【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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122.弟が出来たすごく幸せな日

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 ヒビが入った弟の卵は、僕を待っていてくれたみたい。すぐに割れて、弟が出てきた。トムはみゃぁと鳴くけど、弟はぴぃって声を出した。お母さんが取った殻の隙間から出てきた弟を、僕が受け止めたんだ。ごろんと転がりかけたけど、お母さんが後ろから支えてくれた。

「僕の弟は凄い!!」

 褒める言葉はあまり知らないけど、弟が笑って頬ずりしてくれる。可愛い、こんなに可愛い弟が出来るなんて……昔の僕なら想像できなかったね。だって誰もいなくて、みんな僕を見ないフリだったから。ずっと1人だったのに。

 もし出来るなら、寂しいって思った昔の僕に「お父さんやお母さん、新しい弟だって出来るよ。僕が一番大切なセティもいるよ」って教えてあげたい。そうしたら寂しいのが小さくなると思うの。

 撫でた鱗はお父さん達と違って、柔らかいんだ。強く押したら傷になっちゃいそう。出来るだけ優しく撫でた。初めてトムに触った時くらい、僕の手をそっと動かした。ふふって笑ったら、弟も大きな口を開けて笑う。凄いんだ、僕の頭なんて一口で食べちゃいそうな口なんだよ。

 お母さんが顔を近づけて、くぱっと口の中を見せた。たくさんお肉が入ってる。生なのかな? 赤いお肉は血が混じっていた。それを見た弟が大喜びで食べ始める。お母さん、ずっと口開けてるの? 疲れちゃわないかな。頬の辺りを撫でて、お母さんが話をしなかった理由に気づいた。

 そっか。弟に上げるご飯を柔らかくしてたから、ずっと口に入ってたんだ。喋るには肉が邪魔で、でも飲んじゃったらやり直しだもんね。お母さんって偉いんだな。

 弟は両手を突っ込んで、お母さんの口から肉を食べてる。殻から出るのに、いっぱい体当たりしたから疲れたんだ。ご飯たくさん食べなよ。僕は優しく弟の鼻先も撫でる。ぐぐぅ……そんな声を出すから、子猫みたいだと思って笑っちゃった。

 振り返るとセティが頷いてくれる。僕も頷き返して、弟が食べ終わるのを待って抱き着いた。さっきより鱗が硬くなったね。これからもっと硬くなって、大きくなって、お父さんみたいに立派なドラゴンになる。そう思ったら弟を自慢したくなった。

「トム、ほら……僕の弟だよ。すごいでしょ」

 丸くなったトムを引っ張り出して、弟の前に見せた。ぱくっと口を開けた弟に子猫が飲み込まれそうになり、慌てて抱きしめる。

「ダメだよ、これは僕の子どもなんだ。僕がトムのお母さんなんだからね」

 食べちゃいけないと言い聞かせる僕に、弟は不思議そうに首を傾げた。大きな光る目が何回か瞬きして、ぐるるっと喉を鳴らして蹲る。僕より姿勢を低くして動かなくなった。

「どうしよう……」

 怒っちゃった? 僕のこと嫌いなのかも。混乱した僕に、お父さんの背中から飛び降りたセティが教えてくれた。

「こいつは、イシスに謝ったんだ。トムをもう食べないってさ」

 嬉しい! ちゃんと僕の言葉が通じてたんだね。教えてくれたセティにお礼を言って、伏せた弟に飛びついた。トムはさっさと洞窟の奥に逃げ込んでしまったけど、今は後回し。

「ありがと、僕は君も好きだよ」

 頬ずりしてくれるザラザラした鱗が擽ったくて、僕はうんと笑った。今日は弟の誕生日で、すごくいい日だ。こんなに幸せばっかりでいいのかな。
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