55 / 321
54.宿に着いたら
しおりを挟む
約束通り起こしてくれたセティのキスの後、僕の口には飴が入っていた。唇が離れるのと同じくらいのタイミングで、ころんと飴が口に押し込まれる。大きくて丸いのが飴だと思ってたけど、これは形が違った。長細いのかな? 両側は細いけど、真ん中は膨らんでいて……。
「食べ物の形だぞ。わかるかな?」
くすくす笑うセティに答えたくて、飴を右へ左へ転がす。セティが聞くんだから、きっと食べたことある物の形だ。洞窟の神殿を出てから食べた物を思い浮かべる。早くしないと飴が小さくなっちゃう。必死で転がす飴に僕は夢中だった。
手を繋いで歩く僕に、門番は目を向けない。何やら書類を確認しながら、セティに話しかけた。
「魔術師だ」
「協力を要請したい事件がある」
「子連れなので断りたい」
「……そうだな、他の魔術師を当たってみるよ」
「助かる」
門番とのやり取りが耳に飛び込むが、僕はそれどころではなかった。この形、何だろう。飴は少しずつ溶けて小さくなる。甘酸っぱい果物の味……あ、わかった!
門を通過したセティが歩き出し、僕は慌ててセティの手を揺らした。
「その顔は、わかったんだな」
笑いながら鞄をしょい直し、僕を抱き上げた。両手を首に回してしがみつき、笑いながら口を開けて見せる。かなり小さくなった飴は、もらったときの半分くらいだった。
「黄色い果物! 買ったあと宿で食べた」
名前は知らないから、覚えてる言葉で説明する。にこにこと聞いたセティが「正解だ」と頬を擦り寄せた。初めて出会った頃みたいに、じょりと髭が擽ったい。首を竦めた僕は、いけないことを願った。セティが顔を近づけたとき、キスしてくれると思ったのに。
人の前でキスするのは良くないのかな。とがった唇を、セティが指で押し戻した。
「宿に着いたらだ」
宿に着いたら……? またお部屋を借りたら、中でキスしてくれる? 嬉しくなってへにゃりと笑う。少し乱暴に撫でるセティの手が嬉しくて、待ちきれない。宿の人に部屋を頼んだセティと手を繋いで歩き、今日は階段を上る部屋に入った。
僕は部屋に入るなり顔を近づける。軽く触れて、頬や額、顔中にキスが降ってきた。笑いながらベッドに寝転がって、またキスをしてもらう。やっぱり部屋の中ならキスしてもいいんだ! セティが穢れになった僕を嫌いになったんじゃなくて、安心した。
欲しがる僕はきっと汚くて、穢れってそういう意味だと思うけど……セティが隣にいてくれて、キスしてくれたら汚れても平気だった。
唇が疲れるくらい、何度もキスする。舌も吸われて噛まれて、痺れていた。でも足りない。もっとセティが欲しいよ。ずっと一緒にいられるよう、セティの一部になっちゃえばいいのに。
「イシス……」
呼ぶ声がとても気持ちよくて、うっすら目を開けてセティと見つめあう。そのとき、ぐぅ……とお腹が変な音を立てた。ぷっと笑ったセティの表情が柔らかくなって、ぐいっと起こされ膝の上に抱っこされる。
「ご飯食べようか」
まだ笑い続けるセティに、なんだか恥ずかしくなって俯く。それでもお腹が空いたのは事実で、今日は宿のお店で食べると言われたから。僕はセティと手を繋いで部屋を出た。
「食べ物の形だぞ。わかるかな?」
くすくす笑うセティに答えたくて、飴を右へ左へ転がす。セティが聞くんだから、きっと食べたことある物の形だ。洞窟の神殿を出てから食べた物を思い浮かべる。早くしないと飴が小さくなっちゃう。必死で転がす飴に僕は夢中だった。
手を繋いで歩く僕に、門番は目を向けない。何やら書類を確認しながら、セティに話しかけた。
「魔術師だ」
「協力を要請したい事件がある」
「子連れなので断りたい」
「……そうだな、他の魔術師を当たってみるよ」
「助かる」
門番とのやり取りが耳に飛び込むが、僕はそれどころではなかった。この形、何だろう。飴は少しずつ溶けて小さくなる。甘酸っぱい果物の味……あ、わかった!
門を通過したセティが歩き出し、僕は慌ててセティの手を揺らした。
「その顔は、わかったんだな」
笑いながら鞄をしょい直し、僕を抱き上げた。両手を首に回してしがみつき、笑いながら口を開けて見せる。かなり小さくなった飴は、もらったときの半分くらいだった。
「黄色い果物! 買ったあと宿で食べた」
名前は知らないから、覚えてる言葉で説明する。にこにこと聞いたセティが「正解だ」と頬を擦り寄せた。初めて出会った頃みたいに、じょりと髭が擽ったい。首を竦めた僕は、いけないことを願った。セティが顔を近づけたとき、キスしてくれると思ったのに。
人の前でキスするのは良くないのかな。とがった唇を、セティが指で押し戻した。
「宿に着いたらだ」
宿に着いたら……? またお部屋を借りたら、中でキスしてくれる? 嬉しくなってへにゃりと笑う。少し乱暴に撫でるセティの手が嬉しくて、待ちきれない。宿の人に部屋を頼んだセティと手を繋いで歩き、今日は階段を上る部屋に入った。
僕は部屋に入るなり顔を近づける。軽く触れて、頬や額、顔中にキスが降ってきた。笑いながらベッドに寝転がって、またキスをしてもらう。やっぱり部屋の中ならキスしてもいいんだ! セティが穢れになった僕を嫌いになったんじゃなくて、安心した。
欲しがる僕はきっと汚くて、穢れってそういう意味だと思うけど……セティが隣にいてくれて、キスしてくれたら汚れても平気だった。
唇が疲れるくらい、何度もキスする。舌も吸われて噛まれて、痺れていた。でも足りない。もっとセティが欲しいよ。ずっと一緒にいられるよう、セティの一部になっちゃえばいいのに。
「イシス……」
呼ぶ声がとても気持ちよくて、うっすら目を開けてセティと見つめあう。そのとき、ぐぅ……とお腹が変な音を立てた。ぷっと笑ったセティの表情が柔らかくなって、ぐいっと起こされ膝の上に抱っこされる。
「ご飯食べようか」
まだ笑い続けるセティに、なんだか恥ずかしくなって俯く。それでもお腹が空いたのは事実で、今日は宿のお店で食べると言われたから。僕はセティと手を繋いで部屋を出た。
32
お気に入りに追加
1,205
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
人生に脇役はいないと言うけれど。
月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。
魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。
モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。
冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ!
女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。
なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに?
剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので
実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。
でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。
わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、
モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん!
やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは
あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。
ここにはヒロインもヒーローもいやしない。
それでもどっこい生きている。
噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。
法律では裁けない問題を解決します──vol.1 神様と目が合いません
ろくろくろく
BL
連れて来られたのはやくざの事務所。そこで「腎臓か角膜、どちらかを選べ」と迫られた俺。
VOL、1は人が人を好きになって行く過程です。
ハイテンポなコメディ
【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います
ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。
それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。
王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。
いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~
てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」
仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。
フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。
銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。
愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。
それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。
オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。
イラスト:imooo様
【二日に一回0時更新】
手元のデータは完結済みです。
・・・・・・・・・・・・・・
※以下、各CPのネタバレあらすじです
①竜人✕社畜
異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――?
②魔人✕学生
日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!?
③王子・魔王✕平凡学生
召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。
④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――?
⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる