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128.身分証の金属板をもらったよ

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「擦ったらもっと痛くなるぞ。そっと目を開けてみろ」

 言われるままに目を開けようとするけど、痛くてうまくいかない。ぽろぽろと涙がこぼれる僕の顔にキスがいっぱい落ちてきた。目を瞑った僕には見えないけど、このキスはセティの唇だ。痛くて握った拳から力が抜けて、ゆっくり目を開くことが出来た。

 潤んだ目には、セティが滲んでいる。近づいた唇を見ていると、赤いのがべろんと僕の目を包んだ。

「なぁに?」

「砂、取れたか? 痛くないと思うが」

 言われて、瞬きしてみる。ぱちぱちしても痛くない! 

「痛くないよ!」

「よかった」

 笑うセティに目蓋にちゅっとキスされて、僕は目を舐めて砂を取ってもらったのだと気づく。ありがとうとお礼を言えば、セティが「役得だ」って笑った。知らない言葉だけど、セティは笑うだけで説明してくれない。覚えておいて、いつか教えてもらおう。お母さん達なら知ってるよね。

「あれが街の壁だ」

 指さされたのは、灰色の壁だ。石を積み重ねたんだって。前見た街は土を塗って茶色の壁だった。その土地ごとに取れる石や土が違うから、作り方が違うことを教えてもらう。宿の部屋が毎回違うのと同じだね。歩く道がだんだんと広くなる。左から別の道が出てきて、一緒になった。

 街が大きくなるにつれて、右や左からいろんな道がくっついていく。駝馬だばが荷車を引いて、僕達を抜いていった。走りながら、駝馬が僕達をちらっと見る。小さく手を振ったら、ひーんと鼻を鳴らしてた。

 たくさんの荷車の後ろに、僕達も並ぶ。一番後ろだ。セティが取り出した上掛けを被った。飛んできた砂で目を傷めないためだって。セティもローブを羽織った。僕の上掛けは帽子が付いてて、スカートみたいにひらひらしたやつ。手を出すところがないけど、腰のあたりまでだから指先出てるし困らない。

「イシス、また約束しよう。何かあったらオレの名を呼ぶ。それから手を離さない。知らない人についていかない」

「わかったよ」

 頷いた僕の頭を帽子の上から撫でたセティは、僕に小さな金属の板がついた首飾りをくれた。細い鎖の先に金属の板がぶら下がってて、そこに綺麗な模様が入ってる。

「身分証ってやつだ。なくすなよ」

 僕が誰かわかる板なの? 習った文字はどこにも書いてなくて、でも専用の道具があればわかるみたい。この板、すごいね。何度も撫でて「僕はイシスだからね」と教えてみる。間違えちゃうかもしれない。そう思ったんだけど、セティがすごく楽しそうに笑ってキスしてくれた。

「可愛い子だね」

「魔術師の弟子だ」

 後ろから来た人が話しかけたけど、セティはそっけなく返した。ちらっと自分の金属の板を見せてる。途端に後ろの人が立ち止まって距離を開けた。この金属の板に、セティが神様だよって書いてあるの? じっくり見たけど、僕には分からなかった。残念だな。
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