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55.短いスカートが好きか?
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宿の中のお店で食べたのは、最初の街だけ。だからきょろきょろしてしまう。大きな人がたくさんいて、僕は埋もれそうだった。セティと手を繋いでないと、どこへ行っちゃうか分からない。
隅っこのテーブルでベンチになった椅子に座る。セティと並んで座れるのかと思ったら、セティは向かい側にある椅子に座った。僕は奥の壁際に座る。隣があいたので、隣に座らないのかな? と見上げた。困ったような顔をして、セティが顔を寄せる。
「向かい合わせの方が近いだろ。あーんも出来るし、な」
隣だとあーんがしづらい。セティはいろいろ知ってる。頷いた僕の髪を撫でて、セティは店の人に注文した。女の人で、短いスカートだった。膝のところまで見えてて、神殿の人なら「はしたない」って言うかも。でも足がすらっと長く見える。
「イシスは短いスカートが好きか?」
じっと見ていたら、お店の人は手を振って行ってしまった。目で追いかけたせいか、セティがぶすっとした顔で尋ねる。どうしたんだろう、機嫌が悪い……気分が悪いなら大変だけど。
「短いスカート、見たことなかった」
寒くないのかな。そう思うけど、ひらひらした踊るリボンみたいな部分は綺麗だと思う。絵本のお姫様の格好と似ていた。ぼんやりと絵本を思い浮かべる。内容はよくわからないけど、お姫様はひらひらした服だったはず。
「そっか。絵本にはなかったか」
「うん。お姫様は足の下までスカートあった」
少し考えて、セティがウィンクして寄越す。すごくカッコいいし、器用だなって感心した。僕も後で練習してみよう。
「イシスはスカート着てみたい?」
「僕が着てもいいの?」
セティが天井を見て考え込んだが、すぐに頷いた。さっきの機嫌悪い顔じゃなくて、楽しそうに笑ってる。だからわくわくした。ひらひらした服を着たら、セティはもっと笑ってくれるかも。僕のことを好きになって、一緒にいてくれたら嬉しい。
なぜかセティは鼻を押さえて慌ててたけど、そこにご飯が運ばれてきた。
「白身魚と香草のスープ、黒糖パン、それから羊肉のローストだよ」
にこっと笑うと、お店の人も笑ってくれた。ご飯はすごくいい匂いで、美味しそうだ。湯気が出てるのは、熱いご飯だから注意しないと。また舌が痛くなる。小さな器に移してもらったスープは、森でセティと摘んだ草の匂いがした。すっきりした匂いの薄い色のスープにスプーンを入れる。
「あーん」
先に匙を差し出すセティに、慌ててスプーンを離して口を開けた。熱くなくて痛くない。柔らかい魚が入ってきて、すぐにばらばらになった。噛まなくても魚が崩れていく。不思議な感じで頬が緩んだ。すごく美味しい。ぴりっとする何かが入ってて、それも美味しかった。
「美味しい!」
「よかった。ほら」
もう一度あーんして、また魚ごとスープを口の中で潰す。不思議な感じでわくわくした。黒いパンはいつも見る野営のパンより色が濃い。掴むと柔らかかった。ひとつ掴んで小さく千切り、口に入れたら甘い。ほんのり甘いのが嬉しくて、残ったパンを千切ってセティの前に差し出した。
「セティもあーん」
「ずいぶん、綺麗なガキ連れてるじゃねえか。兄ちゃん」
セティの後ろから来た大きなおじさんが近づく。手にしていたパンを落とし、僕は隅っこで小さく丸くなった。
隅っこのテーブルでベンチになった椅子に座る。セティと並んで座れるのかと思ったら、セティは向かい側にある椅子に座った。僕は奥の壁際に座る。隣があいたので、隣に座らないのかな? と見上げた。困ったような顔をして、セティが顔を寄せる。
「向かい合わせの方が近いだろ。あーんも出来るし、な」
隣だとあーんがしづらい。セティはいろいろ知ってる。頷いた僕の髪を撫でて、セティは店の人に注文した。女の人で、短いスカートだった。膝のところまで見えてて、神殿の人なら「はしたない」って言うかも。でも足がすらっと長く見える。
「イシスは短いスカートが好きか?」
じっと見ていたら、お店の人は手を振って行ってしまった。目で追いかけたせいか、セティがぶすっとした顔で尋ねる。どうしたんだろう、機嫌が悪い……気分が悪いなら大変だけど。
「短いスカート、見たことなかった」
寒くないのかな。そう思うけど、ひらひらした踊るリボンみたいな部分は綺麗だと思う。絵本のお姫様の格好と似ていた。ぼんやりと絵本を思い浮かべる。内容はよくわからないけど、お姫様はひらひらした服だったはず。
「そっか。絵本にはなかったか」
「うん。お姫様は足の下までスカートあった」
少し考えて、セティがウィンクして寄越す。すごくカッコいいし、器用だなって感心した。僕も後で練習してみよう。
「イシスはスカート着てみたい?」
「僕が着てもいいの?」
セティが天井を見て考え込んだが、すぐに頷いた。さっきの機嫌悪い顔じゃなくて、楽しそうに笑ってる。だからわくわくした。ひらひらした服を着たら、セティはもっと笑ってくれるかも。僕のことを好きになって、一緒にいてくれたら嬉しい。
なぜかセティは鼻を押さえて慌ててたけど、そこにご飯が運ばれてきた。
「白身魚と香草のスープ、黒糖パン、それから羊肉のローストだよ」
にこっと笑うと、お店の人も笑ってくれた。ご飯はすごくいい匂いで、美味しそうだ。湯気が出てるのは、熱いご飯だから注意しないと。また舌が痛くなる。小さな器に移してもらったスープは、森でセティと摘んだ草の匂いがした。すっきりした匂いの薄い色のスープにスプーンを入れる。
「あーん」
先に匙を差し出すセティに、慌ててスプーンを離して口を開けた。熱くなくて痛くない。柔らかい魚が入ってきて、すぐにばらばらになった。噛まなくても魚が崩れていく。不思議な感じで頬が緩んだ。すごく美味しい。ぴりっとする何かが入ってて、それも美味しかった。
「美味しい!」
「よかった。ほら」
もう一度あーんして、また魚ごとスープを口の中で潰す。不思議な感じでわくわくした。黒いパンはいつも見る野営のパンより色が濃い。掴むと柔らかかった。ひとつ掴んで小さく千切り、口に入れたら甘い。ほんのり甘いのが嬉しくて、残ったパンを千切ってセティの前に差し出した。
「セティもあーん」
「ずいぶん、綺麗なガキ連れてるじゃねえか。兄ちゃん」
セティの後ろから来た大きなおじさんが近づく。手にしていたパンを落とし、僕は隅っこで小さく丸くなった。
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