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113.お風呂でキスした

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 お魚を食べたあと、セティは僕を綺麗に洗ってくれた。あの大きな人が近づいたのが気に入らないとぼやきながら、髪の毛も綺麗に洗う。僕も真似してセティの赤毛を洗ってみた。泡がぶわっと大きくなったのが楽しくて、声を上げたらトムが飛び込んでくる。

「ちょうどいい、洗っちゃえ」

 セティが捕まえたけど、濡れた床を逃げようとしたトムは爪を立てて抵抗する。布を掛けられて動かなくなったトムは、すぐに布ごと洗われた。お湯が掛かるたび、変な声が出てるけど平気なの?

「ほら、一緒に湯船に入ってろ。トムが暴れたら離していいぞ」

 そんなことしたらトムが溺れちゃう。僕と違って小さいトムは沈んじゃうかも。不安だったけど、トムは器用に縁に爪を立てて縦に体を伸ばしてお風呂にはいった。耳や顔にお湯が掛からなければ、じっとしてるね。さっきセティが洗った時は、上から掛けたのが嫌だったみたい。

 喉もごろごろと音がして、少し耳が垂れてた。溺れないように後ろから支えられるようにして、僕も湯船に入った。この宿のお風呂、前の宿より狭い。

「セティは大きいね」

「っ!? な、何の話だ?」

「手も背も、僕も大きくなるかな」

「あ、ああ……もちろんだ」

 セティが言うなら大丈夫だね。いつまでもセティに抱っこされる大きさじゃ困るし。でも「そっちの話か」って何のこと? 他に大きいものあるの?

 トムが暴れ出したので、先に湯船から出したら部屋に走っていった。

「猫は自分で乾かすさ。毛皮を着てるから平気だ」

「僕はなんで毛皮がないの?」

「ん? ドラゴンや亀だってないだろ。種族によって違うんだよ」

 確かにお母さんは毛皮じゃない。

「ちょっと狭いな」

 僕を抱っこしたセティが湯船に座ってから、僕を膝の間に入れた。肩が少し出てるね。お湯を掬って掛ける。

「四聖獣も見たし、海も見た。あとは何がいいか」

 うーんとセティが悩み始めた。弟への土産話を探す旅だから、僕も知らないような不思議がいいな。セティが教えてくれることを覚えて、お母さん達にも話すんだ。わくわくする僕の頬をつついて、笑ったセティが頬を擦り寄せた。

 今だ! 離れる瞬間を待って、僕はセティの頬にキスをした。唇を尖らせて、えいっと抱き着く。なんか、場所が違ったかも。

「ん……んっ、ぅ」

 そこ、唇だと思う。失敗したけど、唇のキスも好き。セティが特別って言ったから、時々しかしないけど。夜にする仲良しのお呪いでも最後に1回だけだった。

 触れては離れ、唇を舌に柔らかく押される。隙間を開けると、舌が僕の口に入ってきた。歯や頬の内側を舐めて、舌を絡めて吸い上げる。くらくらするよ。心の中の大好きが全部吸い出されちゃう感じ、だけどなくならないんだ。吸われた分だけ、また心の中に出てくる。

 セティへの好きがなくならなくて、良かった。

「お、おい? イシス! やっちまった」

 焦ったセティの声がして、気づいたら目を閉じていたみたい。眠いのと違う感じで、ぼうっとする。目を開けると世界は回ってた。なんだろう、変なの。目を閉じたら、僕は柔らかい布に包まれた。それから冷たいのが気持ちよくて……よく分からなくなっちゃった。
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