61 / 321
60.セティの隣にいるのが仕事
しおりを挟む
宿を出て屋台でご飯を食べて、もらったジュースを飲みながらセティの隣に座る。今日は空が雲に覆われていて、灰色だった。噴水の近くにあるベンチに座った僕の前を、忙しそうに人間が歩いていく。手に道具を持っていたり、大切そうに箱を抱えた人もいた。
「あの人達、何してるの?」
「仕事だな。あっちは家を作ったり直す人、こっちは何か売ってる人か」
セティの説明に、仕事という聞きなれない単語が入っていた。その意味がよくわからない。前に神殿に来た人が「仕事じゃなきゃ誰があんたの面倒なんて!」って怒ったことを思い出した。僕の面倒は誰かの仕事だったの? じゃあ、今はセティの仕事になったのかな。ずっと一緒にいてくれるし。
見上げると困ったような顔をして、唸るセティがいる。
「仕事ってのは……働くことだ。誰かのために働いたら、相手がその分のお金をくれる。今度はお金を払って、別の人の仕事に対価を払う。ああ、っと……対価が分からないよな」
説明が難しいとセティが眉を寄せた。すごく悪いことをした気になる。怒られたときみたいな感じがした。僕が分からないからセティが困ってる。僕が悪いんだ。
「ごめ、なさ……」
もう捨てられちゃうかもしれない。僕は面倒だから置いていくんだと思う。じんと目の奥が痛くて顔をきゅっとしかめたら、いきなり抱っこされた。手に持っていたジュースが地面に落ちちゃう。伸ばした手は間に合わなくて、ジュースのコップが転がった。
足元にオレンジ色の水たまりが出来る。でも僕はちゃんと見ていなかった。だってセティが痛そうな顔で僕を抱っこしているんだ。きっとケガしたに違いない。どこが痛いんだろう、すごく辛そう。僕が代わりに痛くなればいいのに。
「イシス、お前は悪くない。こうしてイシスを抱っこすると痛みも消える」
「抱っこで、いいの?」
セティが頷いたから、僕は必死で手を背中に回した。大きい背中全部に届かないけど、出来るだけ抱っこ出来るように。早く大きくなってセティを全部抱っこして、痛くなくなるといいな。そうしたらセティは僕を一緒に連れてってくれるでしょ?
「可愛いこと言うなよ」
理性が……とか、聞いたことない言葉を並べるセティの胸に顔をうずめて、僕は一生懸命抱き着いていた。このまま溶けちゃいたい。
「例えばイシスがご飯を用意するだろ、そのお礼にオレがお金を払う。これが仕事の仕組みだ」
「でもご飯はいつもセティがくれる」
「ああ、うん。たとえ話自体が通じないか。じゃあ、あの子を見てみろ」
セティが指さす先に小さな子供がいた。たぶん僕と同じくらいの大きさの子。草をたくさん持っていて、お店に入っていく。出てきた時にはきらきら光る金属を持っていた。
「今の子供は森で薬草を採ってきて、お店の人に売る。これが仕事だ。そのあと光るお金を持っていただろ? あれが対価。あのお金があれば、子供はご飯が食べられるし住むところも手に入る。どうだ?」
理解できたかと問うセティに頷き、ゆっくり頭の中を整理した。対価はお金、お金があればご飯が買える。お金をもらうために仕事をすればいい。あれ? おかしいな。僕は仕事してないよ。
「僕は仕事しないのに、どうしてご飯食べたの?」
セティの言う通りなら、僕はご飯食べちゃダメだ。仕事してないもの。
「仕事ならしてるさ。イシスはオレの贄で嫁だ。隣にいてオレを抱きしめるのが仕事だぞ」
そのために仲良くなるお呪いもしてるだろ? くすくす笑うセティの顔を見上げ、僕はようやく安心した。一緒にご飯食べて、セティの隣にいてもいいんだよね。
「あの人達、何してるの?」
「仕事だな。あっちは家を作ったり直す人、こっちは何か売ってる人か」
セティの説明に、仕事という聞きなれない単語が入っていた。その意味がよくわからない。前に神殿に来た人が「仕事じゃなきゃ誰があんたの面倒なんて!」って怒ったことを思い出した。僕の面倒は誰かの仕事だったの? じゃあ、今はセティの仕事になったのかな。ずっと一緒にいてくれるし。
見上げると困ったような顔をして、唸るセティがいる。
「仕事ってのは……働くことだ。誰かのために働いたら、相手がその分のお金をくれる。今度はお金を払って、別の人の仕事に対価を払う。ああ、っと……対価が分からないよな」
説明が難しいとセティが眉を寄せた。すごく悪いことをした気になる。怒られたときみたいな感じがした。僕が分からないからセティが困ってる。僕が悪いんだ。
「ごめ、なさ……」
もう捨てられちゃうかもしれない。僕は面倒だから置いていくんだと思う。じんと目の奥が痛くて顔をきゅっとしかめたら、いきなり抱っこされた。手に持っていたジュースが地面に落ちちゃう。伸ばした手は間に合わなくて、ジュースのコップが転がった。
足元にオレンジ色の水たまりが出来る。でも僕はちゃんと見ていなかった。だってセティが痛そうな顔で僕を抱っこしているんだ。きっとケガしたに違いない。どこが痛いんだろう、すごく辛そう。僕が代わりに痛くなればいいのに。
「イシス、お前は悪くない。こうしてイシスを抱っこすると痛みも消える」
「抱っこで、いいの?」
セティが頷いたから、僕は必死で手を背中に回した。大きい背中全部に届かないけど、出来るだけ抱っこ出来るように。早く大きくなってセティを全部抱っこして、痛くなくなるといいな。そうしたらセティは僕を一緒に連れてってくれるでしょ?
「可愛いこと言うなよ」
理性が……とか、聞いたことない言葉を並べるセティの胸に顔をうずめて、僕は一生懸命抱き着いていた。このまま溶けちゃいたい。
「例えばイシスがご飯を用意するだろ、そのお礼にオレがお金を払う。これが仕事の仕組みだ」
「でもご飯はいつもセティがくれる」
「ああ、うん。たとえ話自体が通じないか。じゃあ、あの子を見てみろ」
セティが指さす先に小さな子供がいた。たぶん僕と同じくらいの大きさの子。草をたくさん持っていて、お店に入っていく。出てきた時にはきらきら光る金属を持っていた。
「今の子供は森で薬草を採ってきて、お店の人に売る。これが仕事だ。そのあと光るお金を持っていただろ? あれが対価。あのお金があれば、子供はご飯が食べられるし住むところも手に入る。どうだ?」
理解できたかと問うセティに頷き、ゆっくり頭の中を整理した。対価はお金、お金があればご飯が買える。お金をもらうために仕事をすればいい。あれ? おかしいな。僕は仕事してないよ。
「僕は仕事しないのに、どうしてご飯食べたの?」
セティの言う通りなら、僕はご飯食べちゃダメだ。仕事してないもの。
「仕事ならしてるさ。イシスはオレの贄で嫁だ。隣にいてオレを抱きしめるのが仕事だぞ」
そのために仲良くなるお呪いもしてるだろ? くすくす笑うセティの顔を見上げ、僕はようやく安心した。一緒にご飯食べて、セティの隣にいてもいいんだよね。
63
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる