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90.初めてのドラゴン遭遇
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ドラゴンの巣……そう呼ばれる大きな山に来た。危ない場所だからフォンは収納のお部屋へ片付けて、トムは籠に入れる。
「出てきちゃダメだよ、食べられちゃう」
籠でじたばたするトムに言い聞かせる。でも暴れて出てきちゃった。困って抱っこすると、しっかりしがみ付いて服に爪を立てた。
「どうしよう」
「怖いのかもな。こうして抱っこしてろ」
籠を収納へ放り込んだセティが、代わりに小さなバッグを出してくれた。後ろに背負うやつじゃなくて、肩にかける長い紐がついてる。袋の口を開けて待つと、金色の子猫はすぐに潜り込んだ。匂いを嗅いで確認してから入っていくんだよ、可愛い。
中で丸くなったみたいで、抱っこしやすい。右手はセティと繋ぐから、反対の手でトムを撫でた。お腹と手が温かい。山の真ん中まで、えいって飛んだ。宿のお部屋で目を閉じて、セティの合図で開いたら山にいたんだけど。凄い! これは神様の力なんだって。
きっと僕は使えないけど楽だし、セティは「ズルだから秘密だぞ」って言った。頷いて、そうだよねと思う。他の人もズルしたくなってお願いしに来たら、セティが疲れちゃうもの。秘密で、誰にも言わないようにしなくちゃいけない。
草が生えている道を上って、少しすると道がなくなった。大きな石がごろごろ転がってて、すごく暑い。
「辛くなったら言え。我慢しちゃダメだぞ」
「もっと平気」
まだ上まで歩けるよ。僕はトムのお母さんだもん。ときどき石を飛び越えるために抱っこしてもらいながら、ようやく山の天辺が見える場所まで来た。もぞもぞとトムが動いて、ひょこっと顔を覗かせる。くんくんと臭いを嗅いでた。
この辺、変な臭いがするね。トムも気づいたんだと思う。でもすぐに中に引っ込んじゃった。
「トムは猫だから、イシスより鼻がいい」
「僕より臭いの感じる?」
「そうだな。あまりいい臭いじゃないから消しておくか」
ひらひらとセティが手を振ると、臭いのが消えた。またトムが顔を出して、鼻をひくひくさせる。トムは臭いがすぐ分かるんだね。撫でたら喉をごろごろ鳴らしてた。
「そろそろ出てくるはずだ」
セティはこの場所をよく知ってるみたい。ドラゴンを見せてもらうんだ。きっと見上げるくらい大きくて、羽はふわっと柔らかくて、体がうんと硬いんだよ。だって強いって書いてあった。昨日の夜もお呪いの後で、ドラゴンが出る本を読んでもらって覚えたんだ。
『そこの純粋な魂は、贄かい? おや、久しぶりだね……ティフォンじゃないか』
タイフォンの神様のこと? 白い煙の中に、何か大きい生き物がいた。きっとドラゴンだ、凄い! 絵本で勉強したより、ずっと大きいや! こんなに大きいとご飯もたくさんいるんだろうな。
「オレの嫁だ」
『嫁?! は、あ……あのティフォンが遂に伴侶を見つけたなんて、誰に言っても信じないだろうね』
ふわっと風が吹いた。煙の間から青い色が見える。きらきらして絵本のお姫様の服みたい。
「ドラゴンって、綺麗なんだね」
触ってみたいな。そう思ったら、今度はもっと強い風が吹いた。見たこともない大きさの、青いドラゴンがいる。絵本で見るのと同じ姿だけど、背中に羽がないみたい。首をかしげると、くすくす笑いながらセティが声をかけた。
「悪いが、羽を見せてやってくれ」
「出てきちゃダメだよ、食べられちゃう」
籠でじたばたするトムに言い聞かせる。でも暴れて出てきちゃった。困って抱っこすると、しっかりしがみ付いて服に爪を立てた。
「どうしよう」
「怖いのかもな。こうして抱っこしてろ」
籠を収納へ放り込んだセティが、代わりに小さなバッグを出してくれた。後ろに背負うやつじゃなくて、肩にかける長い紐がついてる。袋の口を開けて待つと、金色の子猫はすぐに潜り込んだ。匂いを嗅いで確認してから入っていくんだよ、可愛い。
中で丸くなったみたいで、抱っこしやすい。右手はセティと繋ぐから、反対の手でトムを撫でた。お腹と手が温かい。山の真ん中まで、えいって飛んだ。宿のお部屋で目を閉じて、セティの合図で開いたら山にいたんだけど。凄い! これは神様の力なんだって。
きっと僕は使えないけど楽だし、セティは「ズルだから秘密だぞ」って言った。頷いて、そうだよねと思う。他の人もズルしたくなってお願いしに来たら、セティが疲れちゃうもの。秘密で、誰にも言わないようにしなくちゃいけない。
草が生えている道を上って、少しすると道がなくなった。大きな石がごろごろ転がってて、すごく暑い。
「辛くなったら言え。我慢しちゃダメだぞ」
「もっと平気」
まだ上まで歩けるよ。僕はトムのお母さんだもん。ときどき石を飛び越えるために抱っこしてもらいながら、ようやく山の天辺が見える場所まで来た。もぞもぞとトムが動いて、ひょこっと顔を覗かせる。くんくんと臭いを嗅いでた。
この辺、変な臭いがするね。トムも気づいたんだと思う。でもすぐに中に引っ込んじゃった。
「トムは猫だから、イシスより鼻がいい」
「僕より臭いの感じる?」
「そうだな。あまりいい臭いじゃないから消しておくか」
ひらひらとセティが手を振ると、臭いのが消えた。またトムが顔を出して、鼻をひくひくさせる。トムは臭いがすぐ分かるんだね。撫でたら喉をごろごろ鳴らしてた。
「そろそろ出てくるはずだ」
セティはこの場所をよく知ってるみたい。ドラゴンを見せてもらうんだ。きっと見上げるくらい大きくて、羽はふわっと柔らかくて、体がうんと硬いんだよ。だって強いって書いてあった。昨日の夜もお呪いの後で、ドラゴンが出る本を読んでもらって覚えたんだ。
『そこの純粋な魂は、贄かい? おや、久しぶりだね……ティフォンじゃないか』
タイフォンの神様のこと? 白い煙の中に、何か大きい生き物がいた。きっとドラゴンだ、凄い! 絵本で勉強したより、ずっと大きいや! こんなに大きいとご飯もたくさんいるんだろうな。
「オレの嫁だ」
『嫁?! は、あ……あのティフォンが遂に伴侶を見つけたなんて、誰に言っても信じないだろうね』
ふわっと風が吹いた。煙の間から青い色が見える。きらきらして絵本のお姫様の服みたい。
「ドラゴンって、綺麗なんだね」
触ってみたいな。そう思ったら、今度はもっと強い風が吹いた。見たこともない大きさの、青いドラゴンがいる。絵本で見るのと同じ姿だけど、背中に羽がないみたい。首をかしげると、くすくす笑いながらセティが声をかけた。
「悪いが、羽を見せてやってくれ」
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