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110.傷が消える魔法

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 大きい水たまりを海だと教えてもらった。しょっぱくて、ずっと水が揺れてる波があると海なんだって。いくら大きな水たまりでも塩が入ってないと違う名前らしい。その辺はまた教えてくれる約束をもらった。

 セティは小さい約束が好きみたい。いっぱいくれる。僕もセティが約束してくれるのが好き。セティとの間に約束があれば、ずっと一緒にいてくれるから。新しい約束を胸の中で大切にしまい込む。叶えば嬉しいし、叶わなければセティを離さない理由になる。

「あ、トムっ!」

 揺れる波に興味があったのか、トムが袋から身を乗り出して落ちた。慌ててる様子から、急いで僕の手で掬う。焦ったトムの爪が僕の手を引っかいて、じわっと赤い血が出た。

「痛い」

 思わず漏れた声に、セティが僕の手を確認した。トムはセティの腕を駆け上り、肩の上から見ている。耳がぺたんと垂れて、尻尾もあんまり動かない。ごめんねの顔なので「いいよ」と笑った。謝ったのに許してもらえないと、すごく胸が痛くなるんだよ。まだ小さいトムのお母さんは僕だもん。大事に育てなくちゃ。

「ああ、これは……傷を消すか」

 よくわかんないけど、セティに任せる。抱っこされて水から出て、砂の上を移動してから岩があるところに下ろされた。セティの足が砂だらけ。僕は歩いてないし、岩の上だからあんまり付いてないね。だから抱っこしてくれたのかも。

「ありがと」

 お礼を言うと、こつんと額を突かれた。

「まだ早い。傷を治すぞ」

「うん」

 セティがするなら、なんでも平気だと思う。トムは岩に飛び降りて、僕の腕に頬ずりして謝ってくる。

「トムは悪くないよ」

 撫でる僕の右手にある傷を確認して、セティはお水で流してくれた。赤い色が取れたけど、すぐにまた滲んでくる。さっきは海が染みたけど、今はあまり痛くなかった。

「我慢できるか?」

 頷いた僕の手を持ち上げて、セティがぺろりと指先を舐める。びっくりしている間に、傷の方へ舌が近づいた。

「セティ、ばっちいよ」

 傷を直接舐めたら赤いのがついちゃう。そう言ったのに、セティはにやっと笑って僕の血を舐めた。赤い血をちゅっと吸ったり舐めたりされて、擽ったいから手を引こうとする。がっちり腕を掴まれていて動かせなくて、恥ずかしくなった。

 なんか悪いことしてるみたい。困って固まった僕の手を丁寧に舐め終えたセティが、ほらっと腕を離してくれた。慌てて引き戻したら、痛くない。驚いて確認すると傷は全部なくなってた。

「魔法みたいだね」

「まあ……魔法だな」

 迷ったような不思議な言い方だけど、今のは魔法だったんだ。凄い! 傷が痛くなくなったし、トムの爪の線も消えちゃった。赤い血も出てない。目を見開いた後、頭を僕の足にこすりつけて動かないトムの背中を叩いた。

「見て、トム。魔法で治った!」

 トムがのたのたと顔を上げ、不思議そうな顔で傷のあった部分の匂いを嗅ぐ。それから鼻の辺りに皺を寄せて、嫌そうに唸った。

「お前のせいだろ」

 ぽんと軽くセティの手がトムの頭を叩き、唸るのをやめたけど……トムはまだ不満そう。何か気に入らなかったのかな。
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