上 下
94 / 321

93.お母さんの捕まえた獲物

しおりを挟む
 僕はセティのお膝の上でご飯を食べる。その脇でお肉を分けてもらったトムが、「がぅ、がぅ」と声をあげながら齧りついた。お母さんは大きい動物を捕まえてきたみたい。

「あれ、なぁに?」

『グリフォンだよ。ティフォン、柔らかい腹をイシスに分けておあげ』

 聞いたことがない名前の生き物だけど、鳥の翼と尖った口がある。後ろはトムに似てる。毛がいっぱい生えていて、セティが慣れた手つきで毛を取っちゃった。ナイフみたいなのだけど、もっと長い。それを振り回すとすぐに毛が舞い散った。

「うわぁ! 凄い! 降ってくる」

 空から降ってくる羽毛を追いかけて、拾う。集めてからまた降ってくるのを拾った。白くてふわふわの毛と少し硬い黒っぽい毛がある。分けて集めた毛を見て、セティが何かを取り出した。大きい白い袋は僕が入りそうだけど、中は何もない。

「イシス、ここに集めた白い毛を入れてくれ」

「うん!」

 僕は拾った毛を座って入れ始めた。食べ終えたトムが手伝ってくれる。でもトムが手伝うと、毛が外へ飛び出しちゃうんだ。中に飛び込んで手伝うのはやめて。捕まえて、トムをお母さんに預けた。

「お母さん、トムが邪魔するから預かってて」

『ふふふ、いいよ。卵の横に置いてごらん』

 くるっと尻尾を回して、トムを捕まえたお母さん。逃げようとするたびに、トムはお母さんの尻尾に戻された。それを見て安心して、僕はまた毛を集め始める。後ろでザシュザシュ聞いたことがない音がしてるけど、羽毛集めに夢中だった。

「いっぱい!」

 これ以上入らないかな。詰めて入れたから、ぱんぱんに膨らんだ白い袋を持って振り返った。さっきのグリフォンが小さくなってる。お母さんの口が動いてるから、食べたのかな。

「おいで、イシス。肉を焼こう」

 中身が出ないようにして、袋を置いて走る。広い巣の中はとても暖かい。床にはふかふかの草が敷いてあるし、奥のさらに向こうはきらきらする宝が置いてあった。今日はお風呂がないから、後で見せてもらう約束をしてるんだ。

 周りの草が燃えないように避けて、セティが肉を焼き始めた。凄いんだよ、神様だから手のひらから炎が出るの。僕もやってみたいと言ったら、いつか教えてくれるって。楽しみだな。

 すごくいい匂いがする。お肉が焼けてきたら、トムが鼻を鳴らす音が聞こえた。

「トムにもあげようか」

「さっき食べてたから入らないんじゃないか?」

 笑いながらセティがお皿に少し分けてくれた。小さい子から先に食べるんだよ。だからトムが一番最初だ。お母さんの近くへ運ぶと、トムが飛び出してきた。

「トムをありがとう、お母さん」

 匂いを確かめずに噛みつくトムを見て、お母さんが『この子は野生じゃ生きていけないね』と困ったように笑った。野生はよくわからないけど、ずっと僕がご飯をあげるから平気だよ。そう言ったら、お母さんが僕を舐めて『いい子だね』って褒めてくれた。

 むずむずして、なんだか落ち着かない。嬉しくて、でも涙が零れそう。どうしてだろう。

『早く食べておいで』

 お母さんが背中を押してくれるまで、僕はお母さんの足の先にしがみ付いて、鱗に顔を押し付けていた。両手を広げたセティの胸に飛び込み、膝に座ってお肉を食べる。

「あーん」

 いつも通り食べるお肉は、すごく美味しくて。僕はずっとにこにこしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

処理中です...