【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
119 / 321

118.僕はセティの物

しおりを挟む
 苦しくて咳き込んじゃう。そう思ったのに、全然苦しくない。ちゃんと息をして、何もなく吐き出す。なんで?! どうして! 不思議過ぎて、セティを振り返った。

 そこにいたのはタイフォン様。神様だった。いつもと同じ黒髪のセティなのに、当たり前みたいに「神様だ」と感じる。ここにいるのは人間のフリしてるセティじゃなくて、破壊神タイフォン様……。

は?」

「一緒だよ」

 同じ人ってこと? でもすぐに違いがわかった。言われたのは「僕も一緒」という意味。違う、いつもの僕じゃなかった。長い黒髪がふわふわと水の中を漂う。手足もいつもの僕と変わらないのに、「違う」ってだけわかった。どことか言えないけど、僕は僕なのに、今までの僕じゃない。

「僕、る」

「大丈夫、だ」

 そう笑うタイフォン様に抱き締められて、僕は安心した。大丈夫、何かが違ってても僕は同じ僕だから。僕が違う時は、セティも違う。同じで平気だ。

「お母さん達も、分かってくれるかな」

「もちろんさ」

 そのまま僕達は水の中で過ごした。明るい水面が暗くなって、きらきら輝く。そのあと赤くなったり眩しくなったりを繰り返して……僕はようやく外へ出た。目に見える風景は同じで、何もなかったみたいにガイアがトムを抱っこしてる。でもすごく時間が経ったと思うの。

 抱っこした僕を降ろすタイフォン神様を振り返ると、いつものセティだった。安心する。僕のセティがどこかに行ったかと思ったけど、いつもと同じ。長い黒髪からぽたりと水の雫が落ちるのを、手で絞って笑った。

「行ってこい。トムのお母さんなんだろ」

「おいで、トム」

 みゃぁ、鳴いたトムが目を開いて僕に飛びついた。裸だからかな、爪を立てないの偉いよね。トムが腕の中で頬ずりするけど、折角のふわふわの毛皮が濡れちゃうよ。でもトムは気にしないで、僕の手を舐めたり腕に頬ずりしたりと忙しかった。抱っこしてるトム、少し小さくなった?

「トム、縮んじゃった」

「ふふ……確かにタイフォンの言う通り、面白い考え方をする子だね」

 ガイアが笑う。優しくて、僕に意地悪しない顔で頭を撫でてくれた。にっこり笑ったら、いい子だねって褒める。この辺りはセティにそっくり。色が違ってもやっぱり双子の兄弟なんだね。

「トムが小さくなったんじゃなくて、イシスが育ったんだ」

 指摘されて、自分で手足を見るけど分からない。引き寄せるセティにしがみ付くと、今までより顔の位置が近かった。胸の真ん中に届くくらいの高さだったのに、もっと上まで届くよ。セティが屈まなくても首に手が回せる!

「僕、大きくなった!!」

「そうだな。あと少し我慢すれば、オレの物だ」

 セティが幸せそうにそう言った。拾われてからの僕はセティの物なのに、変なこと言うね。でもセティの物になるの、嬉しい。早く大きくなればいいのに。

「あまり早いと、食われちゃうよ」

 困ったような顔でガイアが呟く。聞こえないフリをするセティに、トムがよじ登った。肩の上で座ろうとして、うまくいかないみたい。手を伸ばしたらすぐに戻ってきた。抱きしめて気づく。僕の体が乾いていた。

「何にしろ、服を着て」

 ガイアが自分が着ているのと似た服を渡す。神殿に着ていったのとよく似た裾が長い服だった。僕にはすぽんと被る白いスカートの服で、上から赤や青の飾り布を巻かれる。最後に首に石がついた金色の飾りがついた。

 くるりと回って見せると、揺れた首飾りにトムが悪戯する。似合うと褒められた僕は嬉しくて、お礼を言ってもう一回ぐるりと回った。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

処理中です...