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79.僕の後でごめんね
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猫の籠をもらった。ゲリュオンから受け取ったのは、フォンが入るには少し小さい籠だった。子猫はこの中に入れると教わり、そっとトムを入れてみる。でもすぐに出てきてしまった。
「入らないね」
「これはコツがある」
そういうと、底に布を少し敷いた。覗き込んで匂っているトムは、まだ入らない。昨日僕が着ていたシャツをふわりと籠に入れた途端、トムは飛び込んだ。僕の膝でやったみたいに、両手をもぎゅもぎゅ動かしてシャツを揉む。
「なんで?」
「知らない匂いが怖かったんだろ。イシスの匂いがするからもう平気だ」
言われて、シャツを見る。確かに僕が着ていたから匂いがするのかな? でも……。気になってシャツの袖を掴んで鼻のそばに持って行った。くんと鼻を動かして吸ってみるけど、よく分からなかった。
「何を可愛いことしてるんだ? オレのお嫁様は」
笑いながらセティに抱きしめられる。首にキスをもらって、髪と頬にもくれた。目を閉じて待つけど、唇にはなくて……。首をかしげて目を開けると、ゲリュオンの背中が見えた。あ、ゲリュオンがいたんだっけ。人前では唇にキスしちゃダメ。
慌てて姿勢を正すけど、セティはまだ頬ずりしていた。
「おい、振り返っていいか?」
「いいぞ」
ぶつぶつ文句を言いながら振り返ったゲリュオンは、トムが入った籠を覗いて変な顔をする。選んだのはゲリュオンでしょ? どうしたんだろう。
「なんか、子猫……トムだっけ? が普通なのが怖い」
「普通にしたんだよ」
2人が頭の上で変な会話をしてる。意味が分からないとき、僕は無理に聞かないことにした。僕が知らないことの方が多くて、必要ならセティがちゃんと説明してくれるから。何も言われないときは、無理に覚えなくていいと思う。
「いつまで引き籠ってんだ?」
「そろそろ出るさ。つうか、あの爺いが説明しないで逃げたのが原因だぞ」
むすっとした口調でセティが溜め息をついた。吐いた息が僕の首や髪にかかって、擽ったい。きゅっと首を竦める僕の頭を、ゲリュオンが撫でてくれた。手が大きい。セティより大きいね。
「お前が凄むから逃げられたんだよ」
呆れたと言いながらゲリュオンは、空中から果物を取り出した。あれは夕日の色に近いけど、もう少し黄色い。ナイフもなしで、手をかけて真ん中から割った。お皿を取り出したセティが半分受け取り、僕の膝の上に置く。
甘い香りがする。ジュースみたいに、汁がたくさん出ていた。
「これは手で食べていいぞ」
作法もへったくれもない。笑うゲリュオンに促され、セティが頷いたので、黄色い果物のお皿を口のそばに持ち上げた。匂いに惹かれて果物の真ん中に溜まった汁を吸う。スープと一緒で音をさせなきゃ平気かな。
口の中が凄く甘い。びっくりして顔をあげると、ゲリュオンは果物に顔を突っ込むみたいにして直接齧ってた。そうやって食べるのか。驚きながら真似をしてみる。齧ると柔らかくて、噛まなくてもつるんと飲み込めた。
甘い。美味しい。半分ほど食べて、動きを止める。1つを割ってゲリュオンが片方食べたら、これが最後の果物だよね。お皿ごとセティに差し出す。
「僕の後でごめんね」
「いや。むしろイシスの後がいい」
よくわかんないけど、セティは残りに口をつけてくれた。みんなで分けるのがいいよね。
「入らないね」
「これはコツがある」
そういうと、底に布を少し敷いた。覗き込んで匂っているトムは、まだ入らない。昨日僕が着ていたシャツをふわりと籠に入れた途端、トムは飛び込んだ。僕の膝でやったみたいに、両手をもぎゅもぎゅ動かしてシャツを揉む。
「なんで?」
「知らない匂いが怖かったんだろ。イシスの匂いがするからもう平気だ」
言われて、シャツを見る。確かに僕が着ていたから匂いがするのかな? でも……。気になってシャツの袖を掴んで鼻のそばに持って行った。くんと鼻を動かして吸ってみるけど、よく分からなかった。
「何を可愛いことしてるんだ? オレのお嫁様は」
笑いながらセティに抱きしめられる。首にキスをもらって、髪と頬にもくれた。目を閉じて待つけど、唇にはなくて……。首をかしげて目を開けると、ゲリュオンの背中が見えた。あ、ゲリュオンがいたんだっけ。人前では唇にキスしちゃダメ。
慌てて姿勢を正すけど、セティはまだ頬ずりしていた。
「おい、振り返っていいか?」
「いいぞ」
ぶつぶつ文句を言いながら振り返ったゲリュオンは、トムが入った籠を覗いて変な顔をする。選んだのはゲリュオンでしょ? どうしたんだろう。
「なんか、子猫……トムだっけ? が普通なのが怖い」
「普通にしたんだよ」
2人が頭の上で変な会話をしてる。意味が分からないとき、僕は無理に聞かないことにした。僕が知らないことの方が多くて、必要ならセティがちゃんと説明してくれるから。何も言われないときは、無理に覚えなくていいと思う。
「いつまで引き籠ってんだ?」
「そろそろ出るさ。つうか、あの爺いが説明しないで逃げたのが原因だぞ」
むすっとした口調でセティが溜め息をついた。吐いた息が僕の首や髪にかかって、擽ったい。きゅっと首を竦める僕の頭を、ゲリュオンが撫でてくれた。手が大きい。セティより大きいね。
「お前が凄むから逃げられたんだよ」
呆れたと言いながらゲリュオンは、空中から果物を取り出した。あれは夕日の色に近いけど、もう少し黄色い。ナイフもなしで、手をかけて真ん中から割った。お皿を取り出したセティが半分受け取り、僕の膝の上に置く。
甘い香りがする。ジュースみたいに、汁がたくさん出ていた。
「これは手で食べていいぞ」
作法もへったくれもない。笑うゲリュオンに促され、セティが頷いたので、黄色い果物のお皿を口のそばに持ち上げた。匂いに惹かれて果物の真ん中に溜まった汁を吸う。スープと一緒で音をさせなきゃ平気かな。
口の中が凄く甘い。びっくりして顔をあげると、ゲリュオンは果物に顔を突っ込むみたいにして直接齧ってた。そうやって食べるのか。驚きながら真似をしてみる。齧ると柔らかくて、噛まなくてもつるんと飲み込めた。
甘い。美味しい。半分ほど食べて、動きを止める。1つを割ってゲリュオンが片方食べたら、これが最後の果物だよね。お皿ごとセティに差し出す。
「僕の後でごめんね」
「いや。むしろイシスの後がいい」
よくわかんないけど、セティは残りに口をつけてくれた。みんなで分けるのがいいよね。
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