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61.我慢してきてよかった

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 僕の仕事はセティと一緒にいて、抱っこする。そうしたら仲良くなるお呪いをしてもらえて、もっとセティと近くなる。目を輝かせてそう尋ねたら、セティが「よくできた」と頭を撫でてくれた。

 手を繋いでご飯を買って宿に帰る。顔を上げるとセティが気づいて笑ってくれた。ぎゅっと力を込めて握ると、大切そうに僕を抱き上げてくれる。

 僕はずっと1人で繋がれてた。誰も僕を抱っこしてくれなかったけど、それってセティに抱っこしてもらう為だったんだと思う。セティは僕をお嫁さんだって言った。贄なんだって――僕は知ってる。贄は神様に捧げる物だよ。だからタイフォンの神様であるセティは、贄の僕をもらってくれた。

 僕、我慢してきてよかった。セティの贄に選ばれてよかった。

「先に食べようか」

 お風呂は後と聞いて、宿の部屋の机に向かう。でもセティはその手を掴んで、ベッドの上に座らせた。待っている僕の前に、机が運ばれてくる。椅子の代わりにベッドを使うの? でも高さが合わないけど。顔の前にある机の板が邪魔で、上の物がよく見えない。

 背伸びしようとした僕を抱っこしたセティは、自分が座った膝に乗せてくれた。セティの顔が近くなって、机もちょうどいい。嬉しくて笑顔になった僕の髪にセティがキスをした。

「昨日は騒がしい飯だったし、今日はゆっくり食べような」

「ありがとう」

 僕のためなんだね。それがすごく嬉しくて、胸がじわっと温かくなる。擽ったくて叫びたいような変な感じがした。よくわかんないけど、嬉しすぎるとなる。体中が温かくて気持ちよくて、腰の辺りがじゅんとした。変なの。

「あーんだ」

 スプーンを手にした僕だけど、全部セティが運んでくれる。スープを飲んで、それから白い魚を食べて、卵が乗った草も食べた。パンに魚を挟んでもらったので、スプーンを置いて両手で食べ始めた。真ん中を切ったパンを齧ると、下から汁が手に垂れる。

「ん……」

 汚れちゃう。買ってもらった服の上に白い布を掛けてるけど、汚くなったら困る。パンを持ったまま慌てて小指の辺りを舐めた。そうしたら斜めになったパンから魚が落ちそうになって、大急ぎでそっちを齧る。

「こりゃ忙しい」

 くすくす笑って、パンを置く皿を出された。ぎゅっと握ったから手の跡がついたけど、置くとふんわりと膨らむ。それを銀の細長いナイフで半分に切ってくれた。見ているとまた半分にして小さくなる。

「これなら口に入るか? ほら」

「あーん」

 口を開けて、小さくなったパンと魚をいっぺんに頬張った。口がいっぱいになって、もぐもぐと動かす間動けなくなる。ジュースのコップが近くに置かれた。飲みたいけど、口を開けたらパンが出ちゃいそう。必死で噛んでいくと顎が疲れた。

 だいぶ噛んでから飲み込んで、ようやくジュースを飲む。喉が渇いたら、いつもより甘くて美味しく感じた。

「セティも、あーん」

 残ったパンを掴んで口に入れる。セティの口は大きいから、僕より早く食べ終わった。汚れた手をぺろぺろ舐めていたら、口の辺りを押さえたセティが「我慢だ」と呟いた。よくわかんないけど、押さえていた場所は口じゃなくて鼻だったみたい。
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