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70.1発は1発だ(SIDEゲリュオン)

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*****SIDE ゲリュオン



 半分だけ権利をもらったが、タイフォンは間違いなく止めを自分で刺すタイプだ。昔助けてもらった恩があるし、戦いを好む俺は他の神々と折り合いが悪い。仲良くできる数少ない仲間であり、兄貴と慕う強者に逆らう気はなかった。

 破壊と死を司るセト神と対立するなんて、冗談でもぞっとするぜ。絶対にごめんだ。戦いと争いに特化した俺は、元は醜い化け物姿だった。その頃からの付き合いであるタイフォン……おっと、今はセティか……彼は一度も俺を見下さなかった。

「先にもらうぜ」

「図々しいな」

「あん? じゃあ止めをくれるのか」

 首を横に振る。やっぱりそうだろ。最後の止めは自分がやりたい派だと思った。にやりと笑って、掴んだ金髪を引っ張る。痛みに泣き叫ぶ情けない姿に、呆れながら声をかけた。

「痛いって? こうなると知ってて手を出したんだろうが……」

 タイフォンが初めて大切な嫁だと公言し、神族の名を授けた存在――ちょっかいを出すなら相応の仕返しを想定するのが当然だ。元より同族嫌いで有名な最高神だぞ。ひとまず半分をどう分けるか考える。

 精神と肉体を分けると不公平になるし、縦に半分も難しい。となれば、腹の位置で上下か。当然俺が足だろうな。頭を取ったら殴られそうだ。割が悪いが、仕方ない。

 無理やり引きずり上げたアトゥムは、豊穣の神だ。その役割は大地に恵みをもたらし、人々の幸せを願うというもの。誰かを妬んで足を引っ張るような奴に似合わぬ職分だった。生まれながらに与えられた役目と、性格が合わない神は山ほどいるが……。

 顔を整え、常に白い服を着用する綺麗好き――言い方を変えれば潔癖症だ。大地の守り手の一人に数えられるくせに、汚れることを極端に嫌った。その延長で、本性が醜かった俺もかなり攻撃されたもんだが、立場は完全に逆転だ。

「腹から下にするけどよ。顔に1発だけいいか?」

「早くしろ」

 タイフォンはイシスに夢中で、可愛いと言いながら頬を撫でていて話半分だった。口角を持ち上げて笑い、大きく振りかぶる。

「や、やめ……ぐぎゃあああああっ!」

 金髪が切れるのも気にせず後ずさろうとしたアトゥムの顔面に、全力で蹴りを入れた。殴られると思って拳を警戒したアトゥムの手は頭を庇う。分かってたから、下から蹴ったのだ。鼻の骨と歯が数本折れたか? 大量の血が靴の先を濡らした。

「よしっ!」

 ぐっと拳を握ると、タイフォンが問いかける眼差しを寄越した。俺は胸を張って平然と言い返す。

「1発は1発だ」

「はあ……まあいい。さっさと終わらせろ」

 イシスの頬にかかった黒髪を指先で弄りながら、ぬいぐるみに抱き着く子供の頬に頬を押し付けている。機嫌は悪くなさそうだ。今のうちに足を折って、腰骨まで砕くか。手早くしないと、夜明けまでに終わらないからな。
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