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89.キスはセティだけ

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 ご飯を食べる前に、ゲリュオンとの距離感というのを教えてもらった。手で触ってもいいが、顔を近づけるのはダメ。抱っこはセティがいなくて、危ない時だけ。ゲリュオンも一緒に約束していた。お熱を測るのも手でやる。

 キスはセティ以外はダメ。これは僕も大きく頷いた。誰ともしない……あれ?

「トムやフォンも?」

「……ダメ」

 トムはよく顔を舐めたりするから、気を付けないとね。セティの膝の上で約束して、僕は座り直した。横向きだとご飯が食べづらいんだよ。セティに背中を向けて、お皿の魚を見つめる。

「赤、綺麗だね」

 焼いたり煮たのは茶色や白っぽいのが多いけど、今日の魚は真っ赤だ。こんな色で泳いでたら目立つんじゃないかな。野菜の上に並んで、油みたいなのがかかってた。くんと匂いを確かめると、上に乗ってる小さな緑の葉は森でよく採ったのと同じだ。

「ああ、生魚だから色が透き通ってるだろ。これを口に入る大きさに切って、野菜と一緒に食べてごらん」

 マリネという食べ方だって。ゲリュオンもセティもいっぱい教えてくれる。初めての食べ物にどきどきしながら切った。柔らかいからすぐに切れる。魚を刺して、野菜も刺すけど……野菜だけ落ちちゃった。何度も挑戦していると、セティが後ろから助けてくれた。

 右手のナイフで乗せるんだ。すっと動いて僕の口の前に運ばれた。ぱくっと食べたら、すごく美味しかった。油みたいなのも果物の匂いがする。すごい!

「気に入ったならよかった」

「用意した甲斐があったってもんだ」

 お礼を言った僕に、ゲリュオンが笑いながら撫でてくれる。今度は自分で食べた。

「体調も落ち着いたし、この街を出るぞ」

 半分以上食べたところで、セティは僕を横向きに抱っこしてしまった。これじゃ残りが食べられないと思ったんだけど、セティが食べさせてくれるみたい。あーんして、食べる。マナーのお勉強は必要ないの? そう聞いたら、お勉強だけじゃ疲れちゃうんだって。まだ僕が知らないこと、たくさんあるね。

「ティターンの騒動も片付いたんだ。そろそろ別行動するか」

「ゲリュオン、いなくなっちゃうの?」

「様子は見に来るさ」

 くしゃっと顔を崩して笑うゲリュオンに僕も笑い返した。顔の大きな傷はもう痛くないみたいだけど、そっと撫でておく。驚いた顔をしたあと、ゲリュオンがお礼を言った。

「予定は?」

「ドラゴンでも見に行こうと思ってな」

「まさか見繕う気か?」

 ちらっと僕へ視線を向けるゲリュオン。あーんしてもらった魚をもぐもぐ噛む僕が首をかしげると、セティの手がそっと戻した。

「いいのがいれば、かな」

 よくわからないけど、ドラゴンは知ってる。絵本に描いてあった。大きい翼のある、空飛ぶやつ! 嬉しくて足を揺すったら、行儀悪いぞと押さえられた。ご飯食べるときは大人しくしないとね。僕が悪かったのでごめんなさいして、また魚をもらった。

「にゃぁ」

 飛び上がったトムが膝で鳴いたけど、すぐに首をままれてベッドへ投げられた。くるっと着地するトムはフォンの腹によじ登って、眠ってしまう。

「ドラゴン、見るの?」

「そうだ」

「楽しみだね」

 そこから果物を食べながら、ドラゴンについて知ってることを話して、知らないことをいっぱい教えてもらった。大きい牙があるみたいだから、僕、噛まれないようにするね。
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