全員お風呂に入ることになったの。パンにかかった蜂蜜で、汚れちゃったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...