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120.祝福される命(SIDEセティ)

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*****SIDE セティ



 ガイアと過ごすのは、どのくらい振りだろう。最高神は双子で、創造と破壊を司る対だ。そのため常に一緒にいた。オレが壊した物を、ガイアが再生する。当たり前すぎて、何も疑うことなく互いに力を使ってきた。その繰り返しが嫌になったのは、ある神の何気ない一言だ。

 ティフォン様は壊す以外は出来ないのですか。ならば創造するガイア様が上ですな――上下なんてなかったオレ達兄弟の間に、妙な線引きが出来る。深く考えるまでもなく同等なのが当たり前のオレ達に、亀裂が生まれた瞬間だった。周囲からそう思われていた事実は、オレに衝撃をもたらした。

 破壊があって、再生がある。壊れないと創造できない――当たり前のように言葉にしたガイアの声が、素通りした。まったくオレに響かなかったのだ。自分の半身だと思ってきた存在に、疑念を抱いた。口では何とでも言える。ガイアもオレを邪魔だと思っているのでは? 疑心暗鬼は募る一方で。

 ある日弾けた。すべてを放り出して、役目も地位も捨てて飛び出す。人間の感情を知りたい……嘘ではないが、本音でもなかった。ただ逃げ出したのだろう。自分を知らない者達の中で、羽を伸ばしたかっただけ。ガイアは苦笑いしてオレの我が侭を放置した。

 ふらふらと人間の国を出入りする。いろいろな奴と出会い、言葉を交わし、時には仲間の真似事もした。疑似恋愛を楽しんだこともある。だが、いつも心は求めていた。自分だけを愛してくれる、絶対に裏切らない存在を――神の隣に立っても輝きを失わない奇跡を。

 神々の原始神殿は、神により建てられた。そのため人の行き来はなく、存在すら秘密だった。オレが出て行ってから、ガイアが自分を守るために立てた神殿は、卵の殻に似ている。半透明で外界と遮断されながらも、音や光は拒まない。引きこもる意図はなく、ガイアは休みたかったのだろう。

 理解することをずっと拒んだ現実が、するりと胸に入り込む。隣で桃を齧りながら笑う子ども1人で、こんなに気持ちが変化するなんて、な。イシスがオレの嫁でいてくれるなら、最高神の立場も悪くないじゃないか。

「ん? これは竜帝か」

 飛び込んだ刺激に、意識をそちらへ飛ばす。卵にヒビが入った通知に、イシスの顔を覗き込んだ。手にした桃がよほど気に入ったのか。右手の桃を齧りながら、左手にも持っている。これだけ欲張った行動をしたくせに、オレがくれと言ったら両方くれるのがイシスだった。

「食べる?」

「いや。竜帝……っと、イシスのお父さんからだ。卵にヒビが入ったぞ。ドラゴンの巣に帰るか?」

「本当!?」

 立ち上がったイシスは椅子の上に登り、手を伸ばして果物を集め始めた。行動の理由が分からなくて、ガイアがオレに視線を寄越す。だが問われてもオレも分からない。

「どうした、イシス。果物が気に入ったのか?」

「うん、生まれる弟に持っていくの! あとお父さんとお母さんにも食べてもらうけど、口が大きいからたくさんいるよ」

「好きなだけ持っておいき」

 くすくす笑いながら、ガイアが大量の果物を机に積み上げた。お前、我が弟ながら甘すぎるぞ。大喜びのイシスに言われて、桃を収納空間へ放り込む。

「セティ、こうやって」

 言われるまま収納の入り口を机に近づけると、ざらざらと流し込まれた。中の物が混じらないからいいが、桃は潰れやすいから取扱要注意なんだぞ。そんな言葉が浮かんだが、嬉しそうなイシスの顔に「まあいいか」と笑って流した。大量の桃を入れたが、これ……仙桃と言われる希少植物だぞ?

 ほいほいと作り出すガイアのせいで希少価値が失われている、魔力が増す危険な桃の山。オレが管理しないと一大事だ。笑うイシスを抱きかかえ、トムの首根っこを掴んで袋にねじ込む。

「悪いが……また来る」

「……っ、わかったよ」

 驚いた様子のガイアをよそに、オレは転移で洞窟へと飛んだ。その消えゆく後ろ姿に飛んできたのは、弟の嬉しそうな声。

「また来るなんて、初めて言ってくれたね」

 そうだったか? まあ、イシスがいればお前に会うのも楽しい。悪くないと思えた。
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