【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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97.あっさりと子猫救出(SIDEセティ)

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*****SIDE セティ



 正直、オレが助けなくてもいいと思う。アトゥムがまだ神だった頃、奴はイシスを殺そうとした。オレは消滅させる気だったのに、あのいけ好かない野郎が許せというから……。くそっ! 理由を付けても、オレは結局甘いのか。金色の毛玉となった子猫の目を思い出す。

 見つめて眉を顰めた。近づくと頭痛がする壺を割ったら、あの子猫は二度と出て来られない。代わりにオレや他の神が犠牲になる心配がなくなる。

「うぅ……面倒くせぇ」

 唸って壺の中を覗き込んだ。イシスは何も入っていないと思ったようだが、それはまだあの子が人間側にいるためだった。意識が神族に切り替われば、見える世界も変わる。黒く渦を巻く壺は、まるで呪いが詰まった箱だ。封じられた神々の怨嗟が外まであふれ出していた。

 イシスを近づけるわけにいかず、子猫を探すという言い分で離れた。卵を抱くヴルムは番の竜王の庇護を受けているため、イシスも安全が確保される。金貨の山に胡坐をかいて座った。

「ゲリュオン、エキドナ」

「どうし……げっ、なんて壺を見つけたんだよ」

 応じるのはゲリュオンの方が早い。これは彼が人の世界に紛れていて距離が近いせいだろう。間を置いてエキドナが現れた。魔物の庇護者でもある彼女は、呪いや恨みを司る女神だ。美しい女性の姿をしているが、腰から下は蛇で背に大きな羽を生やしていた。

「あら、ティフォンじゃない」

「今はタイフォンだ」

「ふーん」

 あまり興味はなさそうだ。響きをタイフォンに改めたのは、束縛する響きを嫌ったから。古い時代を知る神やドラゴンは、いまだに古い名で呼ぶ。本来の響きに近いティフォンは、それだけ大きな力の証だった。

「まあいいわ。その壺も懐かしいじゃない」

 興味深そうに覗くエキドナは、金に近い瞳を細めた。

「中に金色の子猫がいる。拾いあげてくれ」

「いつ落ちたの?」

「トムか!」

 ゲリュオンが名を呼んだことで、慌てて静かにするよう伝える。万が一にも隣の部屋にいるイシスが起きたら大変だ。慌てて口を手で押さえたゲリュオンをよそに、エキドナは簡単そうに請け負った。彼女への保険で呼んだ兄ゲリュオンは、驚いた顔で叫びかけてまた口を押さえる。

「いいわよ。すぐに出すわ……お礼に何をくれるの?」

「この壺だ」

 途端にエキドナの目の色が変わった。興奮して見開いた瞳孔が縦に裂ける。ぎらぎらと欲を露わにした美女は、無造作に手を壺に突っ込んだ。ごそごそとかき回し、「トム、トム……これかしら?」といくつか外へ放り出すが、すべて違っていた。

「元の中身は豊穣のアトゥムだ」

「ああ、こっちよ」

 今度は間違いなく子猫が出た。くたっと力が抜けた小さな毛玉は、ゲリュオンが乱暴に振ると動き出す。何かを吐き出したが、すぐに目を開いて「みゃぁ」と鳴いた。

「これと、これと、あとこれも」

 壺から出した恨みや神の欠片を中に放り込み、トムが吐いた黒い塊も拾い上げた。薄気味の悪い壺を大切そうに抱きしめ、嬉しそうに微笑む。興奮を示すように、エキドナの尻尾が金貨の山を叩いた。

「本当に貰っていいのね? もう返さないわよ」

「構わん」

 許可を出すと嬉しそうに、エキドナは何度も礼を言いながら壺を抱いて消えた。妹神の奇行には慣れているゲリュオンも、大きく溜め息を吐く。恨みや妬みが主食のエキドナにとって、あの壺はまさに黄金に匹敵する宝だった。

「……どこで拾ったんだ?」

「ここだ。ヴルムの宝物庫に転がってた」

「マジか。イシスが飲み込まれたら一大事だったぞ」

「本当だ」

 純粋で真っすぐなあの子が吸い込まれていたら、今頃どうなっていたか。想像するも恐ろしい。疲れからか、丸くなって眠る子猫の首を摘まんで持ち上げ、オレは苦笑いして肩を竦めた。
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