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112.ボケって人の名前?
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食堂でご飯を食べる。折角マナーを覚えたのに、僕が使う場面は今のところなさそう。セティのお膝に乗って、あーんした。運ばれる魚をもぐもぐ噛んで飲み込むと、今度はスープ。これも飲んで、中に入ってた白い野菜をしっかり噛む。
「美味しいか?」
「うん」
「これはどうだ」
真っ白いお魚が出てきた。透き通ってて、お皿に描いてある花模様が薄く見える。そこにオレンジや緑のソースがかかってた。小さな赤い粒も飾ってて、緑の葉っぱも乗ってる。
「すごく綺麗」
喜んだ僕の口に、魚と野菜が一緒に運ばれる。零れそうなソースを気にしながら口に入れると、酸っぱい味がした。でもお魚は甘くて、不思議な感じ。葉っぱは苦い種類だけど、赤い粒がかりかりする。柔らかいのと硬いの、酸っぱくて甘くて苦くて……いろんなのが口の中で広がった。
「海の魚のマリネだが、食えそうか?」
こういう料理は好き嫌いがあるんだと付け加えるセティに、興奮して頬を両手で押さえながら頷いた。まだ口の中に入ってるから、話せない。でも美味しくて不思議でわくわくする。僕の顔を見て伝わったのか、セティが赤い髪を撫でてくれた。
「そっか。気に入ってよかった」
「おい、兄ちゃん。その子をちょっと貸してくれや」
セティの後ろから大きい人が話しかけてくる。見上げた先で、にやにや笑ってるけど……何か楽しいことでもあったのかな? まだ口がいっぱいなので、噛みながら見上げた。セティは聞こえてるのに、聞こえないフリで無視してた。
「もう一回食べる? 違うのもあるぞ」
見せてくれたお皿は、オレンジのお魚が乗ってる。果物みたいな色だね。匂いも違うから、きっと味も違うんだと思う。オレンジの魚を指さした。そちらも葉っぱで巻いてくれるので、口を開けて待った。
「あーん」
「骨があるかも知れないから気を付けろよ」
頷いて口に入れた魚を噛んだ。全く違う味がする。こっちはお魚の味が濃くて、でもソースは少し甘い。果物の匂いがした。ジュースみたいな甘い香りで、魚がうんと甘くなった気がした。
「どっちが好きだ?」
「こっち」
オレンジの魚を指さしたとき、後ろの男の人が叫んだ。
「無視すんじゃねえ!! おらっ」
セティの隣の椅子を蹴飛ばす。がしゃんと音がして椅子が倒れて、店の人が悲鳴を上げて逃げる。びっくりした僕も目を見開いて、咄嗟にセティの首に手を回した。僕の背をぽんと叩いて立ち上がるセティが、ゆっくり振り向く。しがみついた僕から、大きい人が見えなくなった。
「貸すわけねえだろ、ボケ」
ボケって何? 聞いたことないけど、この人の名前かな。ゲリュオンと一緒で知り合いなのかも。でもセティの声が低くて、怖い時の声になってる。
「だったら奪うだけだ」
「やれるならやってみろ」
叫んだ声の後、僕はがくっと揺れた。首に回した手に力を入れて、セティにしっかりしがみ付く。セティと一緒なら怖くないし、危ないこともない。お母さんが「おまえはティフォンに守られてなさい」って教えてくれた。
余計なことしないで抱き着いてれば大丈夫。何かが倒れるガシャンという大きな音と悲鳴、それからなぜか拍手が聞こえた。首だけ振り返ると、倒れた大きな人が見える。床に寝ると体が痛いのにね。
「ったく、飯の邪魔しやがって」
セティはもう一度椅子に座り直し、僕を膝の上に横抱きにした。店の人がまだ魚の乗ったお皿を持って行っちゃう。
「まだ食べる!」
「交換してもらうから待ってろ」
よくわかんないけど、新しいお皿が来るなら待ってる。大人しく頷いた僕の前に、同じお魚の皿が届くのは少し後で、その間にいろんな人がセティに話しかけた。僕のセティなのに……唇を尖らせた僕を見ると、みんなが申し訳なさそうに帰っていく。僕、今日は少し悪い子になったみたい。
「美味しいか?」
「うん」
「これはどうだ」
真っ白いお魚が出てきた。透き通ってて、お皿に描いてある花模様が薄く見える。そこにオレンジや緑のソースがかかってた。小さな赤い粒も飾ってて、緑の葉っぱも乗ってる。
「すごく綺麗」
喜んだ僕の口に、魚と野菜が一緒に運ばれる。零れそうなソースを気にしながら口に入れると、酸っぱい味がした。でもお魚は甘くて、不思議な感じ。葉っぱは苦い種類だけど、赤い粒がかりかりする。柔らかいのと硬いの、酸っぱくて甘くて苦くて……いろんなのが口の中で広がった。
「海の魚のマリネだが、食えそうか?」
こういう料理は好き嫌いがあるんだと付け加えるセティに、興奮して頬を両手で押さえながら頷いた。まだ口の中に入ってるから、話せない。でも美味しくて不思議でわくわくする。僕の顔を見て伝わったのか、セティが赤い髪を撫でてくれた。
「そっか。気に入ってよかった」
「おい、兄ちゃん。その子をちょっと貸してくれや」
セティの後ろから大きい人が話しかけてくる。見上げた先で、にやにや笑ってるけど……何か楽しいことでもあったのかな? まだ口がいっぱいなので、噛みながら見上げた。セティは聞こえてるのに、聞こえないフリで無視してた。
「もう一回食べる? 違うのもあるぞ」
見せてくれたお皿は、オレンジのお魚が乗ってる。果物みたいな色だね。匂いも違うから、きっと味も違うんだと思う。オレンジの魚を指さした。そちらも葉っぱで巻いてくれるので、口を開けて待った。
「あーん」
「骨があるかも知れないから気を付けろよ」
頷いて口に入れた魚を噛んだ。全く違う味がする。こっちはお魚の味が濃くて、でもソースは少し甘い。果物の匂いがした。ジュースみたいな甘い香りで、魚がうんと甘くなった気がした。
「どっちが好きだ?」
「こっち」
オレンジの魚を指さしたとき、後ろの男の人が叫んだ。
「無視すんじゃねえ!! おらっ」
セティの隣の椅子を蹴飛ばす。がしゃんと音がして椅子が倒れて、店の人が悲鳴を上げて逃げる。びっくりした僕も目を見開いて、咄嗟にセティの首に手を回した。僕の背をぽんと叩いて立ち上がるセティが、ゆっくり振り向く。しがみついた僕から、大きい人が見えなくなった。
「貸すわけねえだろ、ボケ」
ボケって何? 聞いたことないけど、この人の名前かな。ゲリュオンと一緒で知り合いなのかも。でもセティの声が低くて、怖い時の声になってる。
「だったら奪うだけだ」
「やれるならやってみろ」
叫んだ声の後、僕はがくっと揺れた。首に回した手に力を入れて、セティにしっかりしがみ付く。セティと一緒なら怖くないし、危ないこともない。お母さんが「おまえはティフォンに守られてなさい」って教えてくれた。
余計なことしないで抱き着いてれば大丈夫。何かが倒れるガシャンという大きな音と悲鳴、それからなぜか拍手が聞こえた。首だけ振り返ると、倒れた大きな人が見える。床に寝ると体が痛いのにね。
「ったく、飯の邪魔しやがって」
セティはもう一度椅子に座り直し、僕を膝の上に横抱きにした。店の人がまだ魚の乗ったお皿を持って行っちゃう。
「まだ食べる!」
「交換してもらうから待ってろ」
よくわかんないけど、新しいお皿が来るなら待ってる。大人しく頷いた僕の前に、同じお魚の皿が届くのは少し後で、その間にいろんな人がセティに話しかけた。僕のセティなのに……唇を尖らせた僕を見ると、みんなが申し訳なさそうに帰っていく。僕、今日は少し悪い子になったみたい。
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