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93.お母さんの捕まえた獲物
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僕はセティのお膝の上でご飯を食べる。その脇でお肉を分けてもらったトムが、「がぅ、がぅ」と声をあげながら齧りついた。お母さんは大きい動物を捕まえてきたみたい。
「あれ、なぁに?」
『グリフォンだよ。ティフォン、柔らかい腹をイシスに分けておあげ』
聞いたことがない名前の生き物だけど、鳥の翼と尖った口がある。後ろはトムに似てる。毛がいっぱい生えていて、セティが慣れた手つきで毛を取っちゃった。ナイフみたいなのだけど、もっと長い。それを振り回すとすぐに毛が舞い散った。
「うわぁ! 凄い! 降ってくる」
空から降ってくる羽毛を追いかけて、拾う。集めてからまた降ってくるのを拾った。白くてふわふわの毛と少し硬い黒っぽい毛がある。分けて集めた毛を見て、セティが何かを取り出した。大きい白い袋は僕が入りそうだけど、中は何もない。
「イシス、ここに集めた白い毛を入れてくれ」
「うん!」
僕は拾った毛を座って入れ始めた。食べ終えたトムが手伝ってくれる。でもトムが手伝うと、毛が外へ飛び出しちゃうんだ。中に飛び込んで手伝うのはやめて。捕まえて、トムをお母さんに預けた。
「お母さん、トムが邪魔するから預かってて」
『ふふふ、いいよ。卵の横に置いてごらん』
くるっと尻尾を回して、トムを捕まえたお母さん。逃げようとするたびに、トムはお母さんの尻尾に戻された。それを見て安心して、僕はまた毛を集め始める。後ろでザシュザシュ聞いたことがない音がしてるけど、羽毛集めに夢中だった。
「いっぱい!」
これ以上入らないかな。詰めて入れたから、ぱんぱんに膨らんだ白い袋を持って振り返った。さっきのグリフォンが小さくなってる。お母さんの口が動いてるから、食べたのかな。
「おいで、イシス。肉を焼こう」
中身が出ないようにして、袋を置いて走る。広い巣の中はとても暖かい。床にはふかふかの草が敷いてあるし、奥のさらに向こうはきらきらする宝が置いてあった。今日はお風呂がないから、後で見せてもらう約束をしてるんだ。
周りの草が燃えないように避けて、セティが肉を焼き始めた。凄いんだよ、神様だから手のひらから炎が出るの。僕もやってみたいと言ったら、いつか教えてくれるって。楽しみだな。
すごくいい匂いがする。お肉が焼けてきたら、トムが鼻を鳴らす音が聞こえた。
「トムにもあげようか」
「さっき食べてたから入らないんじゃないか?」
笑いながらセティがお皿に少し分けてくれた。小さい子から先に食べるんだよ。だからトムが一番最初だ。お母さんの近くへ運ぶと、トムが飛び出してきた。
「トムをありがとう、お母さん」
匂いを確かめずに噛みつくトムを見て、お母さんが『この子は野生じゃ生きていけないね』と困ったように笑った。野生はよくわからないけど、ずっと僕がご飯をあげるから平気だよ。そう言ったら、お母さんが僕を舐めて『いい子だね』って褒めてくれた。
むずむずして、なんだか落ち着かない。嬉しくて、でも涙が零れそう。どうしてだろう。
『早く食べておいで』
お母さんが背中を押してくれるまで、僕はお母さんの足の先にしがみ付いて、鱗に顔を押し付けていた。両手を広げたセティの胸に飛び込み、膝に座ってお肉を食べる。
「あーん」
いつも通り食べるお肉は、すごく美味しくて。僕はずっとにこにこしていた。
「あれ、なぁに?」
『グリフォンだよ。ティフォン、柔らかい腹をイシスに分けておあげ』
聞いたことがない名前の生き物だけど、鳥の翼と尖った口がある。後ろはトムに似てる。毛がいっぱい生えていて、セティが慣れた手つきで毛を取っちゃった。ナイフみたいなのだけど、もっと長い。それを振り回すとすぐに毛が舞い散った。
「うわぁ! 凄い! 降ってくる」
空から降ってくる羽毛を追いかけて、拾う。集めてからまた降ってくるのを拾った。白くてふわふわの毛と少し硬い黒っぽい毛がある。分けて集めた毛を見て、セティが何かを取り出した。大きい白い袋は僕が入りそうだけど、中は何もない。
「イシス、ここに集めた白い毛を入れてくれ」
「うん!」
僕は拾った毛を座って入れ始めた。食べ終えたトムが手伝ってくれる。でもトムが手伝うと、毛が外へ飛び出しちゃうんだ。中に飛び込んで手伝うのはやめて。捕まえて、トムをお母さんに預けた。
「お母さん、トムが邪魔するから預かってて」
『ふふふ、いいよ。卵の横に置いてごらん』
くるっと尻尾を回して、トムを捕まえたお母さん。逃げようとするたびに、トムはお母さんの尻尾に戻された。それを見て安心して、僕はまた毛を集め始める。後ろでザシュザシュ聞いたことがない音がしてるけど、羽毛集めに夢中だった。
「いっぱい!」
これ以上入らないかな。詰めて入れたから、ぱんぱんに膨らんだ白い袋を持って振り返った。さっきのグリフォンが小さくなってる。お母さんの口が動いてるから、食べたのかな。
「おいで、イシス。肉を焼こう」
中身が出ないようにして、袋を置いて走る。広い巣の中はとても暖かい。床にはふかふかの草が敷いてあるし、奥のさらに向こうはきらきらする宝が置いてあった。今日はお風呂がないから、後で見せてもらう約束をしてるんだ。
周りの草が燃えないように避けて、セティが肉を焼き始めた。凄いんだよ、神様だから手のひらから炎が出るの。僕もやってみたいと言ったら、いつか教えてくれるって。楽しみだな。
すごくいい匂いがする。お肉が焼けてきたら、トムが鼻を鳴らす音が聞こえた。
「トムにもあげようか」
「さっき食べてたから入らないんじゃないか?」
笑いながらセティがお皿に少し分けてくれた。小さい子から先に食べるんだよ。だからトムが一番最初だ。お母さんの近くへ運ぶと、トムが飛び出してきた。
「トムをありがとう、お母さん」
匂いを確かめずに噛みつくトムを見て、お母さんが『この子は野生じゃ生きていけないね』と困ったように笑った。野生はよくわからないけど、ずっと僕がご飯をあげるから平気だよ。そう言ったら、お母さんが僕を舐めて『いい子だね』って褒めてくれた。
むずむずして、なんだか落ち着かない。嬉しくて、でも涙が零れそう。どうしてだろう。
『早く食べておいで』
お母さんが背中を押してくれるまで、僕はお母さんの足の先にしがみ付いて、鱗に顔を押し付けていた。両手を広げたセティの胸に飛び込み、膝に座ってお肉を食べる。
「あーん」
いつも通り食べるお肉は、すごく美味しくて。僕はずっとにこにこしていた。
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