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101.ドラゴンのお姫様になるの?

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 来るときに登った山の洞窟は、蓋がしてあった。押してみたら動かないので振り返ると、一生懸命押した僕をお父さんが不思議そうに見ている。

『何をしておるのだ』

「押したら開く扉だと思ったんだろう」

 セティが説明した途端、洞窟が揺れるほどお父さんが笑う。きょとんとした僕に近づき、『見ておれ』と岩を指さした。ふっとお父さんが息を掛けると、大きい岩がすぽんと消えた。落ちたのかと思ったけど、洞窟の下に岩は転がってない。

「これ、魔法?」

『イシスにも魔力はあるようだ。ティフォンの許可が出たら教えてやろう』

 凄い、僕も出来るようになるんだ! でも岩は結局どこへ行ったの?

「入口の岩を別の場所に転移させたんだよ。オレもたまに移動で使うだろ」

 突然景色が変わって、知らない場所に移動するやつだよね。経験したことがあるので、大きく頷いた。するとお父さんが向こうの山に片付けたと教えてくれる。あんな大きい岩も移動できるんだね。

「お父さんは強いドラゴンだね」

『帝だからな。弱くては他のドラゴンを守ってやれぬ』

「帝って何?」

 驚いた顔で僕を見て、少し考えて、何か言いかけて飲み込む。お父さんは忙しく顔色を変え、奇妙な身振り手振りをした後、大きく息を吐きだした。ぶわっと温かい風が来て、僕は笑ってしまう。なんか擽ったい。

『我は、すべてのドラゴンの頂点に立つ者だ』

「ドラゴンの王様だ」

 セティが簡単に言い直してくれた。王様って偉い人で、国を纏めて動かす人。絵本に乗ってるお姫様のお父さんだ。

「じゃあ、お姫様いる?」

 きらきらの姿したお姫様を想像した僕の問いかけに、お父さんとセティは困ったような顔をした。聞いちゃいけなかった? 絵本で王様とお姫様は一緒に描いてあるよね。

『どういうことぞ』

「お伽噺の絵本の知識だろう。この子はずっと閉じ込められていて下界を知らないからな。いっそイシスがお姫様でいいんじゃないか?」

 僕、男の子だけど。お姫様になるの?

『そうじゃな。ならば着飾るのに使うがよい』

 お父さんはそう言って、爪の先で摘まんだ箱を取り出した。僕が指輪を詰めた箱だ! 見たことある箱だし、中身も知ってるので思わず叫んでいた。

「僕が手伝ったんだよ! いっぱい入れたの!!」

「そうか、偉かったな。大変だったな」

 優しい声でセティが褒めてくれる。お父さんの優しい顔も嬉しくて、鼻先に抱き着いた。セティがさっそく箱の中身を確かめ、何か言ったがお父さんは首を横に振る。奥からお母さんの喉を鳴らす音も聞こえた。セティは取り出した首飾りと指輪を僕に着けて、抱き上げてお父さんに見せる。

『よく似合っておる。さすが我が息子だ、イシス』

「ありがとう」

 お父さんと別れを惜しんで、お母さんにも声をかけてから、僕はセティに抱っこされた。指輪の入った箱は収納のお部屋に入れたみたい。お父さんと違って指先で持つのは無理だもん。温かいお腹の袋をしっかり握った僕を抱っこして、セティはお父さんの背中に飛び乗った。

 ぶわっとお腹の辺りで何かが暴れる感じ。お父さんはひらりと落下した後で、羽を少し動かして浮いた。日差しを受けた銀の鱗はとても綺麗で、僕はお父さんの背中にしがみ付く。知り合いの燃えてる鳥さんを紹介してもらう。お父さんはお母さんのところに帰っちゃうから、卵が割れるまでお別れだった。

 両手と全身を使ってお父さんを堪能する。お腹のトムを潰さないように、時々撫でて確認した。子猫は寝るのが仕事だって教えてもらったけど、本当に一日中寝てる。僕がこんなに眠ったら目が溶けちゃいそう。周りが暖かくなって、熱くなった。

 くるくるしながら降りて、僕達は熱い山の上についた。袖で汗を拭いてたら、お父さんがつんと爪の先で額を叩く。不思議、すぐに涼しくなった。

「ありがとう! 涼しい魔法?」

『そうだ、では楽しんで来い。我が息子よ』

 お父さんはそのまま空へ飛んで行ってしまった。お母さんと卵が待ってるから、仕方ないね。何かあったら心配だもの。手を振ってぴょんぴょん跳ねながら見送った。
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