73 / 321
72.お母さんがいないの?
しおりを挟む
眩しい朝日に、ゆっくり開いた目を一度閉じる。ぎゅっと抱き寄せる腕が嬉しくて、頬を擦り寄せた。セティの匂いだ。目を閉じていると強く感じる。
もう一度ゆっくり目を開いたら、セティの後ろが光っていた。朝日がセティの後ろから差し込んで、まるでセティ自身が光ってるみたい。
「おはよう、イシス」
「おはよ……んっ」
挨拶の途中でキスされる。気持ちいい、うっとりしながら目を閉じた。口の中を舐め、舌を絡められる。セティが唇を離すと、少しひやりとした。濡れた唇が寒い。そう口にする前に、またキスをもらう。
「昨日の怖いのはもう平気か?」
尋ねられて大きく頷いた。僕もう怖くない! セティがいるから、平気だよ。
「それなら良かった。今日はイシスにプレゼントがあるんだ」
「ぷれぜんと」
聞いたことのない言葉だね。でもセティが言うなら、とてもいいことだと思う。にこにこしながらセティにしがみついた。ふと、間に挟まった柔らかい物に気付く。
「あ……フォン!」
「ぬいぐるみのことか?」
「うん、名前はいるから」
狼のぬいぐるみをフォンと呼ぶことにしたんだ。僕もセティに名前をもらった。だから今度は僕が名前をあげる番だ。名前をもらって呼ばれるのは嬉しい。
そうセティに説明した。よく言葉がわからない僕の話を、セティは笑顔で聞いてくれる。それから頭を撫でた。
「気に入ったんだな、安心した。この子も構ってやってくれ」
そう言いながら、セティはベッドの下の籠を引き上げる。覗くと布が敷いてあって、上に金色の毛玉がいた。フォンよりずっと小さくて、僕の片手に乗りそう。じっと見ていると、もそもそ動いた。
「にゃぅ」
顔を上げて変な声を出す。これは何? ふわふわで柔らかそうだけど、触ったら壊れそうだ。
「大丈夫だ、ほら手に乗せてみろ」
「手に……壊れない?」
「壊れない」
抱っこしたフォンを横に置いた。
「少し待ってて」
フォンにちゃんとお願いする。それから両手を籠の中に入れた。ふわふわが手のひらに触る。すごく柔らかくて、気持ちいい。手をゆっくり動かして外へ出した。お水を掬うみたいに、両手で包む。
「これ、なぁに?」
「子猫だ」
子供の猫? 慌ててセティの顔を見上げる。
「どうした?」
「この猫のお母さんはどこ? 帰さないと探してる」
驚いた顔をしたあと、セティは僕の頬にキスをした。子猫を見て、僕をもう一度見る。
「この子猫は親がいない。イシスが育てるんだよ」
僕はお母さん猫じゃないけど、平気かな。この子、僕のこと嫌だって思わない? セティも手伝ってくれる? どうしよう、でもお母さんがいないなんて。
「お母さんを、知らなくても出来る?」
「ああ、もちろんだ」
僕が人に聞いたり絵本から覚えた『お母さん』は、産んでくれる人。笑って抱きしめて、ご飯を作ってくれる人だ。産むのは出来ないけど、あとは僕にも出来そう。
「やってみる」
手の中で毛玉が動いて、ぱっと僕と目があった。ピンクの鼻は小さくて、目はとっても大きい。緑色の目だった。
「名前あるの?」
フォンみたいに名前がなかったら、考えなくちゃ。そう思って聞くと、セティは首を横に振った。
「イシスが付けていい。ゆっくり考えてくれ」
頷いて、毛玉を持ち上げる。子猫は眠いのか……ふわっと口を開けて欠伸をした。
もう一度ゆっくり目を開いたら、セティの後ろが光っていた。朝日がセティの後ろから差し込んで、まるでセティ自身が光ってるみたい。
「おはよう、イシス」
「おはよ……んっ」
挨拶の途中でキスされる。気持ちいい、うっとりしながら目を閉じた。口の中を舐め、舌を絡められる。セティが唇を離すと、少しひやりとした。濡れた唇が寒い。そう口にする前に、またキスをもらう。
「昨日の怖いのはもう平気か?」
尋ねられて大きく頷いた。僕もう怖くない! セティがいるから、平気だよ。
「それなら良かった。今日はイシスにプレゼントがあるんだ」
「ぷれぜんと」
聞いたことのない言葉だね。でもセティが言うなら、とてもいいことだと思う。にこにこしながらセティにしがみついた。ふと、間に挟まった柔らかい物に気付く。
「あ……フォン!」
「ぬいぐるみのことか?」
「うん、名前はいるから」
狼のぬいぐるみをフォンと呼ぶことにしたんだ。僕もセティに名前をもらった。だから今度は僕が名前をあげる番だ。名前をもらって呼ばれるのは嬉しい。
そうセティに説明した。よく言葉がわからない僕の話を、セティは笑顔で聞いてくれる。それから頭を撫でた。
「気に入ったんだな、安心した。この子も構ってやってくれ」
そう言いながら、セティはベッドの下の籠を引き上げる。覗くと布が敷いてあって、上に金色の毛玉がいた。フォンよりずっと小さくて、僕の片手に乗りそう。じっと見ていると、もそもそ動いた。
「にゃぅ」
顔を上げて変な声を出す。これは何? ふわふわで柔らかそうだけど、触ったら壊れそうだ。
「大丈夫だ、ほら手に乗せてみろ」
「手に……壊れない?」
「壊れない」
抱っこしたフォンを横に置いた。
「少し待ってて」
フォンにちゃんとお願いする。それから両手を籠の中に入れた。ふわふわが手のひらに触る。すごく柔らかくて、気持ちいい。手をゆっくり動かして外へ出した。お水を掬うみたいに、両手で包む。
「これ、なぁに?」
「子猫だ」
子供の猫? 慌ててセティの顔を見上げる。
「どうした?」
「この猫のお母さんはどこ? 帰さないと探してる」
驚いた顔をしたあと、セティは僕の頬にキスをした。子猫を見て、僕をもう一度見る。
「この子猫は親がいない。イシスが育てるんだよ」
僕はお母さん猫じゃないけど、平気かな。この子、僕のこと嫌だって思わない? セティも手伝ってくれる? どうしよう、でもお母さんがいないなんて。
「お母さんを、知らなくても出来る?」
「ああ、もちろんだ」
僕が人に聞いたり絵本から覚えた『お母さん』は、産んでくれる人。笑って抱きしめて、ご飯を作ってくれる人だ。産むのは出来ないけど、あとは僕にも出来そう。
「やってみる」
手の中で毛玉が動いて、ぱっと僕と目があった。ピンクの鼻は小さくて、目はとっても大きい。緑色の目だった。
「名前あるの?」
フォンみたいに名前がなかったら、考えなくちゃ。そう思って聞くと、セティは首を横に振った。
「イシスが付けていい。ゆっくり考えてくれ」
頷いて、毛玉を持ち上げる。子猫は眠いのか……ふわっと口を開けて欠伸をした。
63
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる