109 / 321
108.初めての大きな水たまり
しおりを挟む
フェルの背中に乗って移動した。びゅんびゅん景色が飛んでくの、早いんだ。木の間を走ってるのに全然ぶつからないの、偉いよね。僕だったら顔をぶつけてるもん。その前に、こんなに早く走れないかも。手を叩いて喜ぶ僕のお腹で、トムは小さく鳴きながら景色を見ていた。
袋から顔を出すトムが落ちないように、慌てて手で押さえる。そんな僕をセティがしっかり後ろから抱っこしてくれた。セティがいたら落ちないって知ってるから、僕は右や左、上も全部に目を向ける。途中でフェルが止まって休憩したけど、僕のための休憩なんだって。
フェルは凄い狼だから、ずっと走ってても疲れない。セティの説明に僕はぽかんと口を開けた。驚き過ぎて声が出て来ないよ。フェルは神様の眷族だから強いと聞いたけど、眷族って何だろう。
「眷族は、そうだな……オレの手下だ」
手下、ボスがセティになるの? 狼の群れのボスがフェルで、その上にセティがいる形みたい。いっぱいボスがいると狼は混乱しそうだね。でも頭のいい動物だから、平気なんだって。僕はあまり物を知らないから、きっと狼にはなれないと思う。
「どうした?」
「狼じゃなくても、僕も手下になれる?」
「手下じゃなくて、お嫁さんになるんだろ」
笑いながら直されちゃった。そっか、僕はお嫁さんだから狼になれなくても、手下にならなくてもいいのか。ほっとしながら、セティに抱き着いたら後ろからフェルも乗っかってきた。遊んでると思ったのかな。表面は硬い毛があるけど、中に手を入れるとふかふかの毛皮だ。
あったかい。僕、洞窟を出てからずっとあったかいままだ。少し怖い思いをしても、すぐにセティが助けてくれるし、ゲリュオンもトムもみんな優しい。お父さんとお母さんも出来た。僕、洞窟を出て本当に良かった。
にこにこしながらセティに抱き着くと、どうしてか変な顔をしてた。
「セティ、お腹痛いの?」
「……少し複雑なだけ。イシスはオレの伴侶なんだけど、って思った」
難しくてよくわかんない。でもセティが唇を尖らせてたので、背伸びしてキスしてみた。途端に嬉しそうに笑うから、大成功だった。僕がお呪いのキスすると、こんなに喜んでくれるんだね。今夜もお呪いの時にキスしてみよう。わくわくする。
「さて出発するか」
休憩は終わり。そう言って僕を抱っこしたセティは、またフェルの背中に跨った。勢いよく走るフェルの背中がぐわんと大きく動く。鍛えた筋肉が動くの、ゲリュオンみたい。大きく動く背中に、えいっと抱き着いてみる。
トムが騒いだので、潰してごめんねをした。お腹にいるから潰れちゃうね。頬ずりして満足したトムを袋にしまい、袋を背中に向けた。これならセティも後ろにいて安心だから、もう一度フェルに抱き着く。お日様みたいな匂いがする。あったかくて柔らかくて、少し鼻がむずむずした。くちゅんとくしゃみをしたら、笑ったセティに起こされちゃった。
お腹にトムの袋を戻し、セティが指さす方角を見ると……大きな水たまりがあった。すっごく大きくて、お父さんがいっぱいいても足りないくらい。右も左も全部水たまりだ!
「おっきい!!」
「海だ。初めてだろ、寄っていくぞ」
表面が揺れる水たまりの名前は「海」だった。言葉では知ってるよ、絵本に出てきた。でも絵本に描いた絵だと小さく見えたし、こんな臭いがするって分からない。なんだろう、変な臭いがする。
「これ、何の臭い?」
「海の潮の香りだ」
塩、しょっぱい白い粉。あれと臭いが違う気がするけど。首をかしげる僕に、楽しそうなセティが手を引く。離れた場所で座って動かなくなったフェルを置いて、僕達は海に近づいた。
袋から顔を出すトムが落ちないように、慌てて手で押さえる。そんな僕をセティがしっかり後ろから抱っこしてくれた。セティがいたら落ちないって知ってるから、僕は右や左、上も全部に目を向ける。途中でフェルが止まって休憩したけど、僕のための休憩なんだって。
フェルは凄い狼だから、ずっと走ってても疲れない。セティの説明に僕はぽかんと口を開けた。驚き過ぎて声が出て来ないよ。フェルは神様の眷族だから強いと聞いたけど、眷族って何だろう。
「眷族は、そうだな……オレの手下だ」
手下、ボスがセティになるの? 狼の群れのボスがフェルで、その上にセティがいる形みたい。いっぱいボスがいると狼は混乱しそうだね。でも頭のいい動物だから、平気なんだって。僕はあまり物を知らないから、きっと狼にはなれないと思う。
「どうした?」
「狼じゃなくても、僕も手下になれる?」
「手下じゃなくて、お嫁さんになるんだろ」
笑いながら直されちゃった。そっか、僕はお嫁さんだから狼になれなくても、手下にならなくてもいいのか。ほっとしながら、セティに抱き着いたら後ろからフェルも乗っかってきた。遊んでると思ったのかな。表面は硬い毛があるけど、中に手を入れるとふかふかの毛皮だ。
あったかい。僕、洞窟を出てからずっとあったかいままだ。少し怖い思いをしても、すぐにセティが助けてくれるし、ゲリュオンもトムもみんな優しい。お父さんとお母さんも出来た。僕、洞窟を出て本当に良かった。
にこにこしながらセティに抱き着くと、どうしてか変な顔をしてた。
「セティ、お腹痛いの?」
「……少し複雑なだけ。イシスはオレの伴侶なんだけど、って思った」
難しくてよくわかんない。でもセティが唇を尖らせてたので、背伸びしてキスしてみた。途端に嬉しそうに笑うから、大成功だった。僕がお呪いのキスすると、こんなに喜んでくれるんだね。今夜もお呪いの時にキスしてみよう。わくわくする。
「さて出発するか」
休憩は終わり。そう言って僕を抱っこしたセティは、またフェルの背中に跨った。勢いよく走るフェルの背中がぐわんと大きく動く。鍛えた筋肉が動くの、ゲリュオンみたい。大きく動く背中に、えいっと抱き着いてみる。
トムが騒いだので、潰してごめんねをした。お腹にいるから潰れちゃうね。頬ずりして満足したトムを袋にしまい、袋を背中に向けた。これならセティも後ろにいて安心だから、もう一度フェルに抱き着く。お日様みたいな匂いがする。あったかくて柔らかくて、少し鼻がむずむずした。くちゅんとくしゃみをしたら、笑ったセティに起こされちゃった。
お腹にトムの袋を戻し、セティが指さす方角を見ると……大きな水たまりがあった。すっごく大きくて、お父さんがいっぱいいても足りないくらい。右も左も全部水たまりだ!
「おっきい!!」
「海だ。初めてだろ、寄っていくぞ」
表面が揺れる水たまりの名前は「海」だった。言葉では知ってるよ、絵本に出てきた。でも絵本に描いた絵だと小さく見えたし、こんな臭いがするって分からない。なんだろう、変な臭いがする。
「これ、何の臭い?」
「海の潮の香りだ」
塩、しょっぱい白い粉。あれと臭いが違う気がするけど。首をかしげる僕に、楽しそうなセティが手を引く。離れた場所で座って動かなくなったフェルを置いて、僕達は海に近づいた。
53
お気に入りに追加
1,274
あなたにおすすめの小説
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる