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119.先は長いみたい
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もらった果物を齧る。白い景色は今も同じだった。この白い煙みたいなのは、霧なんだと教えてもらう。人を惑わす効果があって、神族以外は入れない。だからこの山に来ても、皆は神殿が見えなくて帰る仕組みだって。
「宿の鍵みたいだね」
「くくっ、そうだな。イシスは賢い」
僕が知ってる中で、入る人を選ぶのは鍵。扉についていて、お金と引き換えに宿で受け取る。宿を出て行くときは返すんだ。似てるよね。
肘をついたセティは、真っ黒な服を着ていた。ゆったりと後ろに流した黒髪は艶があって、とても綺麗だ。セティの赤毛も好きだけど、やっぱり黒髪の方が好きだな。にこにこしながらセティを見つめる。
齧った果物は白くて、中は黄色かった。桃の一種なんだって、この辺でしか実らないみたい。桃の先だけピンクだった。すごく甘くて美味しい。汁が垂れちゃうから、下の肘の方から舐める。上から舐めると、間に合わなくて肘から垂れちゃうから。
「……また、大変なのを拾ったね。タイフォン」
ガイアが苦笑いするのを見て、今の言葉に入っていた神様の名前に気づいた。僕、いつも「セティ」って呼んでるけど……神様の黒髪の時は「タイフォン様」なんだよね。僕も神様とかタイフォン様と呼ばないといけないかな。
「僕もタイフォン様って呼ぶ」
「いや。セティでいいぞ――セトの愛称だ」
教えてもらったのは、生まれた頃のセティは「セト」というお名前だったこと。その後「ティフォン」と読み替えられた。元は同じ意味の言葉みたい。国によって言葉が違うのは、僕も知ってるよ。セティと初めて行った国は、言葉が通じなかったもん。
「よく覚えたな、イシス」
僕はいろいろ知らないけど、覚えるのは好きだよ。セティと話すときの言葉や、名前なんかも。知ってたらいっぱい話せるでしょう? たくさん覚えて、セティと色んなことを一緒にしたいんだ。
「天然たらしに捕まる最高神……弟としては複雑な心境だけど。お祝いを言っておくよ。おめでとう、タイフォン」
「おう」
照れたセティが、ぶっきらぼうに答える。でも嬉しいんだと思うよ。トムを撫でる手がさっきより優しいもん。
「イシスもおめでとう、これで君も神族の仲間入りだ」
「ありがと……神族って?」
「オレ達と家族になったってこと」
セティが簡単に説明してくれた。すごいよね、いつも僕が知る言葉だけで、ちゃんと教えてくれるんだ。新しい言葉もいっぱいだけど、覚えると次は僕も使えるようになるから。頑張って覚えるね。
「僕はお母さんとお父さんの子で、弟が出来るけど……セティ達も家族なの?」
お父さんとお母さん、弟。会ったことがないお兄ちゃんが全部ドラゴンで、セティとガイアは神様。トムは僕がお母さんだから家族で……いっぱいいるね。
「そうだ。全部家族だ。みんなイシスが大好きだ。だからイシスも自分を大切にしてくれ」
「うん! 僕もセティ大好きだし、ガイアも。あとお父さんやお母さん、生まれてくる弟やトムも好き!」
「……ぐぅ」
変な声出して、どうしたの? 首を傾げる僕の前で、ガイアが笑うのを我慢しながら「先は長そうだな、頑張れ」とセティの肩を叩いた。
「宿の鍵みたいだね」
「くくっ、そうだな。イシスは賢い」
僕が知ってる中で、入る人を選ぶのは鍵。扉についていて、お金と引き換えに宿で受け取る。宿を出て行くときは返すんだ。似てるよね。
肘をついたセティは、真っ黒な服を着ていた。ゆったりと後ろに流した黒髪は艶があって、とても綺麗だ。セティの赤毛も好きだけど、やっぱり黒髪の方が好きだな。にこにこしながらセティを見つめる。
齧った果物は白くて、中は黄色かった。桃の一種なんだって、この辺でしか実らないみたい。桃の先だけピンクだった。すごく甘くて美味しい。汁が垂れちゃうから、下の肘の方から舐める。上から舐めると、間に合わなくて肘から垂れちゃうから。
「……また、大変なのを拾ったね。タイフォン」
ガイアが苦笑いするのを見て、今の言葉に入っていた神様の名前に気づいた。僕、いつも「セティ」って呼んでるけど……神様の黒髪の時は「タイフォン様」なんだよね。僕も神様とかタイフォン様と呼ばないといけないかな。
「僕もタイフォン様って呼ぶ」
「いや。セティでいいぞ――セトの愛称だ」
教えてもらったのは、生まれた頃のセティは「セト」というお名前だったこと。その後「ティフォン」と読み替えられた。元は同じ意味の言葉みたい。国によって言葉が違うのは、僕も知ってるよ。セティと初めて行った国は、言葉が通じなかったもん。
「よく覚えたな、イシス」
僕はいろいろ知らないけど、覚えるのは好きだよ。セティと話すときの言葉や、名前なんかも。知ってたらいっぱい話せるでしょう? たくさん覚えて、セティと色んなことを一緒にしたいんだ。
「天然たらしに捕まる最高神……弟としては複雑な心境だけど。お祝いを言っておくよ。おめでとう、タイフォン」
「おう」
照れたセティが、ぶっきらぼうに答える。でも嬉しいんだと思うよ。トムを撫でる手がさっきより優しいもん。
「イシスもおめでとう、これで君も神族の仲間入りだ」
「ありがと……神族って?」
「オレ達と家族になったってこと」
セティが簡単に説明してくれた。すごいよね、いつも僕が知る言葉だけで、ちゃんと教えてくれるんだ。新しい言葉もいっぱいだけど、覚えると次は僕も使えるようになるから。頑張って覚えるね。
「僕はお母さんとお父さんの子で、弟が出来るけど……セティ達も家族なの?」
お父さんとお母さん、弟。会ったことがないお兄ちゃんが全部ドラゴンで、セティとガイアは神様。トムは僕がお母さんだから家族で……いっぱいいるね。
「そうだ。全部家族だ。みんなイシスが大好きだ。だからイシスも自分を大切にしてくれ」
「うん! 僕もセティ大好きだし、ガイアも。あとお父さんやお母さん、生まれてくる弟やトムも好き!」
「……ぐぅ」
変な声出して、どうしたの? 首を傾げる僕の前で、ガイアが笑うのを我慢しながら「先は長そうだな、頑張れ」とセティの肩を叩いた。
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