102 / 321
101.ドラゴンのお姫様になるの?
しおりを挟む
来るときに登った山の洞窟は、蓋がしてあった。押してみたら動かないので振り返ると、一生懸命押した僕をお父さんが不思議そうに見ている。
『何をしておるのだ』
「押したら開く扉だと思ったんだろう」
セティが説明した途端、洞窟が揺れるほどお父さんが笑う。きょとんとした僕に近づき、『見ておれ』と岩を指さした。ふっとお父さんが息を掛けると、大きい岩がすぽんと消えた。落ちたのかと思ったけど、洞窟の下に岩は転がってない。
「これ、魔法?」
『イシスにも魔力はあるようだ。ティフォンの許可が出たら教えてやろう』
凄い、僕も出来るようになるんだ! でも岩は結局どこへ行ったの?
「入口の岩を別の場所に転移させたんだよ。オレもたまに移動で使うだろ」
突然景色が変わって、知らない場所に移動するやつだよね。経験したことがあるので、大きく頷いた。するとお父さんが向こうの山に片付けたと教えてくれる。あんな大きい岩も移動できるんだね。
「お父さんは強いドラゴンだね」
『帝だからな。弱くては他のドラゴンを守ってやれぬ』
「帝って何?」
驚いた顔で僕を見て、少し考えて、何か言いかけて飲み込む。お父さんは忙しく顔色を変え、奇妙な身振り手振りをした後、大きく息を吐きだした。ぶわっと温かい風が来て、僕は笑ってしまう。なんか擽ったい。
『我は、すべてのドラゴンの頂点に立つ者だ』
「ドラゴンの王様だ」
セティが簡単に言い直してくれた。王様って偉い人で、国を纏めて動かす人。絵本に乗ってるお姫様のお父さんだ。
「じゃあ、お姫様いる?」
きらきらの姿したお姫様を想像した僕の問いかけに、お父さんとセティは困ったような顔をした。聞いちゃいけなかった? 絵本で王様とお姫様は一緒に描いてあるよね。
『どういうことぞ』
「お伽噺の絵本の知識だろう。この子はずっと閉じ込められていて下界を知らないからな。いっそイシスがお姫様でいいんじゃないか?」
僕、男の子だけど。お姫様になるの?
『そうじゃな。ならば着飾るのに使うがよい』
お父さんはそう言って、爪の先で摘まんだ箱を取り出した。僕が指輪を詰めた箱だ! 見たことある箱だし、中身も知ってるので思わず叫んでいた。
「僕が手伝ったんだよ! いっぱい入れたの!!」
「そうか、偉かったな。大変だったな」
優しい声でセティが褒めてくれる。お父さんの優しい顔も嬉しくて、鼻先に抱き着いた。セティがさっそく箱の中身を確かめ、何か言ったがお父さんは首を横に振る。奥からお母さんの喉を鳴らす音も聞こえた。セティは取り出した首飾りと指輪を僕に着けて、抱き上げてお父さんに見せる。
『よく似合っておる。さすが我が息子だ、イシス』
「ありがとう」
お父さんと別れを惜しんで、お母さんにも声をかけてから、僕はセティに抱っこされた。指輪の入った箱は収納のお部屋に入れたみたい。お父さんと違って指先で持つのは無理だもん。温かいお腹の袋をしっかり握った僕を抱っこして、セティはお父さんの背中に飛び乗った。
ぶわっとお腹の辺りで何かが暴れる感じ。お父さんはひらりと落下した後で、羽を少し動かして浮いた。日差しを受けた銀の鱗はとても綺麗で、僕はお父さんの背中にしがみ付く。知り合いの燃えてる鳥さんを紹介してもらう。お父さんはお母さんのところに帰っちゃうから、卵が割れるまでお別れだった。
両手と全身を使ってお父さんを堪能する。お腹のトムを潰さないように、時々撫でて確認した。子猫は寝るのが仕事だって教えてもらったけど、本当に一日中寝てる。僕がこんなに眠ったら目が溶けちゃいそう。周りが暖かくなって、熱くなった。
くるくるしながら降りて、僕達は熱い山の上についた。袖で汗を拭いてたら、お父さんがつんと爪の先で額を叩く。不思議、すぐに涼しくなった。
「ありがとう! 涼しい魔法?」
『そうだ、では楽しんで来い。我が息子よ』
お父さんはそのまま空へ飛んで行ってしまった。お母さんと卵が待ってるから、仕方ないね。何かあったら心配だもの。手を振ってぴょんぴょん跳ねながら見送った。
『何をしておるのだ』
「押したら開く扉だと思ったんだろう」
セティが説明した途端、洞窟が揺れるほどお父さんが笑う。きょとんとした僕に近づき、『見ておれ』と岩を指さした。ふっとお父さんが息を掛けると、大きい岩がすぽんと消えた。落ちたのかと思ったけど、洞窟の下に岩は転がってない。
「これ、魔法?」
『イシスにも魔力はあるようだ。ティフォンの許可が出たら教えてやろう』
凄い、僕も出来るようになるんだ! でも岩は結局どこへ行ったの?
「入口の岩を別の場所に転移させたんだよ。オレもたまに移動で使うだろ」
突然景色が変わって、知らない場所に移動するやつだよね。経験したことがあるので、大きく頷いた。するとお父さんが向こうの山に片付けたと教えてくれる。あんな大きい岩も移動できるんだね。
「お父さんは強いドラゴンだね」
『帝だからな。弱くては他のドラゴンを守ってやれぬ』
「帝って何?」
驚いた顔で僕を見て、少し考えて、何か言いかけて飲み込む。お父さんは忙しく顔色を変え、奇妙な身振り手振りをした後、大きく息を吐きだした。ぶわっと温かい風が来て、僕は笑ってしまう。なんか擽ったい。
『我は、すべてのドラゴンの頂点に立つ者だ』
「ドラゴンの王様だ」
セティが簡単に言い直してくれた。王様って偉い人で、国を纏めて動かす人。絵本に乗ってるお姫様のお父さんだ。
「じゃあ、お姫様いる?」
きらきらの姿したお姫様を想像した僕の問いかけに、お父さんとセティは困ったような顔をした。聞いちゃいけなかった? 絵本で王様とお姫様は一緒に描いてあるよね。
『どういうことぞ』
「お伽噺の絵本の知識だろう。この子はずっと閉じ込められていて下界を知らないからな。いっそイシスがお姫様でいいんじゃないか?」
僕、男の子だけど。お姫様になるの?
『そうじゃな。ならば着飾るのに使うがよい』
お父さんはそう言って、爪の先で摘まんだ箱を取り出した。僕が指輪を詰めた箱だ! 見たことある箱だし、中身も知ってるので思わず叫んでいた。
「僕が手伝ったんだよ! いっぱい入れたの!!」
「そうか、偉かったな。大変だったな」
優しい声でセティが褒めてくれる。お父さんの優しい顔も嬉しくて、鼻先に抱き着いた。セティがさっそく箱の中身を確かめ、何か言ったがお父さんは首を横に振る。奥からお母さんの喉を鳴らす音も聞こえた。セティは取り出した首飾りと指輪を僕に着けて、抱き上げてお父さんに見せる。
『よく似合っておる。さすが我が息子だ、イシス』
「ありがとう」
お父さんと別れを惜しんで、お母さんにも声をかけてから、僕はセティに抱っこされた。指輪の入った箱は収納のお部屋に入れたみたい。お父さんと違って指先で持つのは無理だもん。温かいお腹の袋をしっかり握った僕を抱っこして、セティはお父さんの背中に飛び乗った。
ぶわっとお腹の辺りで何かが暴れる感じ。お父さんはひらりと落下した後で、羽を少し動かして浮いた。日差しを受けた銀の鱗はとても綺麗で、僕はお父さんの背中にしがみ付く。知り合いの燃えてる鳥さんを紹介してもらう。お父さんはお母さんのところに帰っちゃうから、卵が割れるまでお別れだった。
両手と全身を使ってお父さんを堪能する。お腹のトムを潰さないように、時々撫でて確認した。子猫は寝るのが仕事だって教えてもらったけど、本当に一日中寝てる。僕がこんなに眠ったら目が溶けちゃいそう。周りが暖かくなって、熱くなった。
くるくるしながら降りて、僕達は熱い山の上についた。袖で汗を拭いてたら、お父さんがつんと爪の先で額を叩く。不思議、すぐに涼しくなった。
「ありがとう! 涼しい魔法?」
『そうだ、では楽しんで来い。我が息子よ』
お父さんはそのまま空へ飛んで行ってしまった。お母さんと卵が待ってるから、仕方ないね。何かあったら心配だもの。手を振ってぴょんぴょん跳ねながら見送った。
42
お気に入りに追加
1,207
あなたにおすすめの小説
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
螺旋の中の欠片
琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる