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109.早く育てよ?(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
海は初めてだろう。弟への土産話を集めるなら、四聖獣を回るついでに寄ろうと決めていた。喜ぶイシスを波が打ち寄せる砂浜に連れて行く。潮の香りは独特で、イシスは臭いと感じたらしい。この子の感性は常識がないから面白いな。
「触ってみるか? ほら、あっちで子供が遊んでるだろう」
安全だと示すために、少し離れた砂浜で遊ぶ子供を指さす。じっと見た後、イシスは波打ち際にしゃがんだ。恐る恐る手を伸ばす姿は、未知の海に対する恐怖と好奇心が滲む。指の先が触れると、びっくりした様子で尻餅をついた。
「指に臭いついちゃった」
濡れた指先をくんくんと嗅ぐ。イシスの所作がまるで子猫みたいだ。声を出して笑い、オレは見本を示すことにした。靴を脱いで後ろへ放り、膝下まで裾を捲る。足首あたりまで水の中に入って振り返ると、驚いた顔をしたイシスがオレの顔を見る。微笑んで頷いた。
「僕も、いく」
やたら緊張してるのが可愛い。靴を脱いで、それから裾を持ち上げて……ゆっくりと足を入れる。ぱしゃりと足首を濡らす水にビクビクしながら、こちらへ手を伸ばした。受け止めてやりながら、誘導する。ばっと両手を広げて抱き着いたイシスの頭を撫でた。
この子は経験が少なすぎる。だから考えが幼い。それを好ましいと思うのに、いろいろ見せてやりたいと願う。そうしたら他の人間のように汚れて、醜く欲を露わにするかも知れない。恐怖は常に付き纏う。この子が変質したら、どこかへ預けるのだろうか。この手を離してやれるのか。
目を潰し、耳を塞ぎ、オレの名しか呼べない暗闇に閉じ込めるかもな。そんな非道で残酷な想像をする男の手を取って、無邪気に笑うイシスが哀れで愛おしかった。美しく綺麗なものだけ見せて、大切に腕の中で守りたいのに、イシスの自由を奪うことに躊躇する。
自分が奪われていた自由を望んで飛び出したくせに、イシスの前に広がる未来と自由を奪うのか――そう問われたら、オレは何も言えなかった。それが答えなのだろう。
この子は闇より光が似合った。だから閉じ込めることは諦めよう。その分だけ大人の狡さを発揮しても許されるはずだ。イシスはオレに捧げられた贄なのだから。
「しょっぱい」
目を離した隙に、イシスはさっき海につけた指を舐めたらしい。顔を顰める姿に、笑いが漏れる。オレが笑うとイシスも笑った。そんな細やかな出来事が嬉しい。
「べたべたするね」
潮風が遊ぶ髪が頬にくっついて、イシスは不思議そうに呟いた。気づくことが多いのは感受性が強いからだ。この子の良さを潰さないよう、育てるのは大変だろうがやり甲斐があった。決してオレ以外を選ばないよう、優しく包んで愛情を擦り込む。
背の羽を抜くことも切り落とすこともなく、いつでも羽ばたけるのにオレの腕に収まるよう。
「大好きだぞ、イシス」
「僕もセティが好き」
にこにこ笑うこの子を曇らせないまま、透明の状態でオレ色に染める。神々を従えて頂点に立つ戦より楽しそうじゃないか。幸せそうに笑う子供の頬や額にキスを降らせて焦らすと、最後に唇を尖らせて待っている。その唇をそっと啄んで、何度も舐めて開かせた。
絡めた舌を吸い上げると必死で呼吸しながら、両手を回して首に抱きつく。こんな可愛い贄を食わない理由がない。美味しく食べてやるから、早く育てよ?
海は初めてだろう。弟への土産話を集めるなら、四聖獣を回るついでに寄ろうと決めていた。喜ぶイシスを波が打ち寄せる砂浜に連れて行く。潮の香りは独特で、イシスは臭いと感じたらしい。この子の感性は常識がないから面白いな。
「触ってみるか? ほら、あっちで子供が遊んでるだろう」
安全だと示すために、少し離れた砂浜で遊ぶ子供を指さす。じっと見た後、イシスは波打ち際にしゃがんだ。恐る恐る手を伸ばす姿は、未知の海に対する恐怖と好奇心が滲む。指の先が触れると、びっくりした様子で尻餅をついた。
「指に臭いついちゃった」
濡れた指先をくんくんと嗅ぐ。イシスの所作がまるで子猫みたいだ。声を出して笑い、オレは見本を示すことにした。靴を脱いで後ろへ放り、膝下まで裾を捲る。足首あたりまで水の中に入って振り返ると、驚いた顔をしたイシスがオレの顔を見る。微笑んで頷いた。
「僕も、いく」
やたら緊張してるのが可愛い。靴を脱いで、それから裾を持ち上げて……ゆっくりと足を入れる。ぱしゃりと足首を濡らす水にビクビクしながら、こちらへ手を伸ばした。受け止めてやりながら、誘導する。ばっと両手を広げて抱き着いたイシスの頭を撫でた。
この子は経験が少なすぎる。だから考えが幼い。それを好ましいと思うのに、いろいろ見せてやりたいと願う。そうしたら他の人間のように汚れて、醜く欲を露わにするかも知れない。恐怖は常に付き纏う。この子が変質したら、どこかへ預けるのだろうか。この手を離してやれるのか。
目を潰し、耳を塞ぎ、オレの名しか呼べない暗闇に閉じ込めるかもな。そんな非道で残酷な想像をする男の手を取って、無邪気に笑うイシスが哀れで愛おしかった。美しく綺麗なものだけ見せて、大切に腕の中で守りたいのに、イシスの自由を奪うことに躊躇する。
自分が奪われていた自由を望んで飛び出したくせに、イシスの前に広がる未来と自由を奪うのか――そう問われたら、オレは何も言えなかった。それが答えなのだろう。
この子は闇より光が似合った。だから閉じ込めることは諦めよう。その分だけ大人の狡さを発揮しても許されるはずだ。イシスはオレに捧げられた贄なのだから。
「しょっぱい」
目を離した隙に、イシスはさっき海につけた指を舐めたらしい。顔を顰める姿に、笑いが漏れる。オレが笑うとイシスも笑った。そんな細やかな出来事が嬉しい。
「べたべたするね」
潮風が遊ぶ髪が頬にくっついて、イシスは不思議そうに呟いた。気づくことが多いのは感受性が強いからだ。この子の良さを潰さないよう、育てるのは大変だろうがやり甲斐があった。決してオレ以外を選ばないよう、優しく包んで愛情を擦り込む。
背の羽を抜くことも切り落とすこともなく、いつでも羽ばたけるのにオレの腕に収まるよう。
「大好きだぞ、イシス」
「僕もセティが好き」
にこにこ笑うこの子を曇らせないまま、透明の状態でオレ色に染める。神々を従えて頂点に立つ戦より楽しそうじゃないか。幸せそうに笑う子供の頬や額にキスを降らせて焦らすと、最後に唇を尖らせて待っている。その唇をそっと啄んで、何度も舐めて開かせた。
絡めた舌を吸い上げると必死で呼吸しながら、両手を回して首に抱きつく。こんな可愛い贄を食わない理由がない。美味しく食べてやるから、早く育てよ?
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