129 / 321
128.身分証の金属板をもらったよ
しおりを挟む
「擦ったらもっと痛くなるぞ。そっと目を開けてみろ」
言われるままに目を開けようとするけど、痛くてうまくいかない。ぽろぽろと涙がこぼれる僕の顔にキスがいっぱい落ちてきた。目を瞑った僕には見えないけど、このキスはセティの唇だ。痛くて握った拳から力が抜けて、ゆっくり目を開くことが出来た。
潤んだ目には、セティが滲んでいる。近づいた唇を見ていると、赤いのがべろんと僕の目を包んだ。
「なぁに?」
「砂、取れたか? 痛くないと思うが」
言われて、瞬きしてみる。ぱちぱちしても痛くない!
「痛くないよ!」
「よかった」
笑うセティに目蓋にちゅっとキスされて、僕は目を舐めて砂を取ってもらったのだと気づく。ありがとうとお礼を言えば、セティが「役得だ」って笑った。知らない言葉だけど、セティは笑うだけで説明してくれない。覚えておいて、いつか教えてもらおう。お母さん達なら知ってるよね。
「あれが街の壁だ」
指さされたのは、灰色の壁だ。石を積み重ねたんだって。前見た街は土を塗って茶色の壁だった。その土地ごとに取れる石や土が違うから、作り方が違うことを教えてもらう。宿の部屋が毎回違うのと同じだね。歩く道がだんだんと広くなる。左から別の道が出てきて、一緒になった。
街が大きくなるにつれて、右や左からいろんな道がくっついていく。駝馬が荷車を引いて、僕達を抜いていった。走りながら、駝馬が僕達をちらっと見る。小さく手を振ったら、ひーんと鼻を鳴らしてた。
たくさんの荷車の後ろに、僕達も並ぶ。一番後ろだ。セティが取り出した上掛けを被った。飛んできた砂で目を傷めないためだって。セティもローブを羽織った。僕の上掛けは帽子が付いてて、スカートみたいにひらひらしたやつ。手を出すところがないけど、腰のあたりまでだから指先出てるし困らない。
「イシス、また約束しよう。何かあったらオレの名を呼ぶ。それから手を離さない。知らない人についていかない」
「わかったよ」
頷いた僕の頭を帽子の上から撫でたセティは、僕に小さな金属の板がついた首飾りをくれた。細い鎖の先に金属の板がぶら下がってて、そこに綺麗な模様が入ってる。
「身分証ってやつだ。なくすなよ」
僕が誰かわかる板なの? 習った文字はどこにも書いてなくて、でも専用の道具があればわかるみたい。この板、すごいね。何度も撫でて「僕はイシスだからね」と教えてみる。間違えちゃうかもしれない。そう思ったんだけど、セティがすごく楽しそうに笑ってキスしてくれた。
「可愛い子だね」
「魔術師の弟子だ」
後ろから来た人が話しかけたけど、セティはそっけなく返した。ちらっと自分の金属の板を見せてる。途端に後ろの人が立ち止まって距離を開けた。この金属の板に、セティが神様だよって書いてあるの? じっくり見たけど、僕には分からなかった。残念だな。
言われるままに目を開けようとするけど、痛くてうまくいかない。ぽろぽろと涙がこぼれる僕の顔にキスがいっぱい落ちてきた。目を瞑った僕には見えないけど、このキスはセティの唇だ。痛くて握った拳から力が抜けて、ゆっくり目を開くことが出来た。
潤んだ目には、セティが滲んでいる。近づいた唇を見ていると、赤いのがべろんと僕の目を包んだ。
「なぁに?」
「砂、取れたか? 痛くないと思うが」
言われて、瞬きしてみる。ぱちぱちしても痛くない!
「痛くないよ!」
「よかった」
笑うセティに目蓋にちゅっとキスされて、僕は目を舐めて砂を取ってもらったのだと気づく。ありがとうとお礼を言えば、セティが「役得だ」って笑った。知らない言葉だけど、セティは笑うだけで説明してくれない。覚えておいて、いつか教えてもらおう。お母さん達なら知ってるよね。
「あれが街の壁だ」
指さされたのは、灰色の壁だ。石を積み重ねたんだって。前見た街は土を塗って茶色の壁だった。その土地ごとに取れる石や土が違うから、作り方が違うことを教えてもらう。宿の部屋が毎回違うのと同じだね。歩く道がだんだんと広くなる。左から別の道が出てきて、一緒になった。
街が大きくなるにつれて、右や左からいろんな道がくっついていく。駝馬が荷車を引いて、僕達を抜いていった。走りながら、駝馬が僕達をちらっと見る。小さく手を振ったら、ひーんと鼻を鳴らしてた。
たくさんの荷車の後ろに、僕達も並ぶ。一番後ろだ。セティが取り出した上掛けを被った。飛んできた砂で目を傷めないためだって。セティもローブを羽織った。僕の上掛けは帽子が付いてて、スカートみたいにひらひらしたやつ。手を出すところがないけど、腰のあたりまでだから指先出てるし困らない。
「イシス、また約束しよう。何かあったらオレの名を呼ぶ。それから手を離さない。知らない人についていかない」
「わかったよ」
頷いた僕の頭を帽子の上から撫でたセティは、僕に小さな金属の板がついた首飾りをくれた。細い鎖の先に金属の板がぶら下がってて、そこに綺麗な模様が入ってる。
「身分証ってやつだ。なくすなよ」
僕が誰かわかる板なの? 習った文字はどこにも書いてなくて、でも専用の道具があればわかるみたい。この板、すごいね。何度も撫でて「僕はイシスだからね」と教えてみる。間違えちゃうかもしれない。そう思ったんだけど、セティがすごく楽しそうに笑ってキスしてくれた。
「可愛い子だね」
「魔術師の弟子だ」
後ろから来た人が話しかけたけど、セティはそっけなく返した。ちらっと自分の金属の板を見せてる。途端に後ろの人が立ち止まって距離を開けた。この金属の板に、セティが神様だよって書いてあるの? じっくり見たけど、僕には分からなかった。残念だな。
77
お気に入りに追加
1,352
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】少年王が望むは…
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる