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50.早く飽きればいいのに(SIDEアトゥム)

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*****SIDE アトゥム



 あの破壊と死の神タイフォンが、生贄を大切にしているなんて――どの神に話しても信じてもらえないと思う。目の前で見た僕だって、まだ信じきれてないんだから。目の錯覚であって欲しい。

 確かに純粋な子だ。神殿の奥で蝶よ花よと育てられる巫女や神子とは比べ物にならない。透明で純粋、どこまでも真っ直ぐだった。それでも粗雑なタイフォンが固執するような魅力は感じられない。

 同じ黒髪と紫の瞳を持つのは、タイフォンの贄の条件だから当然だ。違う色を持っていたら、生贄として捧げられたりしない。数十年前の贄は無視したのに、どうして今回は拾ったんだろう。

 純粋な興味で近づいたら、威嚇された。神殺しの気配を纏いながら、豊穣の神である僕を脅したんだ。神格だけならタイフォンは最上級だけど、ほとんどの能力を眠らせてるくせに。

 タイフォンは、拾った子にイシスと名付けた。それは神に授ける名で、人の子につけてはいけない。響きに力を宿す名は、神以外が名付けることは不可能だった。影響を受けて子供が変質したらどうするのさ。

 目が離せなくて、ちょっかいを出しては叱られ。それでもやっぱり気になる。そんな時に呼ばれたら、好奇心旺盛な若い僕は顔を出してしまう。だってまだ5千年くらいしか生きてないから、感情の起伏が人間みたいなんだよ。退屈が嫌いで好奇心旺盛。

「ねえ、あの国を亡ぼすの?」

 神は信徒の数が重要だ。人々に崇められるほど、その能力は強くなり枝となる手数が増える。忘れられた神は、徐々に能力が衰えて眠りについてしまうらしい。だから信徒は大切にしないと……そう考える僕を嘲笑うように、タイフォンは己を信仰する国を切り捨てた。

 他の神々は関わるなという。タイフォンは別格なのだと――その意味は分からないけど、彼の傲慢な振る舞いは心惹かれる。自慢の金髪を引っ張り、指先でくるりと回した。

 もし、この髪が黒ければ……少しは僕を見てくれた? 恋占いに興じる人間の女のような考えに、自分でも笑ってしまう。それでも、紫の瞳だったら目を合わせてくれたのかな? って思った。

 圧倒的な強さを持ち、誰にも媚びずに我が道を行く。同じ神に分類されるのに、信徒だって僕の方が多いのに、全然勝てない。震えが来るような強さを誇るタイフォンは今、大切な子供がいて……。

 まあいいや、どうせあの子供は人間だから。数十年もしたら飽きられる。年老いて醜くなれば、彼も隣に置こうとしないでしょ? 僕にはまだ長い時間があるから、待ってあげるよ。

 タイフォンは薄々気づいてるみたい。僕を信仰する国がちょっかい出してる理由は、神託が原因なんだ。ウーラノス国も、ティターン国も、どちらも遊び道具に過ぎないけど……。

 本気で戦うタイフォンを見られるなら、信徒が少し減っても構わない。僕がこれだけ譲歩したんだから、どこかの都ひとつくらい消して見せて欲しいな。

 あーあ。早く、その生贄に飽きればいいのに。
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